スマホの利用で右肩下がり

スマホを使うとバカになる。

極論すればこうなる調査結果が、2014年6月5日発売の「週刊文春」で報じられました。自宅での勉強が30分未満でスマホをやらない生徒と、勉強は2時間以上でスマホを4時間以上使う生徒を比較したとき、勉強時間の少ない前者の方が、成績が良かったのです。

宮城県の仙台市教育委員会と、東北大学加齢医学研究所の共同調査による「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」で明らかになったもので、プロジェクトの座長を務めるのはDSソフト「脳トレ」シリーズを監修した川島隆太教授。詳しい調査結果は、仙台市のホームページで見ることができ、勉強時間の長短を問わず、スマホの使用が1時間を越えると、成績はほぼ同じ落下放物線を描くことも確認できます。

学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト

果たしてこの傾向は「学生」だけのものでしょうか。

脳の退化と電話番号

人体の最後のフロンティアと呼ばれていた「脳」も解明がすすみ、脳は「使えば使うほど活性化する(良くなる)」というのはもはや常識です。反対に使わない機能は、退化していきます。それを実感するのが「電話番号」です。

友人、恋人、会社、取引先など、昭和時代には「電話番号」は「暗記」するものでした。この脳機能はガラケーの普及により退化しました。いま、自宅の電話番号を「知らない」と答える子供は珍しくありません。親が子供にスマホを与える際、メモリーに登録してしまうからです。

パソコンが普及し、ワープロソフトがコモディティ化すると、社会人から漢字を書く能力が失われました。さらにいまの大学生は卒論すら「スマホ」で執筆すると言われ、「漢字を書く」という脳の機能のピークは、大学受験までとなりつつあります。日常生活において「手書き」が求められても、忘れた漢字はスマホを使って検索するので、とくに不便はありません。また記憶する代わりに写メをとるユーザーも増えており、スマホの多用により記憶力が退化することは自然の流れです。スマホの多用による「脳の退化」は学生だけの傾向ではないことが見えてきます。

2秒ルールが鍛える脳力

かつては出発前に、目的地までの道順を調べて覚え、あるいは地図を片手に右往左往したものです。この過程を通じ、記憶力や洞察力、判断力など、様々な脳機能が鍛えられたものです。それがスマホのGPS機能により、直進右左折の指示に従うだけで到着するようになります。すると「条件反射」で事足ります。

さらにガラケー時代の学生には、

「3分ルール」

というものがありました。着信した電子メールは、3分以内に返信するというルールで、当時女子高生だった姪の返信の早さに驚いたものです。これがスマホが普及し、チャットアプリ「LINE」の利用がスタンダードになった現在、チャットの返信は

「10秒ルール」

とされ、「2秒以内」という説もあります。2秒に「論理的思考」を表現する余地を見いだすのは難しく、鍛えられるのは「条件反射」です。

つまりスマホに依存するライフスタイルは、記憶力や論理回路を退化させ、条件反射ばかりを発達させ、本来多機能である「脳」の用途を限定する「脳0.2」ということです。そしてこの傾向は「ネットの住民」にも見て取れます。

スマホの学習効果

ネットの住民は、ネットを批判するものを嫌います。19世紀の産業革命による機械化で、仕事を奪われると不安に駆られた労働者が、産業機械の「打ち壊し」をした「ラッダイト運動」になぞる声もあります。自動車が登場した時代、馬車に固執した人々のようだと罵る人もいます。批判を嘲笑する連中は、工場が環境を汚染し、自動車が多くの人を傷つけ、そしてどちらも規制されるようになった事実には口を閉ざします。というより、気づかないのでしょう。条件反射ばかりが発達したネットの住民は、全文を読んで理解するという「論理的思考」の訓練が欠如しているからです。

川島教授はスマホの学習効果にも注目しています。

スマホの利用時間が1時間未満の場合、自宅での勉強時間が30分未満と、2時間以上のグループにおいて成績の上昇が見られると指摘します。これを裏付けるかも知れないデータは、仙台市の提供する資料にもありました。すべての層において、平日にパソコンを1時間未満利用したときの成績の伸びが顕著なのです。つまり、上手につき合えば、スマホやパソコンは、学習効果を高め「脳2.0」へと引き上げてくれる可能性があるということです。この指摘に賛同しながらも、どうしても悲観的になってしまうのは、取り巻く周囲の環境を論理的に分析してのことです。それは警鐘を鳴らすべき文科省は「電子黒板・教科書」の普及に前のめりで、批判すべきメディアは総じて、ドコモ、au、ソフトバンクといった「スマホで儲かる人々」からCM=金を貰う立場を喜び、むしろ「スマホ依存」を歓迎するインセンティブが働いているからです。

エンタープライズ1.0への箴言


「スマホ依存は脳の機能を限定する…かも」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」