悲報 9月30日で終了

フジテレビのネットサービス「イマつぶ」が今月末で終了します。「イマつぶ」とはフジテレビ限定のツイッター。番組への感想がリアルタイムに寄せられ、イマつぶユーザー同士の共感を誘い、視聴率へとつなげる狙いがあったのでしょうが、わたしがフジテレビを見なくなった理由のひとつは「イマつぶ」です。

韓流のゴリ押しや、公共の電波を使って自己宣伝を繰り返す、フジテレビの番組作りも不愉快でしたが、それより腹立たしいのが「イマつぶ」でした。平日の午前に放送される情報バラエティ番組「ノンストップ」の画面では、イマつぶ(番組内では「せきららボイス」と呼ぶ)への投稿が随時更新されます。「ニュース速報」を筆頭に、画面上に更新される文字情報は重要というのがテレビ視聴のお約束。更新された「イマつぶ」を目が追い、意識を奪われ、出演者の話しを聞き逃します。ところがそこには「うんうん」「そうそう」「だよね」「かわいー」。くだらないとすら言えないほど

「どうでもいいコメント」

そして、フジテレビから遠ざかります。

客の声を聞いたのか

素人の声ならネットに溢れています。それをわざわざテレビで見たいとは思いません。ツイッター、ブログ、フェイスブックと素人の声が氾濫するネットに対して、テレビに代表されるメディアに期待するのはしっかりとした編集や演出であり、整理された情報なのです。

朝の情報番組「めざましテレビ」でもイマつぶ(同、めざつぶ)がテロップで表示され、わざわざキャスターが読み上げます。そこから得るものなどなにひとつありません。さらに独自アプリを使い番組内で、しきりにリアルタイムのアンケートを取ります。「視聴者(客)の声」に耳を傾けているという演出かも知れませんが、緊急性の高いものを除いた番組内でのアンケートとは「取材」をサボっているにすぎません。集めた視聴者の声や、アンケート結果をもとに、専門家に意見を求め、結果に沿った映像を作る作業を「番組づくり」と呼ぶからです。そして大好きな「今日のわんこ」も見なくなりました。

それでは「イマつぶ」が求めた「客の声」とはそれほど重要なのものでしょうか。このことを考えるとき、いつも近所のパチンコ店を思い出します。

パチンコ屋の目的は

質問や要望を集め、店側からの回答を添えて掲示する「客の声」の企画は様々な業種でみかけます。スーパーマーケット、ペットショップ、ホームセンターなど、いまはツイッターやフェイスブックで同種の企画を散見します。「イマつぶ」の目的のひとつもここにあったのでしょう。そしてこの企画はパチンコ店でたびたび見かけます。

パチンコ店とは端的に言って「賭場」です。客は小金を稼ぎにやってきています。いきおい客の声には「出ない(当たらない)」「損した」「バカ野郎」と悪口ばかりが集まります。誹謗中傷だけを掲示するわけにもいかず、「客の声」が捏造されるのはよくあることです。ところが近所のパチンコ店「Z」は、本当の「客の声」を集めてしまいました。

トイレの個室に一冊ずつノートが置かれました。店の感想や希望をお書きくださいというものです。個室という閉ざされた空間から、客も本音を書きやすいだろうという狙いです。狙いは当たりノートが炎上します。物理的にではなく、ネットスラングにおける「炎上」で、店員Aがターゲットにされます。

フジテレビの凋落

堂々とした立ち居振る舞いが傲慢に見えたのか「態度が悪い」と指摘されます。態度は主観の問題に過ぎません。かつてのフリーター時代、パチンコ店で働いていたことがありますが、台を叩く客を注意すると、クチのきき方が悪いと逆ギレする客がいる世界です。ページをめくるとAへの悪口が補足され続けます。負けた腹いせも否めません。ページが進むにつれ中傷は過激になり、なぜかAの休日の行動まで晒されています。これはスタッフの仕業でしょう。ネットでの企業攻撃も、身内からのリークが火をつけることが少なくありません。

ほどなく「ノート」は中止されました。Aの解雇を求める主張でノートが埋め尽くされたからです。経営者側からみて、勤務態度に問題の無いAを首にするのは困難で、仮に解雇しても、別の店員が標的にされれば同じことです。「客の声」は状況にかかるバイアスに流されるもので、パチンコ店においてはAをイジメることが目的化してしまったのです。ベクトルは正反対ですが「イマつぶ」も同じです。番組内で紹介されるコメントとは、褒め言葉、賛意、応援ばかりです。そうしたバイアスのかかった「客の声」に接していては、本当に視聴者が望む番組作りなどできるわけがありません。つまり「イマつぶ」そのものが0.2だったのです。フジテレビの視聴率凋落の理由を見る思いです。

ちなみに「ウジテレビ」とも揶揄されるフジテレビへの批判なら、「2ちゃんねる」や「ツイッター」に散乱しており、「イマつぶ」を終了しても「本当の客の声」を聞くことは容易です。

エンタープライズ1.0への箴言


「客の声にもバイアスがかかる」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~

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定価:300円
内容紹介:政治マニアで軍事オタクでロリコン。彼らが創り出すのがネット世論。ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある。
そしてネットは政治家も有権者も「幼児化」させる。ネトウヨも放射脳も幼児化の徒花だ。
ネット選挙の解禁により、真面目な議員は疲弊し、誤報や一方的な思いこみを繰り返すものが政治家になった。
山本太郎氏の当選とは「政治の食べログ化」によるものなのだ。