輝く! バカ発見器

ツイッターなどネット上に相次ぎ投稿される「バカ写真」。コンビニのアイスケース(展示冷凍庫)に、従業員が入った写真が公開されて以来、宅配ピザ店ではピザ生地を顔面に押しつけ、蕎麦屋では食洗機に入って遊ぶ様子が、バンズに寝転ぶ写真を提供したのはハンバーガーショップのアルバイトで、ラーメン店からは食材のソーセージを咥えながら、備品の窃盗を告白する女子高生が表れます。さらに、この夏の猛暑のせいか、ステーキハウスのスタッフが冷蔵庫に逃げ込む姿が激写されます。

バカ写真が公開される理由を、ネットのなかの著名人「イケダハヤト」氏は「安いアルバイト代」を理由に掲げ、安い店だから店員の質の悪さも我慢しろと結論づけます。あまりにも短絡的で浅い洞察ですが、こんな彼でも著名人になれるのが現代という「時代性」です。そしてこの時代性に目を向けない限り「バカ写真」がなくなることはありません。

本題にはいる前にイケダ氏の指摘する「安いアルバイト代」の誤りについて事実を持って指摘しておきます。大人気の朝の連続テレビ小説『あまちゃん』において、主人公の母「春子」が、昭和60年に原宿の喫茶店で働いていたときの時給が550円。同時代の足立区のファミレスが490円。安いアルバイト代だった足立区のファミレスで「バカ写真」が乱舞したという事実はありません。

金で買えるもの、買えないもの

写メやスマホがなかったという技術的な話しではなく、人のモラルは「カネで買える」ものではないからです。そもそもカネでモラルが買えるのなら、大銀行や官僚様、ひいては政治家様に、上場企業の創業者様のモラルは聖人君子でなければ説明がつきません。ネットから拾ったイケダ氏のプロフィールを見る限り、アルバイト経験も社会人経験も乏しいようですが、少ない経験、足りない洞察からの結論を堂々と公開できるのもネット社会という時代性であり、バカ写真を公開するアルバイトと同じメンタリティを見つけます。

騒動のきっかけとなった四国のコンビニでは、犯人がコンビニオーナーのご子息だったことにより、フランチャイズ契約を解除されてしまいました。また、ステーキハウスは店舗を閉鎖し、当該スタッフへの損害賠償を検討していると報じられます。悪ふざけの延長によるもので、それにしては処分が厳しいという声もあります。しかし、厳しい処分を下したのは総計10件以上の事件の中で、たった2件です。ステーキハウスはわたしの地元足立区で、周辺店舗と比較すると若干割高な料金設定。さらにこの店舗は、次々とテナントが変わる言わば「客付きの悪い店」。想像に過ぎませんが、バカ写真が引導を渡したとはいえ、不採算店を閉めただけの可能性もあるのです。コンビニについても、四国と言えばこの春に業界最王手のセブンイレブンが進出してきています。厳しすぎる対応の背景に、忍び寄るライバルへの不安という別の理由が見え隠れします。

そもそも、店舗閉鎖をもって「バカ写真」を止めることは困難です。

公共空間の共通認識

バカ写真のような事件が起こると、有識者はしたり顔で「ネットは公共空間」と語ります。しかし、公共空間への認識が変わったことも「時代性」です。電車内が公共空間であることに誰も異論を挟まないでしょう。その公共空間で化粧というプライベートな作業を完遂する女性がいる時代です。にもかかわらずネットのなかだけで、公共性を叫んでも通じるわけがありません。

バカ写真を止める鍵とはやはり「時代性」です。フリーターという単語が一般的に使われ始めた90年代。自慢にもなりませんが、3年ちょっと「フリーター」をやっていました。当時、染髪はNGで金髪は論外です。男性の長髪を認めるところは少なく、接客が伴う職場なら、就業時間中のピアスは男女問わずに禁止です。「みだしなみ」という視点から無精ヒゲは人間性が疑われ、タトゥーは前科が疑われました。面接時はもちろん、就業マニュアルにも明記されていたものです。しかし、大企業の社員が無精ヒゲを生やしピアスをするいま、アルバイトにこれらすべてを禁じる職場は希です。マニュアルは時代性を表す鏡といっても良いでしょう。

マニュアルの意味とは

つまり現代版の「マニュアル」が必要ということです。例えばこんな感じ。

  • 冷蔵庫にはいってはいけません
  • 食器洗浄機にはいってはいけません
  • 食材で遊んではいけません

当たり前と嘆くでしょうか? しかしマニュアルに記された「挨拶」や「手洗い」を見て、昭和時代は嘲笑したものです。常識とは時代により変化し、変化した時代性をマニュアルは盛りこまなければならないのです。だからこの一文は不可欠です。

  • 職務に関するいかなる内容もツイートしてはいけない(LINE、フェイスブックなども同様)

つまり、いまの時代性においてアルバイトを採用するなら、上記のようなマニュアルが不可欠であり、それが欠けていた「マニュアル0.2」ということです。自発性のなさからマニュアルを遵守する傾向が強い、いまどきの若者という「時代性」からも不備はマニュアルにあると見ています。なぜなら時代性において、バカの下限に合わせて作るのが正しいマニュアルだからです。

エンタープライズ1.0への箴言


「マニュアルは底辺を基準に作るもの」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~

著:宮脇睦
フォーマット:Kindle版
ファイルサイズ:950KB
発行:2013/7/10
販売:Amazon Services International
ASIN:B00DVHBEEK
定価:300円
内容紹介:政治マニアで軍事オタクでロリコン。彼らが創り出すのがネット世論。ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある。
そしてネットは政治家も有権者も「幼児化」させる。ネトウヨも放射脳も幼児化の徒花だ。
ネット選挙の解禁により、真面目な議員は疲弊し、誤報や一方的な思いこみを繰り返すものが政治家になった。
山本太郎氏の当選とは「政治の食べログ化」によるものなのだ。