ネット時代にネットを利用しない0.2

中高生の51万人が「ネット病的使用」と、厚生労働省研究班の調査で明らかとなりました。割合にすると8.1%。わたしの周囲を見る限り、実際の割合はもっと多いように感じます。中高生にもなれば質問から答えを推察して、回答を「選ぶ」ものもいて、そこでマイナス評価に繋がる回答を避けたのではないかと睨んでいます。若者の空気を読む能力は、年々向上しているのです。なにより、あれほど彼らにとって楽しいツールを病的に利用しないわけがありません。そして病的な利用を見逃しているのは「育児放棄」です。

昭和時代の子供は某清涼飲料水を飲むのと骨が溶けると親から脅かされました。健康被害がでるとしたら、異常な過剰摂取によるもので、言葉だけ見ればデマと同じレベルですが、これは好きな物だけを摂取し続けることを戒める教育だったのです。スマホを使ったからと骨が溶けることはありませんが、心的ストレスや学業の放棄などに繋がる可能性は高く、それを放置しているとは、すなわち「育児放棄」なのです。

ちなみに、本件の基礎データを求め、厚生労働省に問い合わせたところ、報道関係者にしか情報開示しておらず、ネットで公開していないとのことで「0.2」。中高生がネット依存になる時代に、中高生への警告情報をネット上で開示しないのですから。

ネット黎明期の思い出

彼女の電話番号を暗記し、告白のためにかけた電話で、ひとことも言葉がでずにイタズラ電話と勘違いされ、口汚く罵る彼女の声に絶望した記憶など、今の中高生には無縁でしょう。連絡先の交換はいまならLINEのIDだけで成立します。そして告白はメールで済ませるのがスタンダードです。雑誌に掲載された懸賞当選者のなかに、同級生の名前を探して潰す暇など、いまの中高生にはないでしょう。スマホからニコ動やユーチューブに接続すれば、アッと今に無駄な時間を浪費できるからです。

子供は欲望に素直で、自制が苦手です。夏休みの宿題を計画通りに進める子供が少数派であることが雄弁に語ります。手のひらに収まるスマホという「おもちゃ箱」があれば、それにハマるのが自然です。だから親の責任が問われるのです。ネット病的使用のニュースに接し、インターネット普及期に知り合った建築会社のA社長を思い出します。

リサーチ&マーケティングだって

戦後復興からバブル崩壊まで、土地と株は下がらないという「神話」があったように、多少の波はありながらも、一貫して右肩上がりを続けてきたのが建築業界です。だからバブル崩壊も一過性のもので、しばらく我慢すれば景気は回復するだろうと見ていたのです。それが甘いものだと気づき始めたのが、Windows 95が登場し、インターネットが普及して以降のことです。「勝ち組」「負け組」という表現が使われ始め、もはや業界全体で等しく潤う時代はこないとA社長も悟ります。そこでインターネットに注目し、若手社員をひとり担当者として配置します。

すぐに担当者の残業が増えました。情報収集という理由で、業界人が集うとされるチャットや掲示板に常駐するようになったのです。たまに役立つ情報を見つけることもありますが、大半は内輪ネタと愚痴、そして怪情報です。しかし、日頃、同僚や取引関係者といった見知った顔としか接していない担当者にとっては刺激的な空間でした。なによりネットという最先端ツールを使うことで、最新情報に接していると錯覚したのです。当時も今もネット上に最新情報が掲載されるというのは錯覚です。冒頭の厚労省のように、必ずしも最新情報が公開されているとは限らないのです。

選択的な利用法の享受

当時のネットは、接続時間に応じた従量料金で、担当者の残業代に加えて接続料金もかさみます。見合った効果がでていないと指摘すると、「それでも、これからはネットの時代だ」と担当者は逆ギレします。そこでサクッと担当者の首を切れるのが中小企業の経営者です。ただこの経験からA社長はネットを「役立たず」と認定し、その利用は21世紀の今になっても止まったままになっている0.2です。A社長にとっては、この損失が一番大きいかも知れません。

ネットはしょせん道具に過ぎません。情報収集にしても、具体的にどんな情報を入手させるのかを指示し、不用な利用を禁ずるのがA社長の仕事でした。中高生のネット利用についても同じことが言えます。いまどきの中高生にスマホやガラケーを含めネットを利用するなというのは現実的ではありません。しかし、道具の使い方を教えるのは親や保護者の仕事なのです。ネットはクリックひとつで、仕事と遊びを行き来でき、息抜きの合間に仕事をすることなど造作のないことです。会社員と思われるアカウントが、ツイッターで連投している姿を見つけるたびにA社長の決断もあながち間違いではないのかと考えることがあります。

この春、高校生になった姪はスマホを持ち、LINEをインストールして、文字通り四六時中、ネットに接続しています。先日も親戚の集いで、挨拶もろくにせずスマホをいじり続けていました。だから、来年からお年玉をあげない予定です。目の前にいる人をないがしろにする行為は、人生において損をするという教育のために。

エンタープライズ1.0への箴言


「使い方を制限するのも教育…そして仕事も」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は6月11日に発行された電子書籍「完全ネット選挙マニュアル それは民主主義の進化か、それとも自殺か」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~

著:宮脇睦
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発行:2013/7/10
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定価:300円
内容紹介:政治マニアで軍事オタクでロリコン。彼らが創り出すのがネット世論。ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある。
そしてネットは政治家も有権者も「幼児化」させる。ネトウヨも放射脳も幼児化の徒花だ。
ネット選挙の解禁により、真面目な議員は疲弊し、誤報や一方的な思いこみを繰り返すものが政治家になった。
山本太郎氏の当選とは「政治の食べログ化」によるものなのだ。