最強のビジネスツール

Twitterの息切れも顕著となり、Facebookは妄想以上に…もとい、想像以上に伸びず、技術系SNSのLinkedInはもちろん、ライブ中継のUstreamも一般的な拡がりは見せず、一方、クローズドなSNSとも呼べる「LINE」が快進撃し、一括りにすることで、それぞれのパワー不足を補おうとしたのが昨今の「ソーシャルメディア」の喧噪です。「ソーシャルメディア」とは懐かしの「Web2.0」であり、さらには「インターネット」そのものであることはここだけの秘密。名前を変えて「新製品」と騒ぐのはWEB業界の悪ふざけです。

その化けの皮、いや実像が見えてきました。日経新聞の2013年2月22日の朝刊に「販促でのソーシャル活用度」という見出しで、系列の「日経BP」によるソーシャルメディアでの活動が、どれだけ購買に繋がったかの調査結果を紹介します。「購入・利用した」という割合が前回に比べ4%低下し、12.6%にとどまりました。ファンの拡大が商品購入者の割合を下げたと結論づけますが、これがソーシャルメディアの真実です。経済効果は喧伝されるほど高くないのです。

ソーシャルメディアを泳ぐ人々

日経BP社が指摘するように、購入割合が下がった直接の理由が「ファンの拡大」であることは事実です。ならば購入者という「分子」が増えていないことは致命的な事実です。Twitterが流行し始めた頃、次々とビジネス的な成功事例が報告されましたが、仮にビジネス成功例が「真実」ならば「続報」があってしかるべきです。ところが続報は数えるほどもありません。そこから導き出される結論は、Twitterの経済効果とは、期間限定の異常事態であり、ブームや偶然と呼ぶものにすぎなかったのです。それは「アーリーアダプター」と呼ばれる、平たく言えば「ミーハー」の消費行動を一般論として語っていたWeb業界人の不見識の証明です。

N氏はWeb業界では多少の有名人。いま焦りを感じています。ソーシャルメディアで儲からないからです。テクニカルライターとしてスタートした彼の経歴は、21世紀のWeb業界史です。ブログの流行が伝えられるとその解説本に参加しました。出版業界の近くに居たという偶然が、彼の運命を変えたのです。特に「作文」が上手かったわけではありませんが、極論すれば箇条書きから「解説文」に変換するのは「編集者」の仕事で、コラムや評論を発表している著名人でも、「無惨な原文」を著するひとは少なくありません。編集の手が加わらない「ブログ」と比較すると、その実力は明らかです。

華麗なる経歴も

すぐにSNSの風が吹き始めます。Facebookが上陸するはるか前から国内にはミクシィやGREEがあり、これを開発するためのツールや環境が続々登場します。ヒルズ族を代表した「ライブドア」が強制捜査を受ける2006年を迎えるまでは、IT業界と言えば濡れ手に粟の一攫千金がある世界という幻想から、関連本がとにかく多く出版され、N氏はその多くに絡みます。惜しむらくはヒット作に恵まれなかったことです。

Facebook、Twitter、LinkedInにGoogle+。来るもの拒まずと執筆を重ね、喰うには困らぬ生活を過ごせているのは幸運といえるのでしょうか。しかし、3時間5万円のギャラで呼ばれた地元の商工会主催の講義の帰り道、自分に問いかけます。「なにが違うのだろうか」と。

ソーシャルメディアでの交流はいまも昔も変わりません。むしろ活発になっているように感じます。編集者とは打ち合わせ以外にもやり取りし、ライター仲間との情報交換も積極的に行っています。ところがそこから仕事が広がりません。多くの成功例を耳にするだけに、現状維持の自分に苛立ちを覚えるのです。

金になる木の土壌

ソーシャルメディアの醍醐味とは「人のつながり」です。それをビジネスにおいてわかりやすい言葉に置き換えれば「コネ」。つまり「コネ」こそがソーシャルメディアのビジネス利用における神髄です。Twitterでどれだけ絡んでも、リアルの面識がなければ発注は躊躇われ、少なくとも一度は対面してから次の段階へと進みたいと願うのが人情です。実際にN氏がいまも受注を受けるのは、リアルでの接点があった人が大半で、自らを鑑みれば答えは明らかなのですが、ソーシャルメディアを礼賛しつづけた記憶がそれを認めようとしない「ソーシャルメディア0.2」です。どれだけTwitterで絡んでも、Facebookで何十回と「いいね!」をクリックしても、一度の「名刺交換」には勝てません。

実はソーシャルメディアがビジネスに役立つ業界は出版や芸能界、セミナーにWEB業界と限られています。こうした業界に共通するのは「コネ」が最強の営業ツールとなるということです。ちなみに先の「講師」の仕事も、地元企業の社長の「コネ」でえた小遣い稼ぎです。

先に紹介した同じ日の日経新聞3面には「ネット広告1兆円超へ」とあります。電通の集計によるもので、ヤフーの新型広告などが紹介されています。コネ以外が重要な「普通の商売」の世界においては、「広告」が、活発に利用されているということであり、ソーシャルメディアより効果が高いことを暗示しているのではないでしょうか。

エンタープライズ1.0への箴言


「ソーシャルメディアを最大活用するキーワードは"コネ"」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」