知人と錯覚して電話セールスで浪費

「ミヤワキ社長はいらっしゃいますか?」 事務所に名指しの電話がかかってきます。面識がある人なのかと思って電話口に出ると、電話の主は「ホームページをリニューアルしませんか?」と切り出し、プロモーションから手がけることで、売上を倍増させると矢継ぎ早に語ります。電話番号をどうやって知ったのかを訊ねると、「御社のホームページを見ました」とのこと。

すっかり物書き稼業の仕事が増えたとはいえ、ホームページ制作の業務を継続している小社の能力を心配し、有難くもかしこくもお電話をかけていただいた……わけではなく、セールスの電話です。最近のテレアポは名前付きの名簿をもとにしているので、油断をすると時間を浪費させられます。

そこまでホームページ制作に自信があるなら、ネットからの集客だけで充分だろう――とは言いません。いまだにリアルの接点により成約率が高まるのは事実です。しかし、セールストークにあるように結果を出しているならば、見知らぬ他人に電話をかける必要はなく「紹介」だけでビジネスは成り立つものですがね。

何度か指摘しましたが、Web業界は「0.2」の巣窟です。豊富なネタの中から、今回は「リスティング広告……代理店0.2」を紹介します。

料金を半減、結果は倍増

小社を心配してくれる「ネット企業」は多く、週に2~3本は「ホームページを見た」と電話がかかってきます。それはほぼ嘘で、市販されているテレアポ用の「名簿」をもとに電話かけてくるのですが、なかには本当に「ネットで検索」をしている企業もあります。都内でエステサロンを経営するIさんの下に「ネットで検索」したと電話がかかってきたのは、寒さが忍び寄ってきた昨年の11月初旬です。

「広告費を半分にして露出を倍にします」

Iさんは検索結果に連動して表示されるリスティング広告を利用しており、毎月の費用が30万円を超えていました。東日本大震災以降、客足が遠のき、コスト削減を考えていた矢先ということもあり飛びつきました。この業者を仮にM社とします。もちろん、実在の企業のイニシャルではありません。

M社の説明では、独自のノウハウでキーワードを抽出して検索エンジン企業の認定代理人の資格を持つことから、同じ予算でも倍の露出を実現できるというのです。早速、翌月からの契約を結びます。

表示されない広告

開始当日、Iさんは出稿していた広告アカウントを停止します。代理店の説明によれば、数時間で業者が管理する新しい広告に切り替わるとのこと。仕事に追われ、すっかり忘れて翌日に確認すると、まだ表示されていません。

担当者に電話をかけると、他のキーワードでの出稿は確認できているが、メインのキーワードだけが審査に時間がかかっていると言い、現在、総力を上げて対応に当たっているので1~2日待って欲しいと電話の向こうで懇願します。

しかし3日経っても表示されず、M社の担当者は一時凌ぎに「以前のアカウントを復活させてほしい」と言ってきます。広告が表示されなくなり客足も途絶えていたので、Iさんはアカウントをすぐに再開し、1時間後には広告が表示されました。その翌日、意気揚々と審査が通ったと担当者から電話が入り、アカウントを停止するとまた表示されなくなりました。つまり、業者の広告に切り替わらなかったということです。契約から1週間後、Iさんの忍耐はガマンの限界を越え契約を解除しました。

ここで種明かししましょう。リスティング広告の費用を半分にして、露出を倍にするだけなら簡単なことで、ノウハウも何もいりません。リスティング広告は「キーワード」に入札されることから、入札されない「不人気なキーワード」なら単価を抑えることができます。不人気なキーワードとは、検索数の少ないものですが、その分、数を増やせば「露出」は増えるというカラクリです。

認定の本当の意味

そもそもリスティング広告の性質上、認定代理店が扱った広告が検索エンジンの表示結果で有利になることはありません。代理店の「依怙贔屓」がまかり通れば、検索結果への不信に繋がるからです。第一、個人商店でも気軽に出稿できるのがリスティング広告の魅力で、小口の広告を理論上無限大に集めることができるビジネスモデルの否定となります。代理店とは、「公式」という印象を与える、いわば「箔付け」にすぎません。

Iさんの広告が表示されなかったのがその証拠。この時期、リスティング広告の仕組みが大幅に変更されており、それに対応できていなかったのです。また、システムの移行期にトラブルはつきもので、顧客利益を優先するなら、この時期に新しいことを試みるのは避けるべきだったと、ホームページ制作業の人間としてアドバイスしておきます。

そもそも、リスティング広告だけで売上を倍にできるなら、自身がそこから集客し利益を出しているはずで、電話で売り込む必要はありません。それでもM社は今日もネットで検索をします。それは「営業先」を見つけるため。検索結果に映しだされる「リスティング広告」は、既に広告を出稿している見込み客となります。NTTが発行するタウンページに広告を掲載すると、日本全国から売り込みの電話が鳴るのと同じです。

こうした0.2なリスティング広告会社の見分け方は簡単です。企業の採用欄に

「飛び込み営業、新規開拓営業経験者歓迎」

とあれば0.2な会社と見て間違いはありません。この手の会社はノルマが厳しく、社員の入り替わりが激しいことから営業マンを「常時採用」しているからです。

エンタープライズ1.0への箴言


「発注の前に採用情報をチェック」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi