元は行き過ぎた商業主義への批判から生まれたもの

「ソーシャル・マーケティング」とは、今から40年前の1970年にマーケティングの権威であるフィリップ・コトラーにより提唱されました。もちろん、そんな昔にツイッターやFacebookはありません。彼の言う「ソーシャル・マーケティング」は社会的利益に焦点を当てたマーケティングを指し、行き過ぎた商業主義への批判から生まれたものです。

しかし、40年を経た今日、メディアが加わり「超商業主義」に変貌しています。そう、ツイッターやFacebookといった「ソーシャルメディア」を利用するマーケティングが「ソーシャルメディア・マーケティング」と言われています。具体的にはこんな方法が挙げられます。

友人や知人の「いいね!」という評価は、商品の推薦と同じ効果が期待できる

これは本当です。他人の意見に左右されやすく、横並び意識の強い日本人には有効な手法です。しかし、友人や知人への信頼や親近感を無断で「商用利用」することであり、自覚のない一個人に販促の片棒を担わせています。つまり、個人の価値観を可視化する仕組みにより生まれた「超商業主義」です。

「人脈」を「金脈」に替えられるSNS

さらに、ソーシャルメディア・マーケティングでは「人脈」を「金脈」にすることが推奨されます。それは、知人や友人を辿ってお客やビジネスパートナーを探せというもので、平たく言えば、人間関係のマネタイズ(換金)です。人脈の活用は古典的なビジネス手法ですが、Facebookでは「ともだち」の「ともだち」が可視化されており、金になりそうな人脈だけをチョイスできるのが「超商業主義」と言える点です。

前回登場した税理士のKさんのホームページには、ブログの案内があり、ツイッターのアカウントが貼られ、Facebookへの誘導があります。紆余曲折を経た今、「ソーシャル・マーケティング」を提唱しているのです。もちろん「メディア」が脱落した誤用ですが、「コラボ」と同様に、自分が得しそうな情報に飛びつく機動性の高さは一周回って尊敬してしまうほどです。

ソーシャルメディア・マーケティングは業界により向き不向きがあります。販売台数や製品のスペックなど、数値化しにくい商品やサービスを扱う業種では、それぞれの費用対効果(いわゆるお得度)を評価するのは困難で、「誰々さんの紹介」「知り合い」といった「可視化された人脈(あるいは「いいね!」の数)」のほうがわかりやすく、高い効果を期待できます。

特オチを嫌う業界にはピッタリ

税理士もソーシャルメディア・マーケティングに適したビジネスです。企業活動におけるカネの流れから、時には愛人へのお手当まで把握することになる税理士の紹介者は、とても重要な意味を持つからです。正しく「人脈が金脈」になる超商業主義の世界です。

ちなみに、ソーシャルメディア・マーケティングに適している業界では、同業者の誰もが持っている情報を取りこぼす「特オチ(「特ダネ」の反対)」は致命傷となりかねません。「人脈」とは両刃の剣で、業界内での「常識」を知らないという悪評は瞬時に業界内に伝播します。それを回避するために、彼らは四六時中つるんでは「情報交換」をしています。

その場として、時間も場所も問わずにつるめるツイッターやFacebookは最適です。これは、コンサルタント、作家やタレントも含めたマスコミ業界、そしてWeb業界にソーシャルメディア信奉者が多い理由と重なります。

ソーシャルメディア・マーケティングには「コミュニティ」という手法もあります。この手法はざっくりと言えば、会員や仲間を集めコミュニティを創り出すことで、顧客ロイヤリティ(忠誠心)を高めて客の囲い込み(他社製品への乗り換えを抑制する)を狙うものです。「友の会」や「ファンクラブ」から繋がる古典的なマーケティング手法で、個人が気軽に情報発信できる「ソーシャルメディア」の普及により、再発見・再評価されたというほうが正しいでしょう。

情報発信の内容が子育て日記では……

Kさんはこの「囲い込み」を目指しました。月1回はクライアント企業を訪問しているのですが、Facebookなら毎日お客と接することができます。媒体を介した接触でも、顔すら出さない取引先よりは、はるかに顧客ロイヤリティを維持できます。ソーシャルメディアの正しい使い方の1つです。もっとも、これはハガキでもファクスでも同じ効果を期待でき、ソーシャルメディアの専売特許ではありません。

前回紹介したようにKさんのお客の多くが高齢者。どれだけFacebookが簡単だと繰り返しても、取り組むことはありませんでした。それでもひるむことなく、Kさんは啓蒙活動を続けます。なぜならKさん自身が、Facebookで大学時代の同級生、税理士を目指した専門学校時代の旧友との再会、そして彼らとの活発な交流をネット上行っているのですから。

しかし、活動も虚しくKさんのソーシャルメディア・マーケティングは0.2です。毎日のように更新する情報が「子育て日記」だからです。「中学生になった長男の部活はどうか」、「小学生の次女を塾に通わせるべきか」など、同年配の旧友は同じ悩みを抱えており自然と交流は活発になりますが、それは「マーケティング」ではありません。もちろん、個人が気軽に情報発信でき、交流しているその姿は「ソーシャルメディア1.0」。本来の活用法ということです。

そもそも、個人のつながりをより容易にして活発にできる「ソーシャルメディア」を「マーケティング」に活用しようという姿勢が「0.2」で、フィリップ・コトラーも泉下で苦笑いをしているのではないでしょうか。

エンタープライズ1.0への箴言


「ソーシャルメディアによるマーケティングは業界を選ぶ」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi