「Facebook大ブレイク」の舞台裏

「disる」という言葉をご存じでしょうか。ヒップホップなどのミュージックシーンで使われる言葉で、尊敬するという意味の「respect(リスペクト)」の前に、否定の「Dis」をおくことで「尊敬できない」。そこから、相手を否定するニュアンスで使われます。

私は各種Webサービスについて「disっている」と批判されます。拙著『Web2.0が殺すもの』での指摘もそうでしたが、Web専門情報サイトの連載がネットの住民の機嫌を損ねるようです。

例えば、「Facebookを利用している企業は84%」と紹介すれば、Facebookが大ブレイクしていると思う人が多いでしょう。しかし、この数字はソーシャルメディアを活用する企業の上位50社に絞った調査結果で、スポーツ特待生で構成された陸上部部員だけで計測した50メートル走の平均タイムが、一般学生の走力とかけ離れているように一般論ではありません。

そもそも、上位50社のランキングも、Webに関する調査やプロモーションを手がけるベンダーの独自基準から出されたもので、日本でのFacebookの実像を表すというには語弊があるのです。

こうした冷静な指摘を行うと、ネットの住民に「disる」と非難されます。

Facebookページの企業利用の割合は18.6%

今回は本連載初の続編で、前回のロジスティクス企業のO社長のお話です。O社長は友人から聞きかじった「ソーシャルメディア」に熱を上げ、Twitter、Facebook、Google+にミクシィページに取り組めと部下に指示します。ところが、結果が伴いません。そこで、O社長自らが「なかの人」になります。「なかの人」とは、企業アカウントで情報を発信する担当者です。

私は以前、街角の小さな広告代理店に勤めていました。10年前に独立し、Web専業に切り替えたのは、今後のマーケティングにおいてWebは不可分となると確信したからです。名もなき零細企業でも大企業と肩を並べ、無名の新人でも有名作家と互して人気を争うことができるWebの可能性を誰よりも信じています。だからこそ、冷静に分析します。

Facebookの企業利用に関して、「Facebookページの利用率は18.6%」という調査結果もあります。これはWebプロデュース会社 「ビー・オー・スタジオ」が東証一部上場企業1,674社を調べた結果(2011年9月12日発表)で、保有企業でも、3割は更新が滞り放置しているそうです。

統計学的には、先に紹介した調査結果よりもこちらのほうが普及Facebookの普及の実情を表していると考えられます。ちなみに、Webにおいて、利用率が低いことはネガティブ要因ではありません。その理由は後ほど。

調査結果は作り出せるもの

2割にも満たない利用率が、8割以上に跳ね上がるのは統計の魔法です。ソーシャルメディアを活用している企業にFacebookの利用率を問えば、その数字が高くなるのは当然で、分母の切り口で「調査結果」という数字をコントロールするのは広告代理店では常識です。

例えば、「"つぶやき"と言えばTwitter」という結論を導くには、インターネットで調査を行わなければならず、間違っても、おばあちゃんの原宿「巣鴨地蔵通商店街」で聞き取り調査してはダメだということです。

人は自分が信じる者にすがりたいものです。俗に「ネットの住民」と呼ばれるほど、Webに依存する生活をしている人間が、客観的な事実に基づいた指摘であっても、夢から目覚めよと揺さぶる声に嫌悪感を覚えるのは、半ば本能です。そして、冷静な声を「disる」と罵倒することで心のバランスをとります。

O社長もネットの住民。Web上に散乱する数多くの成功事例だけを記憶し、ソーシャルメディアでの成功を疑いもしません。つぶやいてもつぶやいても、Facebookで共通の趣味の人間を見つけ「絡んで」みても仕事に繋がることはないのですが。

どんな状況でも売る

前回も指摘したようにFacebookは個人のコミュニケーションを促進するツールで、企業の販促に特化したものではありません。アイ・エム・ジェイの調査では、Facebook利用者の半数が、企業が開設したFacebookページに訪問していません。また、ネットコミュニケーションという視点で見れば、すでにミクシィや2ちゃんねるを経験している日本人にとって「先進性(目新しさ)」を感じるものではないのです。

先ほどの上場企業の利用実態から「時期尚早」と進言するF氏に、O社長は「参加者が少ない今がチャンス」と力強く反論します。Web業界のセールストークに洗脳された「ネットの住民0.2」です。

2割前後の普及率なら「キャズム越え」、4割で「間もなく市場を制す」、そして5割を超えると「乗り遅れないように」と、どんな状況でも絶賛、礼賛するセールストークをWeb業界では「解説」と呼び、0.2なネットの住民が洗脳されます。

こうした「解説」は、Webを一般社会に浸透させようとしていた20世紀の名残。金メッキで輝かせてでも、Webに目を向けさせようとした先人達の「芸風」です。しかし、もうWebは日常に溶け込みました。いつまでも金メッキを金と言い張っていては、いつかは相手にされなくなりますし、金メッキには金メッキの利点があります。

だから、私は「dis」るのです。それが「解説」ではなく、「広告」として発表されているなら、 広告代理店出身としてはニタニタして見守るのですが。

エンタープライズ1.0への箴言


「Webの解説はセールストーク」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi