非実在青少年は安全か? 情報操作の影

政府が主催する玄海原発の運転再開に向けた説明会で意見や質問を受け付けたところ、九州電力が社員や関連会社に運転再開を容認する主旨のメールを送るように指示していたことが発覚し「やらせメール」として問題となっています。誉められた行為ではありませんが、「反原発団体」による大量メールを懸念しての対抗手段とする理由が挙がったことには、Web業界に関わる者として言葉を飲んでしまいました。ネットでは、特定の考えに傾倒している集団の行動により「世論」が作られることが珍しくないからです。

例えば、「非実在青少年」という東京都の東京都青少年の健全な育成に関する条例」にあるキーワードを「ネットで検索」するとネガティブな意見ばかりが表示されます。表現の自由を侵し、官憲による検閲が常態化しかねず、さらには戦争へ……と飛躍するものも珍しくありません。

ネットでの反応を見た知人はこの条例「どちらかと言えば反対」という立場でした。そこで、彼に問題とされた「エロ漫画」を見せました。姉弟、兄妹での近親相姦や乱交が事細かに描写され、購入時の年齢制限はなく、小学生でも購入できる作品です。ネットの情報は「規制反対ばかりが論じられ、具体例を見たことがなかったと賛成に転じました。

ネット情報に偏りはつきもの、特に経営に生かす場合は注意が必要です。

トランプ大の紙片が数千円に

子ども達の間でトレーディングカード(以下、トレカ)が息の長いヒットアイテムとなっています。メージャーリーガーやNBAの選手が印刷されたトレカに加え、日本ではプロ野球カード、仮面ライダーカード、ちょっと変わったところでは「ビックリマンシール」のように、主に蒐集、交換目的で集められていたトレカに、ゲーム性が加わり「トレーディングカードゲーム」と区別されることもあります。

遊び方はカードそれぞれに刻まれた能力を駆使しての対戦です。トランプの大富豪でたとえるなら、カード上にある数字が大きいほど強いのですが、「King(13)よりA(1)や2が強い」といったようなカード同士の相性があり、また同じカードをまとめたり、連番にしたりするなどの「組み合わせ」で強さが変化するといったゲーム性がトレカの魅力です。

ゲームの世界観を守るため、強力なカードは少数しか販売されず「レアカード」と呼ばれており、中古市場では1枚数千円、1万円を超えるカードもあります。これに目をつけたのが、古本販売を行うO社長です。

トレカにネットリサーチは不要

新品のトレカは5枚入り150円ほどで販売され、店の利益は1~2割でそれほど儲かるものではありません。しかし、中古なら50円で買い取ったカードを300円で売ることができ、300円なら1000円でもOKです。運良くレアカードが持ち込まれれば、トランプ大の紙切れが数千円の利益をもたらします。

代表的なトレカは「遊戯王」に「ポケモンシリーズ」、「デュエルマスターズ」といったところですが、ほかにも「ヴァンガード」「イナズマイレブン」「バトルスピリッツ」「ガンダム」「三国志」「WCCF(サッカー)」と数多くの種類が出回っており、それぞれに買い取り価格と販売価格をつけなければなりません。O社長はこれを「ネットリサーチ」に頼り失敗しました。ネットで話題の商品を仕入れ、検索した価格で買い取り、販売したのです。

ネットで話題のトレカが街角で人気があるとは限りません。ネット世論の中心は「大人」で、ヘビーユーザーである小学生はそこに参加していないからです。また、「大人」は資金力があり新製品を次から次へと購入でき、それについてネットで熱い議論を交わしますが、お小遣いに限りのある子供はリーズナブルな店頭の中古市場で、隣にいるクラスメートとカードを交換します。

商売は目の前の小銭

トレカは店舗によって買い取り価格が異なります。それは「三国志」や「WCCF」のように、ゲームセンターで利用できるトレカは、店舗周辺に遊べる場所があるかどうかで流通量が変化し、人気も左右します。また、レアカードと言っても、1度に10枚も20枚も集まれば需給バランスが崩れ「暴落」することもあります。

O社長のトレカビジネスは、地域市場の需要と店舗在庫とのバランスで調整しなければならないものをすべて「ネット」にゆだねた「ネットリサーチ0.2」。O社長は、「トレカは儲からない」と判断し撤退しました。

O社長のネットリサーチの最大の失敗は「レアカード」ではなく「クズカード」です。クズカードとはレアカード以外のカードのことで、この価格はどの店もネットでの公表を避けます。なぜなら、ここが儲けの種だからです。「クズ」とはいえ、ゲームを構成する要素であり、組み合わせによっては役立つカードも多く、新品よりも安価にまとめ買いができるクズカードが売上の底を支えているのです。

仮に10枚50円で買い取り、10枚セットとして100円で売れば利益率は50%。新品の3分の2の値段で2倍のカードが入手できれば、客にとってもお得です。そして、クズカードの買取価格は各社の企業秘密。ネットで公開するわけがありません。トレカだけで月に70万円以上の売上を達成している店は実在しますが、ネットでそれを自慢することはありません。

ところで、九州電力の呼びかけを「やらせメール」と報じていますが、「国主催」の説明会に対してのものですから、厳密には自作自演や演出を意味する「やらせ」ではありません。どちらかと言えば、一般市民を装った「偽装」あるいは「詐称」。

組織的に行ったのなら「組織ぐるみの偽装工作」としたほうが、彼らの体質への批判としては正しい気がするのですがね。

エンタープライズ1.0への箴言


「ビジネスにおいてネットリサーチは参考資料にしかならない」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi