ツイッターで揺らぐ情報の真偽性

「ツインタワーが倒れたのは構造上当然のこと」

2001年の米国同時多発テロで、国際貿易センタービルに旅客機が突っ込んで炎上してビルが崩落した理由を、建築職人に尋ねるとこう教えてくれました。

高層建造物というのは、上階を軽い構造にすることでバランスをとっており、火災の熱で溶けた鉄骨などの建材が1つのフロアに集中したら、建物は「もたない」というのです。そして、テロリストが事前にツインタワー内部に侵入し、館内に設置した爆弾の爆破により崩落したという「陰謀説」は一笑に付されました。

ネットではさまざまな情報が飛び交っています。メディアで大活躍の著名なジャーリストは、ある事件について、ツイッターでその背景にあるとされる陰謀をつまびらかにしてマスメディアの報道姿勢に隠されたという事実を暴き、さらに報道の裏側に封印された「不都合な真実」をブログやUstreamで紹介します。

これらを組み合わせることを「ソーシャルフィルタ」と呼び、名もなき告発者のリークや当事者のつぶやきに識者の卓見を加えることで、世の真実を浮かび上がらせるといいます。

理想論としては結構。しかし、これが現実としてとてもハイリスクな方法であることは語られることがありません。

今回は、この刺激的ながらリスキーな「ソーシャルフィルタ」を巡るエンタープライズ0.2がテーマです。

最新ITツールにくびったけ!

サービス業を営むA社長は「IT通」として知られていました。最新情報に詳しく、同業者の集まりに参加すればツイッターの利便性を啓蒙し、自社サーバを構築するよりもクラウドによる効率化を推奨し、予定管理を行うためにグループウェアをいち早く導入しています。

ホームページは最新の技術が満載で、ブログ型が流行すればリニューアルし、CMSの登場とともにシステムを入れ替えました。広告宣伝活動は検索連動型広告などのネットのみとし、採用活動も紙媒体をやめて「マイナビ 」などのインターネット媒体に特化しています。

しかしA社長は「ネットオタク」ではなく、スケジュールは「高橋の手帳」に書き込み、電子メールよりは電話連絡を好み、書類はメール添付よりもFAXを希望します。 iPhoneも持っていますが、主に使うのはドコモの「らくらくホン」で、ニュースサイトのRSSで最新ニュースを受信はしても、世の中の動きは宅配された紙の新聞で知ります。それでも「IT通」でいられるのは、ソーシャルフィルタのお陰なのです。

「リア充」のソーシャルフィルタの正体

さて、リアルの生活が充実している人をネット用語で「リア充」といい、ネットで暇を潰す「ネットの住民」と対義語のようにして使われます。一部の例外を除けば、社員が思うより社長業は忙しくて情報収集 が思うに任せないこともあります。

ネットで検索したとしても、検索結果が事実かどうかを検証する時間はなく、真贋不確かな情報を社長が人前で語れば、会社の信用問題に発展するリスクがあります。そこで、リア充はソーシャルフィルタを活用し、各分野のエキスパートが発する情報を仕入れます。リア充はツイッターなどの「ネット」ではなく、「リアル」の人脈をフィルタに使うのがポイントです。

リア充であるA社長のIT情報のソーシャルフィルタは、新興市場に上場するIT企業の営業部長を務める自慢の息子です。息子が話す「最新IT情報」は夢にあふれ希望に満ちています。加えて息子は、「何よりスピードが勝負のカギを握り、時代に素早くキャッチアップしてついて行かなければならない」と力説します。そして、IT社会の「社長」の役割をこう定義します。

「最新のIT環境を提供して社員の競争力を助けること」

社長自らはITを使えなくてもよいということです。しかし1つ気になることが……。最新ITツールの導入が売上に結び付いたという話が聞こえてこないことです。

ソーシャルフィルタのリスクを抑えるには?

A社長のソーシャルフィルタである息子の主な情報源は勤務先です。そこはDM、テレアポ、飛び込み、継続訪問と、クライアントに代わり新規開拓をする営業のエキスパート集団。創業時から給料も出世も売上次第の「体育会系企業」です。ITバブル時にIT企業の依頼を受けたことをきっかけに急成長したため「IT企業」と錯覚され、後づけでIT分野を拡充させて帳尻を合わせましたが、今でも営業部長はトップセールスマンの代名詞です。

そんな企業に勤める息子が持つITの知識は「セールストークで経営に役立つIT情報」とは似て非なるもの。つまり、フィルターの人選を誤った「ソーシャ ルフィルタ0.2」です。A社長は息子のセールストークのままにITツールに金を注ぎ込みます。

著名なジャーリストの陰謀説は裏付けが明示されず、明らかな思い込みでもマスコミを対立軸に置くことで正当化する手法はツイッター(ネット)では一般的です。彼らをフィルターと して選べば、すべての報道は陰謀史観に歪められてしまいます。誰をフィルターにするかですべてが決まる「ソーシャルフィルタ」とは、とてもリスクの高い手法なのです。

このリスクを抑えるヒントは冒頭の「建築職人」の話です。経験に裏打ちされた「現場の声」はセールストークから遠く、ネッ トを跳梁する陰謀論やコピペで気取る「情報通」を蹴散らすからです。

エンタープライズ1.0への箴言


「フィルターの選定ミスというリスク」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi