ビジネスでのブログの意味

こんな質問が寄せられます。

「ブログを書き続けて、どんな意味があるのでしょうか」

「もうやめたい」という感情に裏打ちされた言葉です。ホームページ制作業者の「自分で更新ができる」「メッセージの発信」、そして「今は常識」という強い勧めにブログを設置したものの効果を感じないというのです。こんな不満を漏らす人も少なくありません。

「ブログを書くために仕事をしているようだ」

更新しなければという強迫観念が仕事の手を止めるといいます。M建設のM社長も、ホームページのリニューアルで「これからはブログだ」という制作業者の推薦にブログを開設しました。

建築業界は職能ごとの分業制が進んでおり、他人の芝生にケチをつける習慣はありません。ホームページのプロが言うならと同意したのです。

冒頭の質問に私は「役立つ」と答えます。「ただし」と条件をつけて。

ブログを商売で役立てるために幾つかの条件があります。そして、これを知らないと「ブログ0.2」へと突入します。

そして二人だけになった

ブログの運営のために、制作業者が社内講習会を開きました。質疑応答で個人情報の流出が心配だと経理担当の女性社員が不安を吐露します。これに業者は「匿名でOK」と答えます。次に手を挙げた古参の現場監督は「毎日書くことがない」と作文への不満を隠しません。すると「当番制」を提案します。そして、匿名の当番制ブログがスタートしたのが昨年のことです。

まず、脱落したのが現場監督です。ブログ当番だからといってオフィスにいられるわけではありません。夏は炎天下、冬は寒風吹きすさぶなかクタクタになるまで働き、事務所に戻ってきてパソコンに向かうというのは困難な作業です。それでも最初の数回は強制的にやらせましたが、M社長も現場あがりですから、その大変さがわかります。そこで現場で気がついたらすぐに書き込めるようにと、携帯電話で投稿できる機能を制作業者に設置させたのですが、「投稿率」はあがりません。

臨機応変が求められる現場でブログのネタを考えていては業務に支障をきたすといわれれば、いかに社長でも強制はできません。

内勤者なら続くかといえばこれも微妙です。経理担当の女性社員は、各種伝票が飛び交う月末に当番が回ってくるとヒステリックにできない理由を並べ立てます。

ブログ成功の条件

結局、残ったのはM社長と、社長直属の「経営企画室主任」の二人だけです。そしてどちらかが気が向いた時に書くとルールが改定され、月に3-4件、つまり、週刊弱のペースで2年目に突入しましたが、ブログ経由での問い合わせはいまだにゼロです。

ブログをビジネスに役立てるには2つの原則があります。

まず「コミュニケーション」。エントリー(ブログの記事)をみた客や訪問者のコメントには誠実に答えます。コメントに悪口を書かれることもありますが、それへの対応次第で一転して熱狂的ファンになることもあります。ところがM社長のブログは「コメント禁止」で、コミュニケーションを拒否しています。また、「匿名の当番制」がコミュニケーションを妨げる理由はこうです。

「文章に上手い下手はなく、自分に合うか合わないか、つまりは好みの問題だ」

とはある編集者の言葉です。著者と読者は文章を介してコミュニケーションをとります。それは共感を媒介とします。匿名の当番制ではエントリーごとに「文体」が異なり、読者が安心して共感することができないのです。

そして商売に役立てたるための、もうひとつの原則が「狙う」です。

ブログとはコツコツと続けるもの

最近のM社長のブログは飼い猫や子育ての話ばかりです。これでは商売に繋がりません。猫や子供をきっかけに「建築話」へと展開することが「狙う」です。

ヤフーやグーグルといった検索エンジンは、ブログに書かれている内容をもとに「検索結果」に反映します。猫や子供が書かれているエントリーは「猫」「子供」というキーワードで検索された時に表示されるという仕組みです。

つまり、「建築話」が記載されていないエントリーでは、建築関連のキーワードで検索する「見込み客」を集めることがないのです。効果がなければ意味を疑うのも当然ですが、効果が出ない方法で取り組んでいる「ブログ0.2」です。

しかし、責められるべきは「ホームページ制作業者」です。薬を売るために間違った服用法を説明する薬剤師と同じなのですから。 

そして残念ながら、薬事法のように規制する法はありません。ブログの設置を勧める業者に出会ったら「書き方」を訊ねてみてください。悲しいことにビジネスでブログを活用していないホームページ制作業者は少なくないのです。

匿名の当番制が条件ならば私ならこうアドバイスします。

「それぞれの仮名を用意し、それを署名した記事を書いてください」

鈴木か佐藤か、またそれが「住民基本台帳」に記されている名前かどうかは問題ではなく、投影できる「キャラクター」が重要で、その為のシンボルが「仮名(名前)」ということです。ブログを本当に活用している「プロ=制作業者」なら誰でも知っていることです。

エンタープライズ1.0への箴言


「制作業者にブログの使い方を尋ねる」