応募者数の大幅な増加

10月18日(日)に2009年度秋期ITパスポート試験が実施されました。

今回はほとんどの試験種において共通して応募者数に大幅な増加がみられ、ITパスポート試験の応募者数は71,856人を数え、驚くべき事に前回(平成21年度春期)比で53.4%増、25,011人増と応募者数が飛躍的に伸びています。平成21年度全体では118,701名となり、なんと10万人を超える方々の応募となりました。

先行き不透明な社会経済事情を背景として、やはり最終的に頼りになるのは自分自身であるわけですから、自己スキルの向上を目的とされていることにその原因があるのではないかと思います。

解答例(正解肢一覧)

問1 問26 問51 問76
問2 問27 問52 問77
問3 問28 問53 問78
問4 問29 問54 問79
問5 問30 問55 問80
問6 問31 問56 問81
問7 問32 問57 問82
問8 問33 問58 問83
問9 問34 問59 問84
問10 問35 問60 ウ/エ 問85
問11 問36 問61 問86
問12 ア/ウ 問37 問62 問87
問13 問38 問63 問88
問14 問39 問64 問89
問15 問40 問65 問90
問16 問41 問66 問91
問17 問42 問67 問92
問18 問43 問68 問93
問19 問44 問69 問94
問20 問45 問70 問95
問21 問46 問71 問96
問22 問47 問72 問97
問23 問48 問73 問98
問24 問49 問74 問99
問25 問50 問75 問100
※問12についてはア/ウいずれも正解扱い
※問60についてはウ/エいずれも正解扱い

本試験の総括~やはり基礎知識の網羅が重要。新出キーワードにも注意

2009年度春期試験に続いて、新試験制度第2回目として実施されたITパスポート試験ですが、各出題分野からの出題数は出題分野として事前に告知されていたとおり、今回もストラテジ系35%、マネジメント系25%、テクノロジ系40%という比率に合致する出題数でした。

また、合格のために必要とされる正答率60%の確保についても、適切な教材で学習した方ならば、今回の各問題の難易度を考慮すると比較的容易に合格点を取ることができたと思われます。

拙著『カリスマ講師が教える! ITパスポート「絶対合格」のポイント 2009年度版』では、巻頭の学習ガイダンスにおいて同書を学習情報のインプット教材と位置付け、適切な問題演習によるアウトプット演習の実施の必要性を求めていますが、仮に本書のみで学習された方でも合格点(60点)は十分に確保していただくことができたはずです。

全体の傾向としては、各出題分野における重要語句の定義または技術・技法の目的・用途などを問うスタイルの出題が多く見られ、やはり基本情報技術者試験をはじめとする各種高度系資格へのキャリアパスの最初の一歩となるITパスポート試験の位置付けに即した出題方式であるといえるでしょう。

分野別に難易度を総括してみると、ストラテジ系は比較的容易、マネジメント系はやや難しいレベル、テクノロジ系は標準レベルというところです。

今回の本試験において出題された重要キーワードに関してですが、ストラテジ系におけるアライアンス(企業提携)、ディジタルデバイド(情報格差)、アフィリエイトなど一般的に用いられているものが問われている一方、CSR(企業の社会的責任)、ファブレス(工場を持たない製造会社)、バリューエンジニアリング(価値最大化手法)などは一般的用語とはいえず、特に学生の受験生の方には難しかったのではないでしょうか。

またテクノロジ系におけるキーワードには、SSD(不揮発性メモリを用いたドライブ)、ボット(コンピュータウイルスの一種)、RSS(情報配信のための文書フォーマットの一種)などに新味がありますが、いずれも近年のコンピュータ分野における注目キーワードであり、ここ数年のノートパソコンの小型化にともなう従来型のHDDに変わる補助記憶装置としてのSSDの利用が拡大していることや、ボットが感染したコンピュータが遠隔操作されて犯罪的行為に悪用される事例がニュースなどでも広く報じられていること、またブログやニュースサイトなどでRSSを利用した更新通知が一般化していることなど、ある程度知名度が高いものばかりでもあり、やはり日常的にテクノロジ系の分野における目新しい話題には注目しておく必要があるといえます。

さて、ここで、多くの方にとって特に正誤の判断が難しいと思われる2問(問12、問15)について解説しておきます。

問12はバランススコアカードの導入プロセスに関する出題でした。

バランススコアカード(またはバランストスコアカード: Balanced Score Card)とは、代表的な企業活動分析・戦略的経営立案手法であり、財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点の4つの視点から企業が設定する戦略目標を達成するために個人および部門の行うべきことと目標を設定し,PDCAサイクルによって常に状況を確認しながら戦略に修正を加え続け、最終的な目標達成を目指す有名なビジネス技法の一つです。顧客満足度や社員のモラル(やる気)などを含んだ幅広い評価基準をもって企業活動を分析する点に特徴があります。

バランススコアカードでは、企業のビジョンを作成(解答群(エ))したのち、そのビジョンを現実のものとするための「戦略」を策定(解答群(ウ))します。「戦略」とは最終的目標達成のための企業全体としての大局的計画のことであり、個々の従業員の具体的な行動計画である実行計画はいわゆる「戦術」レベルの内容が主体となるものであって、これとは区別します。

次の段階として、バランスト・スコアカードにおける4つの視点の洗い出しを行います。解答群(イ)ビジネス環境の分析がこれに該当します。そして、多角的な視点から明らかとなった現実のビジネス環境から具体的な戦略目標を絞り込んでいきます。

最後に、設定された戦略目標を実現するために欠かすことができない(=戦略目標との因果関係が明らかな)重要成功要因(CSF)をリストアップ(解答群(ア))して、実行計画の策定にリンクさせていきます。

本問はバランススコアカードの導入プロセスの知識がないと判断が難しい問題かと思われますが、バランススコアカードの導入において最も特徴的な「重要成功要因の抽出」プロセスの位置付けが問われる内容となっています。重要成功要因は、大局的な「戦略」を実現するための構成員個々の具体的な行動計画の策定(戦術)に際して不可欠な要素です。そのため、実行計画策定よりも前の段階であり、ビジョンの設定およびビジネス戦略の立案の後の段階でなくてはならず、正解は(ア)が適切であると判断します。

【2009年10月23日追記】
問12については、IPAより、(ウ)も正解とすると発表されています。経営判断の重要性の観点から、「(ア)重要成功要因の抽出」を「実行計画策定」ではなく「ビジネス戦略の立案」のため行うとする解釈からですが、出題者の考え(バランスト・スコアカードで最も重要な「重要成功要因の抽出」の作業を解答させたかったと考えられる)より、本記事では当初、(ア)が正解であることを優先させた次第です。

問15はCRMの導入効果に関する出題でした。

CRM(Customer Relationship Management: 顧客関係管理)とは、顧客の購買パターンやクレームの履歴、保守サービス履歴や趣味・嗜好などの総合的な顧客情報を集積したデータベースを全社で共有して、きめ細かなサービスを提供することで顧客満足度を向上させ収益力の増加を実現する手法です。それによって,顧客ロイヤルティ(忠誠心)の獲得(=自社製品の長期的な愛顧者となってもらう)と、顧客生涯価値の最大化(=顧客の生涯需要を自社製品によって確保すること)を目的としています。したがって、解答群(エ)が正解であることは明らかですが、解答群(ウ)について正誤の判断を悩まれた方も多いのではないでしょうか。これについては、CRMはあくまで顧客情報の一元管理および共有が主目的であり、顧客に対する「アプローチ方法」の共有が最優先目的ではないという点を取り違えてはなりません。また顧客に対するアプローチ方法は単一のものだけに固定化されるものではないとも思われます。確かにCRMシステムの利用方法の一つとしてアプローチ方法の共有もあり得ることは間違いありませんが、その導入効果として最も大きいものはやはり顧客と長期的な関係を築くための顧客情報の一元管理にあるといえるのではないでしょうか。

中問形式はオーソドックスな出題内容

その他の特徴としては、中問形式(小問×4問の出題スタイル)において、業務分析・表計算ソフト・関係データベースといった日常業務へのコンピュータを活用するために必要な基礎知識がオーソドックスに出題されたことです。

中問形式Aでは販売管理業務がテーマとなっており、問題で設定されている条件に沿ったDFDの作成、出荷処理における引当数を算出するための適切な条件判断、テストケースを用いたトレース問題などで構成されています。もし仮にコンピュータ方面の知識がまったくない方であったとしても、問題設定を把握して各設問の設定条件にしたがってトレースすることによって正解を得ることは容易だと思われます。

中問形式Bで表計算ソフトの利用が出題されていますが、売上高に占める利益率を求める計算やIF関数を用いたABCランク分けという初級レベルの知識で容易に回答できる内容であり、かつての初級シスアド試験に出題されていた表計算ソフトを用いた高度な業務改善問題の水準とは大きく異なって大変平易な内容です。これは社会人だけでなく学生(中学生~高校生)まで含めて、コンピュータを実務に活かしていくための第一歩にするという試験目的に合致させたためであり、中学・高校の情報基礎教育で学ぶレベルは超えていません。

中問形式Cでは販売管理業務をテーマとして、バックアップ容量の計算、主キー、正規化など、関係データベースの利用における基本的知識が問われる内容となっています。いずれも関係データベース分野における重要テーマであり、出題レベルはそれぞれ基本レベルに留まっており、テキストでこれらの内容について正確な知識を備えていた方ならば全問正解が得られたであろうと思われます。

2010年度春期試験に向けての対策は

今回の本試験の状況を踏まえた2010年春期試験対策としては、表計算ソフトおよび関係データベースについては高度なレベルの出題は考えられず、初歩レベルの基礎操作方法とその理解が十分に身についていれば問題なく、ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系の3つの出題分野における基本的な(定番的な)知識を一通り網羅しておくことに加えて、近年のビジネス分野およびコンピュータ業界における注目キーワードについてもその定義を明らかにしておくことが求められると考えられます。


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カリスマ講師が教える! ITパスポート「絶対合格」のポイント 2009年度版


本連載は、毎日コミュニケーションズの発行する『カリスマ講師が教える! ITパスポート「絶対合格」のポイント 2009年度版』を、Web連載用にコンパクトに再構成した入門編となっています。より本格的にITパスポート試験への対策をお考えなら、同書の入手をオススメします。

・発行 毎日コミュニケーションズ
・著者 藤井淳夫
・定価 998円(税込)
・B5判 168ページ