業務用システムの価格というのは、一般消費者向けのそれと比べれば、非常に高価です。
例えば、UNIXサーバを1台調達するのに100万円、などというのはざらにある話ですが、あなたがプライベートでPCを1台欲しいと思っても、そんな金額は支払わないでしょう。
これだけ高額な商品が受け入れられている市場では、あらゆるモノの金額がインフレ気味です。
ですから、ちょっとした作業の手数料や備品代もバカになりません。
UNIXサーバをデータセンターへ運んで欲しいとベンダーにお願いすれば、輸送料+設置料という名目で数万は取られます。
業務アプリケーションの予備CD-ROMが欲しいといえば、それだけで数千円もの発行手数料が請求されますね。原価は数百円なのに。
ですが、これを高いと抗議する経営者はあまりいません。ちょっと高いなと感じつつも、全体のコストからすれば1%にも満たない出費だからまあいいか、と思う方がほとんどです。
なぜか?
一般的に、人間は金額を相対的に評価してしまう癖があります。
1万円の購買における1000円の価格差は購買心理に影響しますが、100万円の購買におけるそれは、心理的に大したものではありません。
これを利用して、余計なサービスやオプションを追加購入させてしまうのがIT業界のセールステクニックです。
また、以前のメルマガ(65号)でも紹介しましたが、値引きの大きさでインパクトを与え、高額製品の購入をさせてしまう技もあります。
原価が100万の製品があったとして、
・定価を150万にして、定価150万のまま販売する
・定価を200万にして、30万値引きと称して170万で販売する
どちらが売れるかといえば、ほぼ100%後者です。20万円も高く設定しているにも関わらずですよ。
これをプロジェクト運営に応用することもできます。
本来、50人月で終わるだろうという見積りだったとしましょう。これをクライアントには70人月かかると報告し、頑張って60人月に圧縮してみせると頑張るポーズを見せれば、高値を吹っかけているのに「頑張ってくれてありがとう」と感謝されるくらいです。
さらには、本命に押したいもの以外の候補に劣悪なものを並べることで自然に選ばせるという方法もありますね。
ライオンの群れの中に狼を入れると見劣りしますが、犬の群れの中に狼を入れれば、逆に立派に見えるのと同じです。
著者紹介
吉澤準特 (ヨシザワジュントク)
外資系コンサルティング会社に勤務。守秘義務を破らない範囲でIT業界の裏話をつぶやきます。ファシリテーション、ビジネスフレームワーク、人材教育など執筆多数。日本能率協会、秀和システムそれぞれから書籍刊行。執筆依頼/インタビューお引き受けします。こっそりITIL Manager (v2)資格保有。
この記事は吉澤準特氏のブログ「IT業界の裏話」の過去記事を抜粋し適宜加筆・修正を行って転載しています。