ちょっと遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。インドや中国の成長に黄信号がともる状況となっているが、筆者はこれらの国々なら少々の困難は乗り越えると考えている。どちらの国も(アジアのどこかの島国と違って)前向きだからだ。
今回はインドの酒事情
さて、前回は中国のお酒事情について書いた。今回の話は、当然インドのお酒事情について。
このコラムはいつもインドに批判的すぎる……と、特にインドの友人たちからはお叱りを受けている。正月くらいは嫌な話はやめて、まずはインドのお酒を一献。
筆者はいつも事あるごとに「インドの酒事情は厳しい」と書いている。筆者が拠点とするチェンナイなどは、ここ数年でますます厳しくなった。しかし、そうは言っても、筆者はチェンナイに行くと、実は必ず酒を飲んでいる。
筆者は、日本では一応「禁酒派」で通しているのだが、インドや中国に行くと話は別である。ワインやビール、自分で持ち込んだ焼酎、なぜか韓国のマッコリも、少しの手間暇さえ惜しまなければ現地でも問題なく楽しめる。この点は、筆者がインドに通い始めた頃と比べると、随分と変わったものである。
15年前は厳しくも格別な味のビールを
で、今から15年前となる1997年2月の話。
インドは州によって事情が違うと言われるが、当時はまだ厳格な禁酒州が多かった。
筆者は、チェンナイに初のオフショア開発センター(ODC)を立ち上げた後、ハイデラバードやデリーをまわった。その年の5月にバンガロールやデリーでのODC立ち上げも計画していたからだ。
バンガロールではインドITサービス大手Satyam Computer Servicesと提携していたのだが、同社の本社はハイデラバード。やはり詰めの話は本社で行う必要がある。
ハイデラバード新市街の中心にはフセイン湖があり、奇麗な湖畔の周囲に5スターホテルが並んでいた。
商談が終わり、一緒に行った本社のおエラいさん(日本人)が筆者にビールをふるまってくれることになった。
それはそれでありがたいのだが、ハイデラバードは厳格な禁酒州であるアンドラ・プラデッシュ州の中心。そんなに簡単に酒が飲める場所ではない。
当時筆者は拠点としていたチェンナイで一滴の酒も飲めず、やっと酒にありつけたといった感じだった。
5スターホテルなのだから飲めることは飲める。調べてみると、外国人は約500円で許可証を買えばいいということがわかった。1本250円程度のビールをご馳走になるために、その倍もかかる許可証を買う必要があるわけだ。
筆者はこの宴に同席する出張者全員分の許可証を買った。それでも酒が飲めるのならよし……とレストランに向かったわけだ。しかし、実際に酒を飲むのは別の場所である。
レストランの隅には、小さな鉄格子の部屋がある。食事は鉄格子の外、ビールは鉄格子の内側である。料理は持ち込めない。つまみはピーナツだけだ。それでもなかなか格別の味だった。
その後に行った、今をときめくデリー郊外のグルガオンも同じようなものだ。それがわずか15年前の話である。
意外とおいしいインドのワイン
たしかそれから2年後だったか。またハイデラバードに行く機会があった。筆者が泊まったのは前回と同じ5スターホテルである。ところが、まったく2年前とは事情が変わっていた。
許可証の制度はなくなっており、レストランで自由にお酒を飲めるようになっていた。筆者が飲んだのはインドワイン・リヴィエラの白。驚いた。1988年に初めて米国に行った時、「カリフォルニアワインというのがこんなにおいしいものなのか」と知ったが、インドにもおいしいワインがあった。キリッとした味の白ワインである。その後数年間は、インドに行けばリヴィエラ白を飲んでいた。
その頃にはチェンナイでも酒屋で自由に酒を買えるようにはなっていたが、他州の酒は買えない。仕方なくタミール州のワインを買ったのが、これは飲めた代物ではない。チェンナイでリヴィエラ白を楽しむにはホテルに行くか、バンガロールに行った時に酒屋で買ってくる必要がある。
最近、リヴィエラ以外にもおいしいワインが出てきた。最も有名なのはスラ(SULA)である。どうやらリヴィエラもスラも産地は同じようだ。ムンバイの北東180kmに位置するナーシク(NASHIK)という地区の産と聞く。気候が良いのか、ナーシクでは次々とワイナリーが生まれているらしい。スラが最初に出荷されたのは2000年、それから数年のうちにインド有数のワインにまで成長した。インド国内におけるワイン市場の成長率は年間30%とのことであり、また巨大な企業が生まれそうである。
実は、筆者はこのスラのことをよく覚えていない。提携先の経営者が赤ワイン好きで、食事になると必ず赤ワインを飲む。これはおそらくスラであろう。でもこの経営者氏、グイグイとワインを飲むのはいいのだが、お酒はドクターストップのはずだった。本人は「葡萄ジュース、葡萄ジュース」と言いながら楽しんでいるが、周囲はハラハラドキドキである。とてもではないが、ワインを楽しむ状態にはならなかった。次はひとりで飲んでみたい。
インドにはほかに、バンガロールのご当地ワイン「MANDALA VALLEY」がおいしいという話もある。どうもチェンナイと大連ばかりではダメなようですな。寧夏からムンバイ経由バンガロール行きというワインツアーはないものか。
日本や中国よりおいしいインドのビール
筆者はビールを飲まない。乾杯ビールもだ。それでもインドに行くと必ずキングフィッシャービール(缶)を飲む。これだけはウマい。残念ながらこの缶ビールはチェンナイでは公には飲めない。
チェンナイの南180kmにあるポンディシェリからはインド各地へビールが"輸出"されているのだが、チェンナイはどうやら"輸入"を禁止しているようだ。ポンディシェリで買って車で運ぶのもダメである。州境を越えるとすぐにGメンに捕まってしまう。しかしそれはあくまでも表向きのことであって、実際にはチェンナイの韓国スーパーに行けばいくらでもビールが売られている。韓国語と日本語で「24缶1200ルピー」と書かれているから、Gメンにもわからない。黙認されているということもあるだろうが。
マッコリもジンロも
これはチェンナイの話である。他の州のことは知らない。チェンナイでお酒が飲めるのは3スター以上のホテルだけである。小さなレストランでは飲めない。国営の酒屋は存在するが、そこには昼間でも外国人が近づくことはできない。筆者でもギリギリセーフといったところである。大阪の通天閣の立ち飲み屋とは危険さが違う。
そこで頼りになるのが韓国勢である。前項でビールのことを書いたが、マッコリとかジンロは堂々と店頭に並んでいる。先述のように酒だとはわからないのだろう。ここは現代自動車のホームタウンである。韓国人には非常に住みやすい街になっている。
筆者の会社の提携先企業から歩いて5分のところには韓国レストランがある。この店にはカラオケ専用ルームもあるが、そんな部屋はいらない。個室にもカラオケ設備がある。昼飯には韓国料理を2品とキングフィッシャー(缶)を注文し(別に10品くらいのお通しが付く)、ひとりで出かけて「愛燦々」とか「月亮代表我的心」などを歌う。これで約500ルピーである。韓流ドラマのファンではないが、チェンナイに行くとにわか韓国ファンになってしまう。
しかしお酒もほどほどに。厳しいはずのチェンナイでもこれだけ飲めるのだから、他の州などはもっともっと自由に飲めるはずだ。例外は「ドライデー」という日で、この時は店も酒を出さない。飲める環境もお酒も様々、州によってみんな違う。しかし共通事項が1つ。どの州でも酔っ払いに対しては厳しい。特に外国人に対しては。「お酒の上で」では済まされないのだ。
もう1つは安酒を飲まないこと。面白がって密造酒などに手を出すと、確実に「死」が待っている。昨年末にはこれでコルカタの住民160人以上が亡くなった。新年早々、また余計なをこと書いてしまったか。
著者紹介
竹田孝治 (Koji Takeda)
エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「(続)インド・中国IT見聞録」も掲載中。
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