どうも最近の日本はおかしい。筆者の住む府中でも、信号無視の車が多くなった。赤信号でも平気で車が交差点に入ってくるし、黄色でも路線バスが平気で入ってくる。筆者もこれで何回か自転車で怖い目にあった。原発事故とは関係ないはずだが、どうもあの事故からひどくなった気がする。少し殺伐とした社会になってきたのだろうか。「食の安全」もおかしい。食中毒や産地偽装は以前からよくあったことだが、放射能汚染の基準値がいきなり緩くなるなんてことになれば、風評被害はますます拡大する。そうすると、店頭の商品の産地表示も怪しく思えてくる。この国も、どうやらインドや中国に近づいてきたようだ。では、本家(?)のインド・中国の「食の安全」はどうか。今回は出張者の立場からこの問題を見てみよう。

四川料理、タイ料理、韓国料理は苦手で

意外と思われるかもしれないが、筆者はこれらの料理が苦手である。インド料理には慣れているが、辛さの許容範囲には限度がある。

タイ料理についてはデリーで初めて経験して以来、まだ3回しか食べたことがない。四川料理については、日本では特に問題はなかった。だが本場・中国で魚料理をいただいた時、あまりの辛さに涙を流したことがある。だから四川省には行かない。韓国料理も日本ではほとんど食べない。筆者の辛さの限度はインド料理と湖南料理だ。

学生時代は大学近くのホルモン焼き屋に足しげく通った。安かったからだ。本格的な韓国料理を初めて食べたのは10年前、チェンナイでのことだった。インド料理には慣れているつもりの筆者だが、韓国料理の辛さには負けてしまった。それから5年間は韓国料理を口にしなかった。それでも最近は、インドではよく韓国料理屋に行くようになった。辛さを抑えた料理を選べるようになったのだろう。昼食は訪問先企業のベジタリアン料理、それ以外の時は中華・韓国・和食を交互に食べるようになった。

チェンナイは現代自動車の城下町だから、韓国料理屋はどこにでもある。そのうち、1人で気楽に韓国料理屋に行くようになった。

中国で韓国料理屋に行ったのは、大連ソフトウェアパークの近くの店と、北朝鮮との国境の街・丹東での2回だけ。丹東は朝鮮族が多い地域だから、ここでの料理は本場と同じである。

最近はチェンナイで韓国料理も食べられるようになった

インドの「食の安全」

前置きが長くなってしまった……今回の趣旨は筆者の好みをお伝えすることではなく、インドに行って何を食べられるかをお伝えすることだ。

筆者が1995年に初めてインドに行った時、食あたりで1日中、ベッドの上で苦しんだことがある。これが筆者のトラウマになり、食べ物に関する警戒心が研ぎ澄まされるようになった。

筆者の会社では、顧客を料理屋に案内した後にお腹をこわさせることはない。危ないものは食べさせないからだ。自分で口にして、大丈夫だと思った料理だけを顧客に勧める。大事なのは相手より先に自分が食べること。豚肉や豆腐は最初から選ばない。魚も信頼のできる店でしかお勧めしない。

新鮮なのはやはり鶏肉である。牛肉はうまい店が限られる。危険なのは野菜である。料理としてはインド料理も「ひと煮立ち」が良いのだろうが、インドの野菜のひと煮立ちなど危険この上ない。きちんと芯まで火が通っていないと駄目だ。これは筆者の自慢だが、2006年には50名近くの研修生に対して6週間インドの食事を提供したのだが、ウィルス性の下痢になる研修生を1人も出さなかった。

考え方は簡単だ。5スターホテルでも信用しないこと。キッチンを見れば誰しも納得するはずである。

この国では、まな板がカラフルである。オレンジとか黒のまな板がある。いや、最初は白かったようだが、カビで色が変わってしまうのだ。

油の賞味期限は「油がなくなった時」。ブッフェ料理のサラダバーなどは、1週間前に調理した料理がなくなるまで出される。5スターホテルでもこんな状況だと思っていれば大丈夫だ。氷はどうか。さすがに5スターホテルなら安全な水で氷を作る。でも、そのアイスボックスにビール瓶を入れて冷やすから、それも台無しになってしまう。

昨年、筆者は現地で豪華な結婚式に出席した。その舞台裏に汚いトイレがあったのだが、そのトイレの横が臨時のキッチンになっていて、料理人が汚い手で料理をしていたのには驚いた。

ある日本人駐在員に聞いた話。

彼は地方に出張する時、食事はビスケットとコカ・コーラだけにするらしい。「安全なのはこれだけですよ」と言うのだが、筆者には無理だ。やはり夜の主食は刺身である。油の多いインド料理は、仕事で必要とされる時しか食べない。

日本食はどうか。これは店によってずいぶんと違う。やはり刺身は日本人料理人でないと無理である。これに比べて韓国料理屋は当たり外れが少ない。

最近は中華料理と韓国料理の割合が同じくらいになってきた。インド中華は美味しいし、チェンナイなら先述のように韓国料理屋も多い。実を言うと、韓国料理屋にはカラオケがあるのも魅力である。

海老の競演: チェンナイの日本料理屋にて

中国ではどうか

中国の食の危険性は日本では大々的に報道されている。しかし筆者に言わせると、インドでの危険性とは比べ物にならないほど安全……というか、カネで安全が買えるという点において単純だ。

北京の東城区の屋台でダンボール入りの肉まんが出た話があったが、日本人出張者がそんな場末の屋台に行くわけがない。それは中国の国内問題である。筆者も北京・王府井の屋台街に行った際は、料理がどれもおいしそうで食べたかったのだが、一緒に行った中国人経営者に怒られてしまった。

最近では、腐った豚肉を牛肉の味に変える発ガン性の薬品が使われているという話も聞くが、これは安い店でのことであろう。逆にインドではそんな薬品の心配はいらない。古い油を使っている話も聞くが、インドなら5スターホテルでもそんなレベルだ。

現地では、少し汚い感じの店に連れられて行く場合もある。その時、筆者はピータン豆腐を頼む。食べたいわけではない。一口食べれば、その店の衛生基準がわかるからだ。これで「駄目だ」と思った時は、昼間から白酒を飲みながら控えめに食べる。消毒しながら食べるのだ。

大連交通大学の留学生用レストランに行った時、抜き打ち的にキッチンを見せてもらった。キッチンの隅の床を寝そべってチェックしてみた。綺麗な床に驚かされた。掃除が行き届いている。さすが国際学生寮だ。大連・星海広場のレストラン街などはチェックする気にもならない。日本より良いだろう。やはり、値段=安全性である。

しかし、これはあくまで「中華料理屋」の話である。日本料理屋は別だ。たまに思うのだが、現地の日本料理屋には、値段と安全性が反比例している場合がある。

日本料理屋については、出張者を案内するような高級店ほど危ない。「日本人経営」「日本人料理人」「日本人スタッフ」を売り文句にし、内装が豪華な店ほど危険である。大連で1、2を争うような店で、刺身の盛り合わせを頼んで2分後に出てきたのには驚いた。刺身を作り置きしていたのだ。

それでも和食を食べたい時がある。星海広場のウマい海鮮中華を食べれば食べるほど、和食も食べたくなってくる。その時はどうするか。これも単純だ。現地に住む日本人が夜な夜な通う店に行けばよい。「中国人経営、中国人料理人、中国人スタッフ」の店であるが、「客は日本人常駐者」である。筆者の感覚では、東京近郊の私鉄沿線・駅裏の居酒屋のイメージである。味も値段も安全性も同じようなものだろう。このような店でのひとときは、現地でホッとする時間である。もちろんインドにもそんな店はある。ここでは警戒心はしまっておく。

海老の競演: 大連星海広場の中華料理屋にて

調子の良いことを言うのはインド人も中国人も日本人も……みんな同じである。ベジタリアンのインド人に「この店の海老は美味しいよ」と勧められたのには驚かされた。もちろん反論も苦笑もしない。ニコニコと「本当だ、美味しいですね」と言うだけだ。後で本当にウマい海老を食べればいいだけだ。大事なのは自分の舌と判断力である。それ以外は信じないことだ。これは日本でも同じであるが。

著者紹介

竹田孝治 (Koji Takeda)

エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「(続)インド・中国IT見聞録」も掲載中。

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