今年最初の【羅針盤】です。本年もよろしくお願いいたします。さて前回は、筆者が久々に訪れたチェンナイの街の様子をお伝えしたが、引き続き街の話題と韓国勢の強さについてお伝えしたい。

なぜか日本製のタバコを約200円で売っている韓国スーパー

チェンナイにいると、韓国の強さをヒシヒシと感じる。

ここは現代自動車とサムスン電子の大拠点であり、系列の部品会社など、どれだけの韓国系企業があるのかわからないほどだ。

当社のインド子会社の設立も、韓国系企業中心にサポートしている会計士にお願いした。彼は外国資本による会社設立に慣れた人物で、書類提出から設立までに2週間もかからなかった。

チェンナイに住む韓国人は3,000人以上であり、これはインド全国に住む日本人とほぼ同数である。製造業だけではない。韓国スーパー、レストランなどが市内のいたるところにある。

筆者も韓国スーパーを覗いてみた。

そこではキムチをはじめとして、豊富な韓国食品が並べられている。もちろん食料品だけではない。チェンナイが州都となっているタミル・ナドゥ州は厳格な禁酒州であるが、韓国焼酎も堂々と棚に置かれている。

韓国スーパーの棚には堂々と焼酎が……

これだけでも韓国社会がインドでは治外法権状態であることがわかる。何故か日本で売られているマルボロのタバコが1箱100ルピー(約200円)で売られている。日本のデューティフリーの店より安い。

韓国スーパーで売られていた100ルピー(約200円)の日本製タバコ

別の店ではさらに驚かされた。

店長は韓国人だが、まったく英語が理解できない。なんと「1、2、3」もわからないのだ。でも客は韓国人だから、これでも特に問題はない。外国人には、電卓で料金を見せるだけである。

筆者は韓国レストランにもよく行く。油の塊ともいえるインド料理を可能な限り避けるために、昼食は中華、韓国、和食を交代で食べている。

筆者がよく行く韓国レストラン

実は筆者は韓国料理が苦手であった。辛すぎる。インド料理の辛さは大丈夫なのだが、韓国と四川の辛さだけは苦手であった。しかし、インドに行くとそんなことは言ってられない。油のインド料理を食べるよりは韓国料理の方が良い。

最近は慣れたものである。辛過ぎるのは避ければよいだけのことだ。

韓国レストランのお通し

韓国レストランの特徴は、従業員が全員、韓国人であるということだ。

日本の若者は事実上インドから締め出されたが、韓国の若者は多い。客も店員も韓国語で応対する。

最近、最も驚かされたことがある。

ある韓国レストラン内にカラオケボックスができた。今までもレストランで歌える個室はあったが、カラオケボックス専用の部屋はチェンナイでは初めてである。もっとも料金は高い。1時間700ルピー(約1400円)である。それでも次回は歌ってこよう。

チェンナイ初のカラオケボックスの室内

社会全体で海外駐在員をサポートする韓国

強く感じるのは韓国人の同胞意識である。韓国は、韓国人駐在員を支えるために、韓国社会全体が一丸となる。食料などは企業のコンテナ船が運んでいるとのことだ。

筆者もインドに行く時は常に食材を持参する。自分で食べるためだから無税だし、持ち込み禁止の食材でも何も言われない。このようなことを韓国社会は一丸となって行う。「韓国同胞が食べるため」との論理であり、税関も何も言わない。当然、無税であろう。そのような食材が韓国レストランや韓国スーパーに卸されるわけだ。日本人技術者が油の塊のインド料理を食べて体を壊し、高い関税のために3倍以上の値段で日本食材を買っている状況とは大違いである。韓国人は大いに飲み、食べ、歌う。これがインドにおける韓国人のパワーの源である。

もちろん、このようなことが民間の「同胞意識」だけで可能になるはずがない。韓国政府の強力なバックアップがあって初めて可能になるのだ。まさに官民一体である。

タミル・ナドゥ州は特別なのかもしれないが、韓国政府高官は年に何回も州政府を訪問する。

来る1月26日はインドで最も大事な祭日、リパブリック・ディ(共和国記念日)である。昨年は憲法公布60周年だった。その時の主役は誰だったかおわかりだろうか? 実は韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領である。李大統領は、共和国記念日式典の主賓として初めて東アジアの国家元首の中から招かれた。それだけインド政府が韓国との関係強化を重視しているということであろう。

韓国製品がインドで売れる理由

NH4(国道4号線)沿いの現代自動車チェンナイ工場の前は、いつも部品を運ぶトラックの長蛇の列ができている。なぜ韓国製品がインドで売れるのか?

その答えは単純だ。品質が良く、安く、サービス網が確立されているからだ。従業員も、「ここはインドか」と思うほど徹底的に教育されている。

最近のニューズウィークで、「iPhoneもしのぐ世界最強ケータイ」として「Nokia 1100」が紹介されていた。これは電話とショートメールだけのシンプルな携帯である。世界で2億5000万台を売ったという超売れ筋商品だ。

しかし、時期が遅れたとはいえ、サムスン電子の携帯も使い勝手が良く、売れ筋となっている。筆者はその両方を持っているが、実感として差はない。LG電子のサービス網も充実している。

筆者が使っているノキアとサムスンの携帯電話

日本では、「韓国製品は安かろう悪かろう」のイメージがあるが、それは昔の話である。少なくとも電気製品は日本製より韓国製の方が耐久性が良い。これはボリューム・ゾーンで勝負して生き残ってきた結果である。

舞台は変わるが、サムスンは日本にも本格的に攻めてきた。「GALAXY S」は国内でも発売開始後に品薄状態になるなど人気となったが、これは世界では1000万台近く売れている。本物だ。

さて筆者は今回のインド出張最終日、夕方に渡り鳥の楽園を見に行った。

楽園とは、チェンナイ南西80kmにあるベダンタンガルのことである。この時期にチェンナイに行くと、筆者は必ずここに訪れる。シベリアからヒマラヤの8000メートル級の山々を越えてやって来た渡り鳥だ。どこにそんな力があるのかといつも思うが、以前、ヒマラヤ越えの映像をNHKで見た。乱気流に何回も何回も叩き落され、それでも上昇気流をつかまえて越えてくる。越えるとそこには楽園が待っている。苦しくても、そんな渡り鳥たちを見習いたいものだ。日本より人口の少ない隣国に負けるわけにもいかないし。

渡り鳥の楽園 ベダンタンガル

なお前回、「韓国・現代自動車の城下町」としてチェンナイを紹介し、「WELCOME TO THE HOMETOWN OF HUNDAI」と書いてしまったが、「HUNDAI」ではなく正しくは「HYUNDAI」である。インドでは発音が「ヒュンダイ」ではなくて「フンダイ」と聞こえるために、無意識に間違ったのかもしれない(編集部注: 該当記事は修正済みです。この場をお借りして読者ならびに関係各位にお詫び申し上げます)。

著者紹介

竹田孝治 (Koji Takeda)

エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「[(続)インド・中国IT見聞録]」も掲載中。