6月21日未明、英国で19歳の少年が逮捕された。容疑は、コンピュータを使った企業や組織への攻撃。LulzSec(LulzSecurity)が活発にサイバー攻撃を展開しており、この少年はLulzSecとの関連が指摘されている。逮捕は同時に、サイバー攻撃の背景にある新しいサブカルチャーにもスポットを当てている。

ロンドン警視庁が逮捕したのは英国南東部のエセックス州に住むRyan Cleary氏。Cleary氏は19歳、2010年秋ごろよりレコード業界団体のIFPI(国際レコード・ビデオ製作者連盟)とBPI(英レコード産業協会)のWebサイトを攻撃、英政府が新たに発足させた"SOCA"こと重大組織犯罪庁の攻撃やボットネット構築などの容疑もあるようだ。Cleary氏の逮捕には米連邦捜査局(FBI)も関与しており、米Facebookなど米国企業や組織に対する攻撃についても取り調べが行われる様子だ。

Cleary氏とLulzSecの関連については、警察側は公式に認めておらず、LulzSec側もTwitterで、「LulzSecの一部ではない。(Cleary氏の)IRCサーバーでチャットルームをホスティングしていただけだ」と述べていた。だが6月26日にLulzSecは突然解散を宣言。今後はAnonymousのAntiSec活動に参加するよう促した。なお、Anonymousは逮捕の1カ月前となる5月中旬、Anonymousのネットワークを攻撃した「元IRC管理者」として、Cleary氏のフルネーム、生年月日、住所、IPアドレスなどを暴露していた。

コンピュータを使った攻撃は新しいものではないが、今年春のソニーをターゲットとした大規模な攻撃を契機に、企業や政府組織がサイバー攻撃のターゲットとなり連日紙面をにぎわした。Cleary氏の逮捕は、このような攻撃を行っているのがどのような人たちなのかにもスポットを当てた――どこか特別なところではなく自宅の一室で、若者がインターネットにつながったPCを前に攻撃を行っていたという風景だ。

The Guardianはこれを、オタク(Otaku)文化に関連付けて分析している。日本の若者文化である"オタク"の定義として、作家William Gibson氏の「激しい強迫観念に取り付かれた人、情報時代の"通"で、対象そのものよりもデータの蓄積を重視する」という言葉を紹介している。人と直接対話するよりも、1人寝室でジャンクフードをほおばりながらコンピュータに向かい、コミュニティ外部からみると何をやっているのかわからないようなことを昼夜やっている。これが、欧州の"オタク"像のようだ。

Cleary氏もその特徴を満たしていた。Cleary氏の母親が明かす息子の生活は、自室に閉じこもりきりで母親がドアの外に食事を載せたお盆を置くというものだ。母親は、週に一度掃除のために中に入ることができたそうだ。クリスマス以来まったく外出していなかったというから、"引きこもり"という言葉のほうがぴんと来るが、英語圏では"引きこもり"は知られていないのか、オタクと同義なのか、そのあたりの解釈は人によりさまざまだろう。

そのほかにも、子どもの頃から行動の結果が把握できない癖があり、道路に駆け出したり、屋内で着火したりと、はらはらさせる行為の繰り返しだったという。発達障害の1つであるADHD(注意欠陥/多動性障害)と診断されているとのことで、以前このコラムで紹介した英国人ハッカー、Gary McKinnon氏とも重なってみえる。

The Guardianの分析で興味深かったのが、以前のハッカーはスキルを自慢することが目的だったのに対し、新しい世代のハッカーは単純に注目を集めることが目的のようだ、という新しいトレンドの指摘だ。

LulzSec登場以前のAnonymousは、サイエントロジーへの攻撃、WikiLeaksへの措置に抗議するために行ったPayPalやMasterCard、Visaへの攻撃など、背後に主張や意見を感じることができた。個人情報の公開などは行わず、一般市民がこうむる影響といえばサイトにアクセスできない不便さを強いられる程度だ。Free Software Foundationの創始者のRichard Stallman氏は、(路上のストライキをデジタル空間に当てはめ、)「デジタルの抗議活動だ」と擁護しているが、見方にとっては納得できる。だが、一般人の個人情報を公開するLulzSecになると、Lulzy(大笑い、爆笑を意味するlolの変化形)という名称どおり、意見や主義よりもおもしろさが先行しているように見える。UFOの存在を信じて米航空宇宙局(NASA)のシステムに侵入したというMcKinnon氏は、ハッキングの背後に知りたいという純粋な意図が垣間見れたが、Cleary氏はいまのところ少し違うようだ。

こうしてみると、たしかに新しい世代のハッカーが台頭しているのかもしれない。Anonymous発祥の場といわれる4chanは日本の2ちゃんねるの英語版ともいわれており、日本のサブカルチャーの影響が多少なりともありそうだ。ちょうど、フランスで夏恒例の「Japan Expo」が今年も盛況だったというニュースもあり、日本の若者文化は海外で予想外の展開(発展?)をしているようにみえる。

なお、Anonymousに関係したとして、イタリアとスイスでも合計15人の若者が逮捕されているようだ。いずれも30歳以下で、5人は18歳に達していないとのことだ。