反対意見も多い中、英国下院は異例のスピードで「Digital Economy Bill(DEB)」を可決した

このコラムで何度か紹介した英国の「Digital Economy Bill(DEB)」が4月7日夜、可決した。市民の関心が高かった違法ダウンロード対策については、いく分緩和され、フランスの"HADOPI2"ほど厳格なものではなくなった。それでもフランス同様、すっきりしない様子だ。

英国下院は4月7日、賛成189/反対47でDEBを可決、国王裁可を得て「Digital Economy Act 2010」として法成立となった。DEBはデジタル時代の経済促進を目指すもので、2009年6月、デジタル経済の現状や課題を報告する「Digital Britain」と共に構想が発表された。発起人は、ビジネス・イノベーション・技能大臣のPeter Mandelson卿。

DEBはブロードバンド普及対策、孤児作品の扱い、デジタルラジオなど幅広い枠組みを設けるものだが、焦点の1つとなったのが、音楽や映画など著作権のあるファイルを許可なくダウンロードする行為に対する取り締まりだ。レコード業界関係者が作成したといわれる草案では、違法ダウンロード3回目でインターネット回線を遮断する"3ストライク"構想が盛り込まれていた。3ストライクは、別名"Graduated Response System"と言われる対策手法で、フランス、ニュージーランドなどで導入されている(だが、フランスは施行が遅れているし、ニュージーランドもまだ施行に入っていないようだ)。

「すっきりしない」理由は、反対意見が多く聞かれる中、異例のスピードで可決されたためだろうか。政府は今回、5月6日に予定している総選挙前というタイミングにあって、議会解散前に未解決の法案を片付ける早期承認プロセスを利用してDEBを通過させた。反対派をはじめ、議員、さらには一部のアーティスト団体も、経済的/社会的な影響など入念に審議する必要がある、と述べていた。反対派の言葉の引用ではあるが、「民主主義にとって不名誉な日」という見出しをつけた記事も並んだ。

数々の修正案の追加と削除を経た後、違法ファイルダウンロードについては、

  1. 著作権保有者はISPに対し、著作権侵害レポートを提出
  2. ISPは1カ月以内に該当する加入者に書簡にて、証拠と共に違法行為を通知
  3. 改善がない場合は技術的方法により制限を加えることができる

となっている。"切断"という文字はなく、"技術的方法による"に落ち着いているが、これはたとえば、帯域制御、アカウントの一時停止、速度制限などが考えられるという。

また、

  • ISPは著作権保有者の要求があればユーザーを匿名化した著作権侵害リストを提出しなければならない
  • 違法ダウンロードを行っている加入者に対して技術的方法による制限を加えなかった場合、ISPは最大25万ポンド(約3,550万円)の罰金を科される可能性がある

などの条項も入っている。

このようにISPは厳しい役回りを求められるが、コスト増も必至だ。窓口/監視役となるOfcom(英国情報通信庁)のコストは著作権保有者がカバーするが、技術的方法による制限については著作権保有者とISPが分け合う(75対25)ことになる。

このようなこともあり、最大手ISPのTalkTalkは以前から声高にDEBに反対してきたが、4月8日付けで声明文を発表した。そこで同社は顧客に対し、

  1. 司法の命令があるまで顧客に関する情報を著作権保有者に提供しないこと
  2. 著作権侵害のためにアカウントを切断するよう指示されたとしても、それには従わず司法に判断をゆだねること

を約束した。

TalkTalkは法案が発表された後にいち早く英国首相官邸公式サイトの陳述ページでDEBに反対する陳述を開始したほか、"Don't Diconnect Us(切断しないで)"というキャンペーンも展開するなど、自社のスタンスを明確に示してきた。他のISPはどうかというと、Skyは賛成、BTやVirgin Mediaは、切断という命令が下った場合にどうするのかについて名言を避けている。

DEBに反対してきたデジタル権利団体Open Rights Groupは、当初から、

  1. インターネットアクセスは市民の権利であって、これを遮断することが違法ダウンロード対策にはならない
  2. 合法的な音楽サービスの育成を奨励することこそ優先課題

の2点を主張してきた。また、違法行為を行っていない家族や公衆Wi-Fiサービスが罰せられる可能性があることも、反対派の懸念に上がっていた。Open Rights Groupがキャンペーン支持者に対し、議員にメールを書くよう呼びかけたところ、2万2,000人がメールを送ったという。また、市民から2万ポンド(約287万円)の寄付を得て、新聞広告も打っている。

このほか、反対運動としては3月24日に100人以上が集まって議会前で反対デモを繰り広げた。先のTalkTalkが開始した陳述には、3万5,000人が署名している。

今後の予定としては、2010年末には、ISPがユーザーの違法行為を通告する書簡送付を開始する。Ofcomは定期的に経過を報告する義務があり、その後12カ月間の経過を見て、違法ダウンロード70%減という当初の目標に満たない場合は、技術的手段による制限を詳細に規定していくことになる。