インターネット普及は政府にもさまざまなインパクトを与えている。前回、フランス政府で持ち上がった"Google税"案を紹介したが、今回は英国の話題。

1月19日(英国時間)、英国政府は「data.gov.uk」(ベータ版)をローンチした。政府データへのワンストップショップとして、一挙に2,500以上のデータセットへのアクセスを提供するものだ。米国の「data.gov」への対抗意識も垣間見れるもので、政府がデータ時代をいかに推進し、活用するのかが戦略として重要になりつつあることを思わせる。

英国政府がもつデータを誰もが自由に閲覧できるdata.gov.uk

このプロジェクトを指揮するのはサーの称号をもつご存じT. バーナーズ・リー氏だ

政府が収集したデータをマッシュアップ用に公開するという動きは、英国がはじめてではない。有名なのは米国政府が2009年5月に公開した「data.gov」で、米国では州単位でもデータ公開の動きがある。また、オーストラリアやカナダなどの政府もサイトを立ち上げている。それでも「data.gov.uk」は注目する価値がありそうだ。それは、このプロジェクトを指揮するのが、World Wide Webの父として有名なTim Berners-Lee氏であり、データを公開する可能性に対して野心的な模索が感じられるためだ。

Berners-Lee氏は2009年6月、サウサンプトン大学教授のNigel Shadbolt氏とともに政府データ公開プロジェクトの統括を命じられた。Guardianの取材に応じたBerners-Lee氏はそのいきさつについて、メリット勲章の夕食会の席でGordon Brown首相と交わした会話を紹介している。「英国がインターネットを最大限に利用するにはどうすべきか」というBrown首相の質問に、「すべてのデータをインターネット上で公開すること」とBerners-Lee氏が回答。すると、Brown首相が「よし、やってみよう」とすぐに賛成したという。それから5カ月後にローンチにこぎつけたことになる。

だが、道のりはその前もその後も、平坦ではなかったようだ。Guardianは2006年より、「Free Our Data」として政府にデータ公開を訴えるキャンペーンを展開してきた。そのような草の根的運動の効果か、2008年には政府主導のマッシュアップコンテスト「Show Us a Better Way」が開かれた。Berners-Lee氏らの下でプロジェクトがスタートした後も、データ公開に懐疑的な省庁・機関もあったようだ。Guardianによると、10月に開発者向けにベータ公開するや、48時間以内にマッシュアップアプリケーションが生まれた。これを見て、懐疑派もオープン化に乗り気になったのだとか。

Berners-Lee氏の下で生まれた「gov.data.uk」は、シンプルさとオープンを特徴に掲げる。オープンは標準、オープンソース、オープンデータの3つの要素を意味し、データの発見、ライセンス、再利用を容易にするとしている。データはRDF(Resource Description Framework)として公開され、通常のキーワードのほかSPARQL検索も可能。Berners-Lee氏が取り組むセマンティックWebを、データセットを組み合わせに応用する実験の要素も入っている。もちろん、開発したアプリケーションは同サイトで公開でき、アイディアを投稿するページやフォーラム、Wikiもある。

政府がデータを公開する、このメリット/デメリットはなかなか予想し難い。開発者にはイノベーション(そしてビジネス)のチャンスを意味するし、市民は政府がどのようなデータを収集・所有しているのかを改めて知る機会になるだろう(公開するデータに、個人データは含まれていない)。これは、政府の責任を重くし、開かれた政府を推進する力となりそうだ。そもそも、Berners-Lee氏が指摘するとおり、「市民はすでに税金を納めており、データは政府のものではなく市民のもの」なのだ。一方で、データ公開により政府はデータのビジュアリゼーション、パターン化などのプロセスを効率化できる。政府が率先してデータを公開して開発を奨励し、デジタル経済を活性化することは、税収増にもつながる。おそらく、潜在性はこれだけではないだろう。

「data.gov.uk」は、政府データで先行しようとする英国政府の戦略も感じられる。ローンチ時に揃えたデータセットは2,500以上。これは、米国のdata.govで公開されているデータセットの約3倍という規模だ。規模と数々の特徴で開発者にアピールしようとする狙いが垣間見える。

実際、「data.gov.uk」公開後、次々と新しいアプリケーションがリストされている。たとえば、王室土地登記所のLand Registry House Price Indexを利用して「Google Street View」と「Microsoft Virtual Earth」を組み合わせた土地情報サイト「Mouseprice」、英国エネルギー・気候変動省の再利用エネルギープロジェクトのリストを利用した「Renewable Energy Map」、英国教育水準局の評価と地図データを組み合わせた「School Finder」など、ローンチ後5日で30近くのアプリケーションがリストされている(一部、ローンチ前に開発されたアプリも含む)。

Berners-Lee氏らは次のステップとして、英国測量局(Ordnance Survey、日本でいう国土地理院)の地図データの公開を挙げている。英BBCによると、Berners-Lee氏らは現在、4月1日公開を目標にOSと協議を進めているという。