米Oracleが米Sun Microsystemsの買収を通じて取得を狙う「MySQL」についての論争が、顧客を巻き込んだ得票合戦に発展しそうだ。Oracleが欧州委員会(EC)の前で欧州の大手顧客を引っ張りだした一方、MySQLの作者Michael "Monty" Widenius氏はブログを通じて、ユーザに対し、ECに向けたキャンペーン運動への参加を呼びかけている。

12月12日、Widenius氏はブログにて、「MySQL存続のために手を貸してほしい」として、MySQLがOracleの手に渡るのを防ぐための緊急の支援を求めた。Oracle買収に反対する旨を記した電子メールをECに送ろうというキャンペーンである。

以前にも取り上げたように、OracleのMySQL取得に懸念を示したECは8月、取引成立を急ぐOracleに待ったをかけた。Javaの管理を懸念とした米司法省が承認を下したところだったが、ECの懸念はMySQLの将来。プロプライエタリのデータベース最大手のOracleが、オープンソースで最も人気のあるMySQLを取得することは競争法に違反すると疑惑を示したのだ。その後ECは公式に異議告知書(State of Objections)を送付、独占禁止法調査の公式なステップに則って調査と審議が進んでいる。

12月10日と11日、ベルギーのEC本部にてこの件に関する聴聞会が開かれた。この聴聞会は報道関係者はもちろん、外部者に対しいっさい非公開で、参加した人は内容を開示することを禁じられている。

Reutersなどの報道によると、Oracleはこの場で、スウェーデンEricsson、英Vodafoneなど欧州ベースの自社顧客を呼び、ユーザーはMySQLが取得されることを懸念していないことを強調したとのことだ。Oracleはまた、ECが結論の根拠としている各種データは公平に選択されたものではなく、自社に不利な事例のみを集めている、などの主張を行ったといわれている。なおOracleはこれまで、

  1. 市場セグメントは重ならない
  2. MySQLを取得することは、(MySQLが競争する)ローエンドでシェアを持つ米Microsoftに牽制をかけることにつながる
  3. MySQLの研究開発投資を増やす

などの点を主張している。

対するEC側としては、ライバルのMicrosoft、独SAP、そしてWidenius氏などが参加したようだ。

Ericssonなどの欧州企業が顧客の立場から懸念ではないと述べたことは、Oracleに有利となるだろう。それが12日のWidenius氏の"緊急"の訴えの背景にあり、顧客を「動員」させたOracleに対し、自分たちもユーザーを動員させるということのようだ。

「すぐにあなた方が支援してくれなければ、Oracleは今日にでもMySQLを所有することになりかねない」とWidenius氏。「OracleはECと協議して妥当な和解案に至るのではなく、顧客に連絡を取り、ECに対し、この取引を無条件で承認するよう求める書簡を作成させた」と記している。Widenius氏の弁護人を務めるFlorian Muller氏など反対派によると、OracleはECへの書簡に記すべき内容を詳細に指示したが、そもそも、MySQLのユーザーというより(買収が遅れることでハードウェアなどSun製品への影響を気にする)Sun製品の顧客に訴えたとのことだ(Muller氏は2005年、結局は否決となった欧州のソフトウェア特許反対運動でロビー運動の中心的役割を果たした人物だ)。

双方は、

  1. MySQLの市場セグメント
  2. オープンソースと著作権

という2つの重要な点で認識が異なる。

1は先述したが、2についてOracleは、たとえ自分たちがMySQLを放棄するとしても、MySQLはオープンソースでありフォークが生まれ、開発は存続されるとすると主張。一方、Widenius氏ら反対派は、フォークではMySQLは存続できない、著作権所有者であるOracleは好きなときにMySQLを殺すことができる、というものだ。

同じような主張は、Free Software Foundation(FSF)とFSFを率いるRichard Stallman氏、英国のデジタル権利団体Open Rights Group(ORG)などがある。なかでもStallman氏は、Oracleが以前買収したオープンソースのストレージエンジンInnoDBについても、開発ペースが遅くなったことや開発に制限が生じていることなどを指摘している。

反対派はOracleがとるべき手段として、

  1. MySQLを他社に売却
  2. MySQLをオープンソースプロジェクトとして存続させるための母体を非営利団体として設立する

などを提案している。中でも2はWidenius氏はじめ、多くが支持する妥協案だ。1については、New York PostがOracleがこの方向性を検討していると報じたが、Oracleはその後、このうわさを否定している。

一方、同じオープンソース団体でもGPL v3起草者のEben Moglen氏(Software Freedom Law Centerの設立者)は、Oracleの要請を受けてECにOracleを支持する書簡を送っている。Moglen氏は「ECはGPLの堅牢性を過小評価している」とし、コードの著作権を誰が所有してもオープンソースプロジェクトは存続できるといった旨を主張している。また、英AlfrescoのMatt Asay氏も、オープンソースブログでECの意図がわからないと疑問を投げている。

コミュニティでも意見が分かれているが、筆者自身が欧州のオープンソース支援コンサルティング企業やオープンソースベンダ数人に聞いてみたところ、著作権がどのような力を持つのかがわからない、という意味から賛成でも反対でもない、という人が多かった。これには、Oracleが今後MySQLをどのようにするのかに関して、情報が少ないことが関係ある。Oracleは「研究開発費がSun時代より増える」としているが、具体的にどのようにオープンソースプロジェクトとしてMySQLをサポートしていくのかに関しては、触れていない。

ECは2010年1月27日までに結論を出すことになっている。

(補足: この原稿は12月13日に執筆したもので、Oracleは14日、MySQLへの10のコミットを発表した。ECはこのコミットを歓迎するとともに、Oracleと建設的な話し合いを進めているとする内容の声明文を発表、事態は進展している。だが、Widenius氏はOracleの約束が5年という有効期限付きである点、ストレージエンジンAPIに限定したもので他のAPIに触れていない点などを非難している)