欧州連合(EU)および加盟国は、さまざまな理由と多様なイニシアティブでオープンソースソフトウェアを支持している。これまではEUが支援し、加盟国レベルで採用というパターンが主だったが、このところEUを縦断してのオープンソースプロジェクトや活用例が見られるようになった。今回のコラムでは、この数週間で欧州政府におけるオープンソースの動きがいくつかあったので紹介したい。

2月末、英国政府は公共システムにおけるオープンソースに関する政府の行動計画を発表した。

内閣府CIO評議会が作成した同行動計画は、2004年に発表したオープンソースに関するポリシーを改訂するものとなる。「オープンソースと非オープンソース製品間で大きなコストの差がない場合は、内在する柔軟性から、オープンソース製品を選択するべきだ」と記すなど、前回と比べ、オープンソース支持の姿勢をより明確に打ち出している。

報告書によると、前回のポリシー発表以降、政府システムにおけるコアのWebサーバの50%が「Apache Web Server」となるなど、オープンソースの導入が進んでいるという。行動計画の序文で、デジタルエンゲージメント担当Tom Watson大臣は、「過去5年間、多くの政府機関が、オープンソースは納税者のために最善であると実証している」と評価している。改訂の最大の目的は、オープンソース利用のペースを加速することにあり、「政府機関のITシステムにおいて、オープンソース製品は完全かつ公正に検討される」と明記されている。

行動計画からは、オープンソースの利用により、適正で透明性のある価格、再利用と活用、イノベーションなどの効果に期待を寄せていることが読み取れる。ドイツ、フランスなどの大陸と比べると、公共機関のオープンソース採用で遅れているといわれる英国だが、最新の政策がどのぐらいの影響を及ぼすかが期待される。

その2週間後、英国の児童・学校・家庭省は英国初の国全体オープンソースプロジェクト「National Digital Resource Bank(NDRB)」の開始を発表した。

NDRBは学校/教育団体のコンソーシアムNorth West Learning Grid(NWLG)が主導するオープンソースのコンテンツレポジトリとなる。デジタル化の時代に向け、ラーニングシステムを構築している学校側が、中身となるコンテンツを共有化しようというもの。当初3,000ポンド(約41万5,000円)相当のコンテンツがCreative Commonsライセンスの下で提供される。種類としては、チュートリアル、ゲーム、写真、オーディオなどがあり、参加する学校は無料で利用できるし、もちろん自分たちのコンテンツを貢献できる。

NDRBは、2009年7月に教師向けに提供を開始し、9月の新学期には学生も利用できるようにする計画だ。

実は、NDRBのコア技術であるオープンソースのコンテンツレポジトリ「Agrega」は、スペイン生まれの技術だ。スペインの産業・観光・商務省が2億7,500万ユーロ(約349億円)を投じたオープンソース支援政策の成果の1つで、NWLGは児童・学校・家庭省とともに、Agregaの採用でスペイン政府と覚書を結んだ。

つまり、NDRBは英国全土のオープンソースプロジェクトとしての顔に加え、共同経済圏を構築するEU加盟国間がオープンソースを共同活用する事例としても期待される。

オープンソースは相互運用性/標準、コストのメリットに加え、地元産業の活性化というメリットも期待できる。そのため、EUでは、公共機関の相互運用性に取り組む組織「Interoperable Delivery of eGovernment Services to Administrations, Businesses and Citizens(IDABC)」の下で、「Open Source Observatory&Repository」という活動を展開し、加盟国の公共機関におけるオープンソース導入を支援している。

EUはさらに、加盟国間でオープンソースを利用しやすくするためのライセンス「European Union Public Licence(EUPL) version 1.1」を作成、3月4日、オープンソース団体Open Source Initiative(OSI)がこれをOSIライセンスとして認定した。GPLv2と互換性があり、多言語対応。EU加盟国の法的環境に適用できるという。EUPLのメンテナンスを担当するIDABCでは、電子政府など公共機関におけるオープンソースの動きを支援できるとしている。Agregaのような動きがさらに増えると注目されている。

国を挙げてオープンソース導入を推進する英国。欧州では公共機関でのオープンソース採用がさかんだ