連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


大きく変わりつつあるコンビニ業界--セブン&アイはコンビニで利益の8割稼ぐ

コンビニエンスストア各社の今年2月期決算が出そろいました。消費増税の影響で消費低迷が言われるわりには各社とも健闘したと言えるでしょう。消費回復傾向を反映して、2016年2月期は各社とも増益を見込んでいます。ただよく見ると、その中で業界トップのセブン-イレブンが2位以下を大きく引き離し、明暗を分けています。それに対し2位のローソンは佐川急便と提携、3位のファミリーマートは業界4位のサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングスと経営統合に踏み切るとのニュースが大きく報道されました。コンビニ業界は大きく変わろうとしており、そのインパクトは小売業界全体にも波及しつつあります。

まずコンビニ大手3社の今年2月期決算の内容を見ると、セブン-イレブンを傘下に持つセブン&アイ・ホールディングスはグループ全体の売上高(コンビニ加盟店を含む)が10兆円の大台に乗せました。これは日本の小売りでは初めてです。本業のもうけを示す営業利益は前年比1.1%増の3433億円で、4期連続で過去最高となりました。2016年2月期は8.6%増と、さらに記録を5期連続に伸ばす見通しです。同社はコンビニのセブン-イレブン、スーパーのイトーヨーカ堂、百貨店のそごう・西武などを傘下に持っていますが、このうちコンビニ部門だけで利益の8割を稼ぎ、増益率も全体より大きい7%台となっています。つまり同社の好業績はコンビニが引っ張っているのです。

一方、ローソンも営業利益が3.5%増となり増収増益でした。ファミリーマートは営業利益は6.7%減でしたが、最終利益では13.5%増と増益を確保しました。

コンビニ大手3社、セブン&アイと他の2社とではかなり大きな差

ちなみに企業の業績を見る際、決算の結果が大事なのは当然ですが、より重要なのは「次の期の見通し」です。各企業の多くは決算の結果とともに、この「見通し」を発表しますので、今後の経営環境や業績を会社自身がどのように考えているかを読み取ることができます。その点から見ると、3社とも2016年2月期は営業利益で増益を見込んでおり、今後の消費回復にはある程度の自信を示しています。

ただ一口にコンビニ大手3社と言いますが、別表の利益額を比較するとセブン&アイと他の2社とではかなり大きな差があることが分かります。この差はどこから生じたのでしょうか。

セブン-イレブンに来店するのは50歳代以上が30%に

これには3つの要因があります。一つは店舗展開です。セブン-イレブンの国内店舗数は1万7491(2015年2月末現在、以下同)で、ローソンの1万2726、ファミリーマートの1万1328に比べてかなり多くなっています。しかもその差は年々開いているのです。セブンがこの3年間で約4600店増やしたのに対し、ローソンの増加店舗数は約1600、ファミマ約2500にとどまっています。

単に店舗数が増えているだけではありません。1店舗当たりの1日の平均売上高はセブンが65万円に対し、ローソンとファミマは50万円台で、10万円以上の開きがあります。これだけ違えば会社全体の利益もずいぶんと差がついてきます。

第2は、セブンがPB(プライベートブランド=自主企画)商品の開発や消費者ニーズを取り込む戦略を業界に先がけて進めていることです。デフレ脱却という新しい時代の流れに対応して、惣菜やレトルト食品などに高級感を持たせてヒット商品を生み出しましたし、客層が若者中心から高齢者や女性の増加に対応して小ぶりの惣菜やカロリーに配慮したPB食品などを増やしています。

同社の来客店調査によれば、20年前は20歳代が全体の60%を占めていましたが、現在では29%に過ぎず、逆に50歳代以上が30%に達しています。もちろんほかの各社もそのような傾向に対応する商品開発などを進めていますが、セブンが常に先行しているのです。

注目されるのは、店で販売している弁当などを宅配するサービス

第3は、前述のような時代の変化に対応して新しいサービスに乗り出していることです。すでに100円コーヒーは有名になりました。店内での抽出コーヒーという商品、100円という低価格、そして店内で飲めるというサービス、いずれも日本のコンビニとしては初めてでしたが、これが大当たり。他のコンビニ各社も追随し、ファストフードの客を奪う形ともなりました。最近、マクドナルドの業績不振はこれも一因なのです。

また注目されるのは、店で販売している弁当などを宅配するサービスを始めたことです。500円以上から無料で届けるというサービスは普通の出前を頼むより安くて便利。同社は宅配用の超小型電気自動車を一部店舗に配置するなどして売り上げを伸ばしています。

これは、一人暮らしの高齢者や働く女性が主なターゲット。店まで買い物に行くのは体力的にきつい、あるいは仕事で疲れていったん帰宅して再び買いものに行くのがつらい、そんな人たちを意識したものです。

これは少子高齢化時代の新しいサービスと言えます。さらにはグループのイトーヨーカ堂やそごう・西武百貨店などのネット通販の商品をセブンの店舗で受け取れるようにするなど、ネット時代に対応した戦略も展開する方針です。

コンビニは単なる小売業ではなく、地域の生活総合サービス産業に

以前、セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長にお会いした時「これからはコンビニは単なる小売業ではなく、地域の生活総合サービス産業に変身していく」と語っていましたが、まさしくそのような戦略を推進中です。

そしてセブンの後を追って、ローソンやファミマも同じような戦略に舵を切っています。冒頭に書いたローソンと佐川の提携、ファミマとユニーの経営統合などもその表れで、今後はそうした業界再編の動きがさらに活発化することが予想されます。各社がセブンとの差を詰めることができるかも見所です。コンビニ各社の競争が小売業界をけん引し、それが消費全体の刺激につながることが期待されるところです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。