【コラム】

どこでもサイエンス

114 月の地名のまめちしき

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今年のノーベル物理学賞は、重力波の観測ができるようになったことについて授与されることになりました。100年前にアインシュタインが予言していた重力波、努力を続けてようやくの観測成功。そして、これによって新しい科学研究が拓けるというわけでございますな。あ、ちなみに重力波そのものの証拠は、1993年のノーベル賞になっています。1979年にアメリカのハルスとテイラーという二人の天文学者が、二つの中性子星という、桁違いに小さくかつ重い天体を観測していて、重力波が出ていないと説明できない現象を発見したのでございます。

ところで400年前に、この重力波の観測よりも、はるかに、はるかに、画期的な! 発見がありました。それは…

月のクレーターと海の発見でございます。

あの、大切なことなのでもう一度言います。

400年前にあった、世紀の発見は、月にクレーターがある、海があるという発見でございました。

ガリレオの月のスケッチと、現代の月の写真 (出典:イタリア版ウィキペディア)

発見者はイタリアのガリレオ・ガリレイ。そう、天才科学者の代名詞みたいにいわれる人ですな。

発見できたのは、当時のオーバーテクノロジー、望遠鏡でございます。望遠鏡は発見者不詳とされていますが、オランダでリッペルスハイなどが製造し、すぐにヨーロッパ各地で評判になったらしいのです。

さて、望遠鏡によって、月は女神ダイアナの光り輝く存在ではなく、デコボコした山やクレーターが多数ある世界であることがわかってしまいました。これ、双眼鏡くらいでもわかります。誰でもわかってしまうので、もう、隠しようがないことなのでございます。最近ではカメラのズームレンズくらいで楽しんでいる人も大勢いるのでございます。天文リフレクションズさんが特集するのはわかるとして、旅雑誌のサライでも記事があるくらいでございますー。また、海といわれる暗い部分であれば、肉眼でもなんとなくわかります。うさぎの模様が見えるというアレでございます。

ちなみにクレーターも海も、隕石の衝突によってできた地形だということがわかっております。が、1960年くらいまでは、クレーターは火山の噴火によるという説が有力だったのですな。実際、火山の噴火口は、クレーターのようなお椀のような地形をしていますし、ハワイにある有名なダイヤモンドヘッドという火山のあともクレーターと呼ばれておりますな。月のクレーターが隕石の衝突あとと思われなかったのは、それがみんな、ほとんどまん丸だからでございます。何かが落ちてまん丸になるには真上からモノが落下しないといけないと思われていたからですね。そんな偶然ばかりなんてありえないだろーってなわけです。実際は非常に高速度で落下すると、かなりナナメから落下しても丸いクレーターになることが実験などで確かめられています。

ところで、そんな月ですが、こうした地形には、名前がつけられています。ガリレオが月のクレーターを発見し、発表したのは、1610年ですが、1645年に発行されたオランダ出身の天文学者ラングレヌス(ラングレン)の月面図には早くも地名がついています。ほとんどはスポンサーのスペイン王と一族の名前でしたが、現在は当人の名前のついているラングレン(Langrem)以外は使われていません。

ラングレンの月面図 (出典:ウィキペディア)

名前のつけかたが、現在につながるのは、1651年にイタリアのリッチオリとグリマルディによる月面地図でございます。

リッチオリの月面図 (出典:ウィキペディア)

この月面図には、コペルニクス(Copemicus)、ティコ(Tycho)、プラトン(Plato)など、クレーターの名前に著名な科学者・哲学者の名前がついております。これらのかなりが、現在でもつかわれています。まあ、しっくりきたんでしょうね。また、海の名前も、雨の海(Mare Imbrium)とか晴れの海(Mare Serenitatis)など、天候などをつけた名前がつけられ、これもおおむね現在も踏襲されています。

その後、1850年ころに月の写真が撮影されるようになり、さらに細かなクレーターにも名前がつけられます。また1959年には、月の裏側の写真が初めてロシア(旧ソ連)のルナ探査機で撮影されて地名がつけられました。

ルナ3号探査機による写真 (出典:ウィキペディア)

このときは「モスクワの海」なんて名前をつけています。SF作家のジュール・ヴェルヌやロケット工学者のツィオルコフスキといった20世紀にかかる時代の人の名前も付けられています。

さて、その後もクレーターに(限りませんが)こまごまと名前がつけられ、これはウィキペディアにまとめられています。

その中に、日本人の名前もいくつか入っていますので紹介しますねー。

  • ヒラヤマ:日本の天文学者平山清次と平山信にちなむ。ちなみに二人は親戚同士ではない。
  • ナオノブ:日本の和算家(数学者)、安島直円にちなむ。
  • アサダ:日本の江戸時代の天文学者、麻田剛立にちなむ。

以下は、最近名前がつけられたものです。月の裏側にあり、地球からは見えません。

  • ナガオカ:日本の物理学者、長岡半太郎にちなむ。
  • ムラカミ:日本の物理学者、村上春太郎にちなむ。
  • ヤマモト:日本の天文学者、山本一清にちなむ。
  • ハタナカ:日本の電波天文学者 畑中武夫にちなむ。
  • ニシナ:日本の物理学者、仁科芳雄にちなむ。
  • キムラ:日本の天文学者、木村栄にちなむ。

木村さんは、天皇陛下もお言葉で例示されたこともある偉人科学者なのでございますな

と、ここでちょっと調べたら 月探査ステーションという、月の研究者がやっている有名なサイトにバッチリ一覧と解説がありますね。なんだ、最初からこれを紹介すればよかったかな。

もっとも、湯川秀樹とかないのか? という感じですが、これは地名がつけられた時代が、湯川さんが存命中だったのでしょうがないですな(存命中の科学者には名前がつかない)。身近な月の名前、時代だねという感じもございますが、まー、将来は、こうした地名が実際の居住地名として意味を持つようになるのですかね? あるいはもっともっと小さな地形にあらたに名前が付けられるようになるのでしょうね。精密観測で新しい名前というのもあると思いますが、月に住むようになると裏山に名前をつけたりとか、大きめの岩に名前をつけたりとか、そんな感じになるでしょうな。たぶん。今の月の研究者の名前や著名科学者の名前もつくといいですね。楽しみはつきませんな。では。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。

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インデックス

連載目次
第116回 奇跡的偶然が生んだ天才、マイケル・ファラデー
第115回 ダークマターすこしばなし
第114回 月の地名のまめちしき
第113回 アップル…いや、グレープコンピュータ
第112回 太陽フレア、とりあえず知っとく?
第111回 土星を巡って13年 - 土星探査機カッシーニ・2017年9月15日に最後の日(後編)
第110回 土星を巡って13年 - 土星探査機カッシーニ・2017年9月15日に最後の日(前編)
第109回 世の中を変えた発明、なんでしょう。
第108回 ハイテク素材と赤い炭
第107回 8月7日(月)深夜・月食を見よう!
第106回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 下半期・その2
第105回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 下半期・その1
第104回 予言者? ジュール・ヴェルヌ
第103回 幻の毎日新聞プラネタリウム館 - 東日(毎日)天文館
第102回 地球は、どう、動いてる?
第101回 アインシュタインの方位磁石 - サイエンスな人の一品
第100回 アストロバイオロジーって、何それ、オイシイの?
第99回 太陽はスゴイ? - 成績発表会
第98回 実験装置、見たい?
第97回 地図と星は仲がいい
第96回 山が変える惑星の模様
第95回 ほとんどの星は爆発しない
第94回 それも「バラ科」ですか……!?
第93回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編その2
第92回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編その1
第91回 流れ星を見つけるコツ
第90回 コピー機の発明について、調べてみたよ
第89回 いにしえの中国やインドの宇宙
第88回 「火星の呪い」が発動
第87回 来年のノーベル賞予想ごっこ
第86回 天文学研究のため、レンジは使わないでください
第85回 カフェでリア充、科学者ハレー
第84回 お月見の日は、どう決まる?
第83回 たまご、熱すると固まるナゾ
第82回 8月12日のペルセウス座流星群と黒い彗星
第81回 絶滅のサイエンスとリョコウバトとウナギ
第80回 ジュノー探査機、木星到着
第79回 「ニホニウム」で知ったかぶりをするための知識5連発
第78回 2016年の「宇宙どうでしょう?」 (下半期)
第77回 増やせばワカルDNA - 「PCR」のお話
第76回 宇宙人を探すなんて、できるの?
第75回 海がない国 スイスで生まれた深海潜水艇
第74回 とりあえず春は、北斗七星。
第73回 くらべてワカル!? 宇宙の世界
第72回 さくらが春に咲くのは、寒さを越えるプログラムがあるから
第71回 ひさしぶりの日食のお知らせ - 日本は2016年3月9日午前11時前後
第70回 「重力波」つかまえました
第69回 春のこよみのサイエンス
第68回 火星をざっくり知っておきましょー
第67回 冬はハワイが近い!? - ジェットストリーム
第66回 2016年の「宇宙、どうでしょう?」(上半期)
第65回 年間最多の流れ星が見える! 12月14日夜はふたご座流星群
第64回 毒についてチョット調べてみました
第63回 凧とかみなり、フランクリン
第62回 はやぶさ2も見られるの?? 人工衛星を見るはなし
第61回 ノーベル賞をゲットしたニュートリノ探知装置
第60回 科学者が、虹遊びをすると…
第59回 日本人は、元素の名づけ親になれるか!?
第58回 数字のケントーをつける話=フェルミ問題
第57回 「星の名決定」総選挙に参加できるぞ!
第56回 夏休み、おてがるサイエンス
第55回 冥王星に接近しました
第54回 硬い冷たいダイヤだよ
第53回 2015年の「宇宙、どうでしょう?」(下半期)
第52回 潜水艦を発明した愛すべきおっさん
第51回 冥王星まめちしき10連発(ビフォー編)
第50回 ジュラ紀とかエディアカラとか、実はローカルな地名ばかりの地球の歴史年代
第49回 夜空の神2共演 - 金星と木星が接近するぞ!
第48回 キャンディをかむと光るのは本当か?
第47回 2015年4月4日夜9時。むこう3年ない皆既月食をみのがすな!!
第46回 浦島太郎とか双子とかとカーナビなサイエンス
第45回 100万年かけて、あったかいーの
第44回 電話より先に発明されたファックス
第43回 世界の「宇宙窓」から
第42回 圧力鍋は、できそこないのエンジン!?
第41回 2015年の「宇宙、どうでしょう?」(上半期)
第40回 12月13~14日は、年に一番流れ星が多い時期
第39回 はやぶさ2、打ち上げそして旅の友
第38回 これだけ知っとこ、小惑星探査機「はやぶさ2」
第37回 誘導ミサイルとポップコーン
第36回 地球上の生物は推定870万種。実はその9割が発見されていない
第35回 祝・日本のお家芸・青色LEDがノーベル賞
第34回 2014年10月8日夜8時。ゼッコーの皆既月食をみのがすな!
第33回 シロウトにチャンス到来・惑星の名前をつけられるぞ!
第32回 スゴイぜ! 彗星探査機「ロゼッタ」
第31回 天才&変人キャベンディッシュ
第30回 渡り鳥が作るV字型編隊の謎
第29回 やってはいけない!サイエンス
第28回 フロッピーの栄枯盛衰
第27回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 下半期編その2
第26回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 下半期編その1
第25回 100円で作れるちょっぴりキケンな科学オモチャ「アストロ・ブラスター」
第24回 5月24日土曜夕方に本当にでるのか!? - 「きりん座流星群」
第23回 いま、サイエンスで一番アツイ? - タンパク質ギョーカイをのぞく
第22回 英国科学雑誌のQ&Aコーナー - そんなに熱くなるなんて…
第21回 2年2カ月に1度のチャンス! - 火星ただいま接近中
第20回 科学なパーソナリティ列伝
第19回 今年が寒いのは太陽のせい? - 実は暗い太陽の未来
第18回 日本に降る雨は「だいたい雪」、だそうです
第17回 どこでもサイエンス-チョコレートは惚れ薬?
第16回 江戸時代からある「クローン」
第15回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編
第14回 謎実験 - ニュートンビーズ
第13回 12月14日はふたご座流星群の日! - サクッとわかる観察ポイント
第12回 新月が出たぞという意味の「カレンダエ」からはじまった「カレンダー」
第11回 気持ちよく歌えるエコーのおはなし
第10回 ノーベル賞を楽しむネタ知識あれこれ(後編)
第9回 ノーベル賞を楽しむネタ知識あれこれ(前編)
第8回 ただいま接近中 ‐ アイソン彗星
第7回 信号ひとつは70ワット - 交通信号機にまつわる科学のはなし
第6回 いますぐ使える「月」の知識11連発(後編)
第5回 いますぐ使える「月」の知識11連発(前編)
第4回 飲める「リトマス試験紙」
第3回 カンタン工作 - 百均虫めがねで「カメラ箱」を作ろう
第2回 8月12日と13日の夜はペルセウス座流星群を観察しよう
第1回 教科書を覗いてみよう - 小学校3年生の理科より「明かりをつけよう」

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