巨大な環が美しい土星。その土星を巡る唯一の人工衛星が、2017年9月15日にその活動を終了します。最後は土星に落下し、まさに土星に骨をうずめるのですな。今回は、そんな土星探査機カッシーニが生涯かけて教えてくれた、土星の発見あれこれをご紹介いたしますよー。

この星なんでしょー?

(C) D. Peach, E. Kraaikamp, F. Colas, M. Delcroix, R. Hueso, G. Therin, C. Sprianu, S2P, IMCCE, OMP

土星! ハイ、正解です。

土星といえば、見事なリング(環)がある星でございます。アクセサリーのモチーフとかにもなってますな。この写真は、フランスとスペイン国境のピレネー山脈にあるピック・デュ・ミディ天文台にある望遠鏡で撮影されたものです。環はより細い環の集合であることや、本体は場所によって帯状に色合いが違い、北極には六角形の模様があることがわかりますな-。キレイな写真でございますね。土星は、地球からざっと14億kmの彼方にあります。

つぎに、こちらの写真です。

(C) NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

白黒写真ですが、明らかに精細度がちがいますねー。また、土星の環が透けている! のがわかります。

撮影したのは、アメリカの土星探査機カッシーニで、土星からの距離は230万kmです。地球から14億kmに対して、ざっと500分の1ですねー。500m離れたところから撮影するか。1mで撮影するか。多少カメラに性能の差があったとしても(実際あるんですが)、そりゃもう、結果は自ずと見えています。さらに、この例えだと、50cmまでつまりは120万kmまで寄って撮影したのがこちらです。土星の表面をたゆたう雲(見える黒い宇宙部分以外全部です)の様子が見て取れます。

(C) NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

ということで、探査機を惑星に送り込むと、どんだけすごいんだということですね。まあ、日本の小惑星探査機はやぶさも「点」にしか見えない小惑星イトカワを目の前にある岩山のように撮影したのでしたね。

さて、この土星探査を最初にやったのは、アメリカのパイオニア11号です。1979年といいますから40年近く前に、土星に2万km接近し、横を通過しながら、映像を送ってきました。この探査機は、巨大なアンテナをしょっていて、40年前の通信技術で14億km離れた土星から「データを送信できればオッケー」という感じのプロジェクトです。それでも、それまで発見されていなかった、土星の環の外側にある別の環を見つけています。

さらに1980年と1981年には、より新鋭のボイジャー1号と2号が土星の横を通過。1号については土星の衛星Titan(タイタン)に接近もしています。分厚い大気を確認しましたが、同時にもやが濃すぎて地表の様子が見られませんでした。また、このときに、土星の環が非常に多数の細い環の集合であることや、環の中に影模様が動いていく様子などもとらえています。また、いくつかの衛星のクローズアップ写真も撮影し、衛星Mimas(ミマス)には巨大なクレーターがあることを発見。当時流行っていた映画「スターウォーズ」にちなんで「まるでデススター」と言われたりしました。ちなみに、それが気に入ったのか、音楽ユニットのアクアマリンの「ミマス」という名前のミュージシャンがいます。天文業界では有名人です。

おっと、カッシーニの話をする前が長くなったじゃありませんか。土星探査機カッシーニは、これまでの探査機とちがい、土星をぐるぐる巡る人工衛星になって、4年間にわたって土星とリングと衛星をじっくり調べましょうというプロジェクトでございます。さらに、はじめてヨーロッパも参加して、カッシーニを母艦にして、土星の衛星のタイタンに着陸機ホイヘンスを下ろすという野心的なものでございます。カッシーニとホイヘンスは両方ともヨーロッパの著名な天文学者にちなんでいて、ホイヘンスは土星の環の発見者。カッシーニは、土星の衛星を4つ発見したほか、環が複数の環からなっていることを発見した人でございます。

さて土星探査機のカッシーニは、1997年打ち上げ。2000年木星を通過しながら探査。2004年土星到着。2005年にタイタンにホイヘンスを送り込む。2008年に観測終了…の予定だったのですが、延長に次ぐ延長を重ね、実はこの原稿を書いている2017年8月現在、まだ観測を続けています。なんと13年間も土星を周回し続けているのでございます。そんなことができるのは、原子力電池を使っているからですね。放射性同位体の熱で発電する仕組みです。この技術はNASAしかもっていないので、アメリカ以外の国は土星探査ができません(太陽電池は太陽から遠すぎて使い物にならない)。同じものを使っているボイジャー探査機は太陽系を脱出していますが、40年間も運用が続けられています。

しかしついに、最後の日・グランドフィナーレを迎えます。2017年9月15日に土星の大気圏に突入して、大気の濃さをしらべつつ、四散消滅するんでございます。ああ、なんとも涙なCG動画がNASAから出ております

なにも、大気圏に突入させなくても、そのまま土星のまわりをまわらせておいてもいいんじゃないの? 遠い将来に我々の子孫が「やあ、ごくろうさん」と文化財として回収すればという考え方もあるかもしれません。でも、そうはいかないのです。

それは、燃料切れでコントロールがきかなくなったカッシーニ探査機が、万一にも衛星に衝突したらマズイからです。土星に衝突させるのはよくて、衛星はダメというのはどういうことなのか? というと、これはカッシーニによる発見が関係しているのですね。

おっと、だいぶ長くなってしまいましたので、ここからの続きは次回ということで。

(後編は9月13日に掲載します)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。