買ったものが使えなくなったイラン

まず、輸入した武器がその後の状況の変化により「使えない」状態になってしまった例から始めよう。目下、核開発疑惑でお騒がせな国、イランがそれだ。

イランはパーレビ王政時代に映画『トップガン』でおなじみのF-14トムキャット戦闘機を輸入した。日本ではF-15イーグルに敗れて主力戦闘機の候補から脱落しており、米海軍以外でF-14を導入したのはイラン空軍だけだ。

ところが、その後のホメイニ革命によって対米関係が極度に悪化したため、米国は当然ながらイランにF-14のパーツを輸出しなくなった。正規のルートによるパーツ輸出を禁じるだけでなく、博物館などで展示しているF-14でも重要なパーツはすべて取り外し、持ち去られて密輸出される事態を避けるというのだから徹底している。

そうなると、イランとしては機体はあっても整備できず、手持ちの機体同士で部品をはぎ取って融通する、いわゆる共食い整備(カニバライズ)などによって乗り切ろうという状況となった。機体だけでなく、搭載している電子機器やミサイルも事情は同じだ。

F-14と言えば、長射程・同時多目標交戦能力を持つフェニックス空対空ミサイルが看板だが、これとてきちんと整備しなければ使えない。イランではフェニックスが使えなくなった代わりに、陸上発射型のホーク地対空ミサイルを手直しして、無理矢理(?)F-14に載せるなんてことまでやっている。

映画『トップガン』で人気者になったグラマンF-14トムキャット戦闘機。米国以外ではパーレビ王政時代のイランに輸出されたが、その後の体制変化と外交関係悪化から、米国はイランに対するF-14のパーツ供給を止めてしまった Photo:US Navy

国営・国有ならではの尽きない悩み

続いて、国営企業・国有企業ならではの事情について、最近の話を2点を取り上げてみよう。まずは、韓国から。

韓国で政府のコントロール下にある防衛関連企業というと、造船を主軸とするDSME(Daewoo Shipbuilding & Marine Engineering)と航空機を主軸とするKAI(Korea Aerospace Industries)がある。いずれも民間への株式放出を計画しているが、DSMEには外国企業による株式取得を禁じている一方で、KAIにはDSMEほど厳しい対応をとっていない。

個人的には、すでに世界有数の地位にある造船産業と、まだ海外からの支援が不可欠な航空機産業の違いが出たのではないかと推測しているが、真相はよくわからない。ともあれ、欧米の大手航空関連企業がKAI株の取得に興味を示しているのは確かだ。もちろん、韓国空軍向け戦闘機を開発・製造する案件に関わることまで視野に入れた動きだろう。

その欧米で、黄金株の取得どころか、政府が自ら防衛関連企業の大株主になっているのがフランスだ。当初は国営でスタートしても、いずれは国が株式を放出して民営化するケースが多いが、フランスは例外だ。艦艇のDCNS、電子機器のタレス、電子機器やエンジンなどを手掛けるサフラン・グループ、航空機のEADSなど、大抵の大手は政府が大株主である。

セクターごとに企業が分かれていれば問題ないが、フランス政府が株主になっている防衛関連企業同士で事業分野が重複することがあるからややこしい。具体的には、タレス・グループとサフラン・グループでは、電子機器や電子光学センサーなどの分野で "衝突" が発生しており、他国への輸出案件で内ゲバ(?)を展開した話すらある。

そこで、政府は株主の立場を活用して両社の間で事業再編成を行うよう圧力をかけているが、当事者がまだ首を縦に振っていない。艦艇の分野では、造船を担当するDCNと、そこに搭載する電子機器などを手掛けるタレスが関連部門を一本化する形でうまく再編成できたが、こちらの件はどうなることか。

このフランスでは、面白いことにアトランティーク造船所の株式を韓国のSTXが取得している(ただし、こちらも政府が一部の株式を保持している)。クルーズ客船の建造で知られている造船所だが、ロシアがフランスからの購入を模索している揚陸艦・ミストラル級の建造所でもある。