民生品利用=COTS化とは?

そもそも、軍隊で武器として用いられるものには民間では出番がない特殊な製品が多い。そうした製品であれば、軍用と民生用の区別はつけやすい。

また、軍用品では気温・粉塵・騒音・振動などの環境条件が過酷だから、それに耐えられるような堅牢性が求められる。軍では、軍隊で使用する装備品について規格や条件を定めているが、それらの中で最もよく知られているのが、MILスペック、つまり米軍が規定している仕様書だろう。

ところが軍隊の装備品と言えば、小銃・機関銃・火砲ぐらいしかなかった時代ならともかく、ハイテク化・情報化が進んできた昨今はいささか状況が異なる。コンピュータやネットワーク機器など、民間で多用されているものと同ジャンルの製品が大量に用いられるようになってきたからだ。

こうした製品は進歩が早く、しかも開発に費用と時間がかかる。それであれば、軍が求める性能を満たしている民生品を調達してきて、そのまま、あるいは軍の過酷な運用環境に耐えられるような実装を施して利用すればよいのではないか、という考えが出てきた。つまり、出来合いの民生品を調達する、それをCOTS(Commercial-off-the-Shelf)化という。

また、製品だけでなく、民間で利用されている仕様・規格を軍用品でも流用して、軍で独自の規格を作るのはやめる、という形のCOTS化もある。ネットワーク・プロトコルが典型例だろうか。

パナソニックのタフブックの軍事利用

出来合いの民生品がそのまま軍隊でも利用されている、極めて有名な事例を紹介しよう。

パナソニックでは長らく、タフブックと呼ばれる頑丈なノートPCを開発・販売している。一般的なノートPCと比較するとはるかに大きく、重く、ゴツい外見をしているが、これは水をかけられても、粉塵を浴びても、衝撃が加わっても問題なく動作を継続できるような設計になっているためだ。

そうした特徴が買われて、この製品は世界各地の軍隊や警察などで大人気となっている。何しろ、銃撃戦の際に跳弾が当たっても動作を続けたというぐらいだから、相当なタフネスぶりだ。

米国陸軍のLightweight Counter-Mortar Radarに用いられているPanasonicの「Toughbook 30」

このタフブック、戦地でノートPCとして使用するだけでなく、無人偵察機に飛行経路をプログラムしたり、無人偵察機が装備するカメラの映像を受信したりする、いわゆる地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)として使われている事例もある。実際、あるメーカーの無人偵察機が報道関係者向けに展示された際、このタフブックが管制ステーションとして置かれていたぐらいだ。

このタフブックの話を拙著『戦うコンピュータ』(毎日コミュニケーションズ刊)で紹介したところ、「これはパソコン兵器であり、回収するようメーカーに要求するべきだ」と言い出した人がいて仰天させられた。

何に驚いたかというと、「頑丈な製品を作る」ということと、「それをユーザーがどう使うか」ということは別問題であるにもかかわらず、それを一緒にして言いがかりをつけ、メーカーに回収を求めるよう呼びかけを行ったところだ。何とも言いがかりのつけようはあるものだ。