昔は武器と民生品の区別が厳然としていた。しかし、兵器のIT化が進んだ結果、軍用品と民生品の境界が曖昧になる部分が生じ、武器輸出規制が難しくなっている。まずは、武器輸出の基本情報として、武器輸出規制や輸出管理制度の話から始めよう。

米国の兵器輸出情報はWebで確認できる!?

数年前、「米国が日本にイージスBMDシステムを輸出しているが、何をどれだけ、いくらで輸出しているかといった情報は教えてもらえない」と、不平を言っている人がいた。たまたまそれを知った筆者が、米国政府の公開情報を引き合いに出して「そんなことはない」と御注進に及んだところ、こう言い返された。

「日本人が英語の文献を読めると思いますか? 日本語の文献がないのだったら、秘密裏にやっているということじゃないですか?」

このコメントを読んで卒倒しそうになったのは秘密である。

海上自衛隊のイージス護衛艦「こんごう」。毎年1隻ずつイージスBMD対応の改修が進められているが、これはロッキード・マーティン社の製品を米国から輸入している(筆者撮影)

この時筆者が引き合いに出したのは、米国防総省の下部組織、DSCA(Defense Security Cooperation Agency)のWebサイトDSCA Major Arms Sales Notificationsだった。

この話からは、日本向けのイージスBMDシステムも含めて、米国が他国に装備品を輸出する際に使用している、FMS(Foreign Military Sales)という制度につながる。FMSは日本語で「有償援助」と訳されていることもあるが、武器輸出管理制度としての側面もある。

FMSの仕組みはこうだ。米国から装備品を輸入したいと考えた国は、米国政府に対し「○○をこれだけ輸入したい」とリクエストを出す。それを受け、政府が審議を行って可否を決定する。OKが出ると、DSCAが議会に「FMS経由で△△国に○○を輸出したい。内訳はこれこれで、金額はいくら」という通告を行う。

この通告は前述のDSCAのWebサイトで公開されており、誰でも内容を参照できる。決して秘密裏にやっているわけではない(笑)。

通告に必ず「この輸出は同盟国の安全保障強化につながるもので云々。地域の基本的軍事バランスには影響しない。米軍の即応体制にも影響しない」といった添え書きがあるのが、いかにもお役所の文書らしい。本当に何の影響もないのかは定かではないが。

DSCAから通告を受ける議会は、「この輸出は米国に不利益をもたらす」と判断した場合、DSCAが議会に通告してから30日以内であれば、FMSによる輸出を阻止することができる。

議会が阻止行動をとらなければ、輸出は承認されたものと見なされる。その後は相手国から代金の支払いを受け、当該国に代わって米軍がメーカーに装備品を発注する。発注元が米軍のため、納入先も当然ながら米軍になり、装備品は米軍に引き渡されてから当該国に送り出される。

こうした手順の関係で、FMS経由で輸出された装備品には米軍の契約番号が付与される。筆者は、FMS経由で輸入した自衛隊の装備品の銘板に、米軍の契約番号が刻印されているのを確認したことがある。また、米軍が他国向けにFMS経由で輸出します、という但し書き付きで発注している調達案件を見かけることもある。

やり方次第では国益を損ねる武器輸出管理

以上のように、「政府部内・国防総省における審議」、「議会における審議」という2段階の審議で、「この国にこの装備品を輸出することは、米国の不利益につながる」という判断がなされれば、リクエストしても輸出は許可されない。

実際、台湾が米国にF-16ファイティングファルコン戦闘機×66機の輸出を求めているが、米国政府承認しないために話が進んでいない。この場合、議会以前で話が止まっているわけだ。逆に、輸出を阻止しなかった場合も、相手国が実施するコンペティションに負けて受注に至らなかったり、相手国の事情が原因で発注が取り止めになったりすることもある。

米国空軍のF-16ファイティングファルコン戦闘機。台湾がこの機体を輸入したいとリクエストしているが、オバマ政権は首を縦に振っていない(Photo : USAF)

あまり注目されない話だが、装備品の輸出は外交政策の一環でもある。装備品の輸出先の国を自国の武器体系に組み込むことができれば、簡単には乗り換えがきかなくなる。また、教育担当や顧問団といった名目で自国の軍人を送り込むこともあり、これも相手国に影響力を行使することにつながる。

そして、いったん納入した装備品はメンテナンスやスペアパーツ供給といった業務をメーカーが継続的に行うことになり、経済的メリットにもつながる。さらに、陳腐化・老朽化した時の代替・アップグレード需要も見込める。

こうした事情があるため、まともな国であれば武器輸出に際して管理制度を整備して、装備品の輸出が自国の国益を損ねることがないよう、注意を払っている。メーカーの利益だけを考えればどんどん輸出するほうがよいが、それで自国の国益を損ねたのでは逆効果だ。もっとも、兵器以外の輸出商品がない国は「買ってくれるならば相手かまわず」という場合もあるが。

FMSのように軍が代理発注する仕組みを有する国は米国ぐらいのようだ。その他の国では、メーカーあるいはその国の武器輸出担当部門(公社形態の場合もある)が相手国と直接契約する、いわゆるDCS(Direct Commercial Sales)が多い。

ただし、DCSだからといって好き勝手に受注してよい訳ではなく、輸出元の政府から輸出許可を取得しなければならない。米国ではFMSとDCSの2本立てになっていて、DCSを使って輸出する場合は国務省の担当部門が輸出許可を出す。先述したように、装備品の輸出も外交政策の一環だから、外交を担当する国務省が許可を出すのは理に適っている。

もっとも、「政府が許可を出すのに時間がかかる」、「何の説明もなく輸出許可申請が却下される」といって、メーカーが不満を抱くケースもある。