はじめまして、織田隼人です。今回からコラムで「決める技術」と「決めさせるノウハウ」について解説していくことになりました。簡単に自己紹介をしておくと、私は心理の仕事と経営コンサルタントの仕事をしています。元々マーケティングに携わっていたとき、心理の重要性に気づき、今では心理の仕事をメインのフィールドに置いています。

本コラムでは、決める技術ということで意思決定のテクニックを、そして決めさせるノウハウとしてマーケティングや上司部下への説得方法を説明していきます。今回は男女別のマーケティングについて見ていきましょう。

買い物をするときに何に注目している?

ご自身のことを振り返ってみてください。あなたは買い物に行く際に、何を買うのか決めてから出かけますか? それとも、現地に着いてから、自分の欲しいものを見つけるタイプですか?

服を買うときであれば、男性は、お店に向かう道中で「今日はポロシャツを買って、ジーンズも一本仕入れて……」などと計画を立てながら進みますが、女性は、「何かカワイイ系の服があればいいな」と、漠然としたことしか考えずに、お店に着いてからどんなものを買うのか考えます。

パソコンを買うときであれば、男性は事前にスペックを調べ、値段、CPUの性能、メモリの容量などを比較して、「この機能が欲しいから、これにしよう」と決めていますが、女性は、仮にある程度目星をつけていても、現地で「あ、このデザインだと私の部屋には合わないな」と思って購入をやめてしまうことがあります。

ものを買うとき、男性と女性とでこのような違いが現れます。これは、男女の視野の違い、ものごとの認知のしかたの違いから起こる現象で、これを知っておくと、マーケティングに大いに役立ちます。

男性は「視野が狭い」

次に、自社の商品、サービスのターゲットはどの層なのか頭に浮かべてみてください。男性向けですか、女性向けですか。どちらをより重視するかによって、商品の売り方はまったく異なります。

まずは男性の場合を考えてみましょう。男性は、商品を選ぶときの「視野」が女性に比べて非常に狭いことが特徴です。

視野が狭いとは、どういうことでしょうか。ひとつは、単純に視界が焦点に集中するということです。何かを見るときに、自分が見たいと思うものだけに意識が集中し、その周辺のものが見えにくくなるのが、男性の視界の特徴なのです。

ネット通販に載せる写真を考えてみましょう。男性相手に商品を売りたいときは、商品の全体像を前面に出す必要はありません。ネックレスであればヘッド部分を、時計であれば文字盤部分を強調するようにするなど、商品のウリの部分を強調することによって、男性からの評価が上がります。これは、次に挙げるもうひとつの「視野」の話とも関わってきます。

男性は商品を選ぶときに、「機能を分解して評価し、自分の欲しい機能に満足しさえすれば、商品全体にも満足する」という意味でも視野が狭いのです。

牛丼屋や定食屋には男性客が圧倒的に多いですよね。これは、牛丼屋の「早く、安い」という2つの「機能」に男性が満足しているからです。しっかりしたお店に比べればやや味が落ちたり、店内が質素に感じられたりしても、その2つ機能さえ平均を上回っていれば、男性客には満足してもらえるのです。

男性が、買い物に行く前に予め計画を立てるのはこのためです。まず、一般的な意味で「視野が狭い」ので、店頭であちこちに目を配って商品を比較するのが苦手です。次に、商品の選別基準という意味でも「視野が狭い」ので、「機能」のように、専門的で、予め調査を必要とするものを重視するからです。

女性は「視野が広い」

それに対して、女性はあらゆる面で、男性より「視野が広く」なっています。これも、男性の場合と同じように、2つの意味が挙げられます。

1つ目は、普通に「視界が広い」という意味です。女性は、1つの商品を見ながら、視界に入っている別の商品と見比べることができますし、それ故に、2つ目の「商品の全体を意識して選ぶ」という特徴も生まれます。

先に挙げた、通販の写真の例を考えてみましょう。女性の場合、ネックレスも時計も、「全体の雰囲気」を重視します。だから、ヘッドだけ強調されてチェーンの情報が少なかったり、文字盤の写真ばかりでバックルの部分がどうなっているのか分からないような構成になっていたりすると、女性は購入をためらいます。「それを身につけているときの自分の姿」がイメージできないからです。

視野が広い女性は、「全体の雰囲気との調和」を非常に重視します。パソコンのように高価なものでも、自分の部屋の雰囲気と合わないと思ったら、どんなにスペックが高くても購入してくれません。女性にとって、「機能」はあくまで評価のひとつ、百点満点のテストのうちのひとつの設問にすぎないのです。

牛丼屋に女性が少ないのもそのためです。「早い、安い」というのは女性にとって、あくまでひとつの項目でしかありません。「清潔感はあるか?」「店内のムードは?」「店員の対応は?」「食器は安っぽくないか?」など、ひとつひとつの得点を積み重ねていかないと、女性からの満足は得られないのです。

これで、女性が買い物に行くとき、予め計画を立てない理由がわかるでしょう。女性が重視する「全体の雰囲気」はネット検索やカタログではわかりにくいものです。店頭に行って初めてわかることを商品の購入動機にするのですから、女性の買い物に時間がかかるのにも納得というものです。

男性は「一点集中」、女性は「全体の雰囲気」を

上記のような男女の違いを知ることによって、商品をターゲットに確実に届けることができます。男性向けであれば「この機能なら競合に負けない!」という一点集中の特徴を作ること。女性向けであれば「全体の雰囲気を良くして、他の商品ともうまく調和するように」すると、それぞれの購入動機につながることでしょう。

飲み会の場所選びを男性陣に任せるとこういうことになりやすい。女性の割合が多いときはとくに気をつけよう

(イラスト ナバタメカズタカ)

執筆者プロフィール

織田隼人 (ODA Hayato)

心理コーディネーター&経営コンサルタント。心理についての解説の仕事をメインにしながら、経営のコンサルティング業務も行っている。元々は経営コンサルがメインで、マーケティングに関わりながら心理学を学んできた。心理の仕事では特に「男女の心理の違い」や「意思決定」を専門としている。男女の心理の違いを解説したブログに「男心と女心」があり、月間アクセス数は100万を超える。ほかにも心理学を学べるWebラジオやアニメーションも配信している。Webサイトはこちら → 知りたい! 相手の気持ち