前回は「データ復旧サービス」について書かせていただきましたが、今回は私どもが取り扱った事例を元に、どんな障害が発生して復旧を依頼いただいているかについて、いくつかお話したいと思います。

その前に、HDDそのものの構造を少しお話しします。

HDDの構造

HDDはハードディスクドライブの略で、その名の通り、硬い円盤の上にデータを記録していくものです。構成部材として、トップカバー、シャーシ、スピンドルモータ、プラッター、ヘッド、VCM(ボイスコイルモーター)、基板となっています。

HDDの内部

シャーシはアルミ合金製で、上記のモータ類、プラッター、ヘッドを収め、位置を定める働きをします(放熱の意味もあります)。トップカバーはシャーシにねじ止めされており、位置決め補助、気密を保つ役目を持っています。最近のドライブは非常にセンシティブで、開封すると上記の位置決めが狂い読めなくなってしまう事もあります。

スピンドルモータはディスクを回転させるためのモータで、通常3相誘導モータが使用され、気密を保つ為磁性流体でシールされています。最近は流体軸受けがほとんどで、これにより低騒音・高速稼動が可能となりましたが、何らかの原因で流体が切れると簡単に破損してしまいます。

また、気圧設計が悪いのか、シール材の磁性流体が内部に噴出していることもあります。私どもがこの仕事を始めてから長足の発達を見せたのが、ヘッドとプラッターでしょう。

まず、プラッターですが、アルミやガラスを基材とし、その上に磁性物質を蒸着させた後に、潤滑層を配置している物が主流です(以前は磁性層は塗布の物がありました)。非常に平滑度が高く、鏡のようです。ここに蒸着される磁性体の内容を変えていく事により高密度化を図っており、メーカー各社の開発成果が試されるところです。

ヘッドについてはインダクティブヘッドからMR(Magneto-Resistive)、TMR(Tunneling Magneto-Resistive)、その先へと進化してきています。インダクティブヘッドはヘッドにコイルが巻いてあり、ヘッドギャップで拾った磁気線に比した誘導電流を検出していました。しかし、現在はこの手法では検出できないため、直接電磁変換を行うMRを使用して変換する方法を用いています。コイルは残っていますが、これは書き込み専用となっています。

また、素子を付けるスライダも流体力学を駆使し、浮上高のコントロールがされています。VCMはヘッドを位置決めするためのモータで、リニアモータに属しています。基本的な考え方はスピーカのコーンを駆動する物と同じで、ここからVCM(VOICE COIL MOTOR)と呼ばれています。ここに使用されている磁石は非常に強力で、下手にいじると指をつぶしてしまう可能性すらあります。

基板については、さまざまなインタフェースがありますが、基本的な構造は同じで、ドライブコントロール、バッファ、インタフーイスコントロールの3つからなっています。最近は各素子の統合、1チップ化が進んでおり、以前のようにICがごろごろ乗っている基板は少なくなりました。 

もう一点、普通に使用される方に直接関係ない項目で、重要な内容としてHDDそのものの起動用ファームとデータがあります。ここが何らかの原因で破損するとドライブは起動できなくなります(変なドライブ名になる等の症状が出ます)。

Seagate製HDDの不具合

このコラムを作成中にある意味タイムリーな事態が発生してしまいました。 1月16日にシーゲート社から「製造したハードディスクの一部について搭載しているファームウェアに問題があり、異常な動作をする場合がある」との発表がありました。 内容については報道されておりますので皆様の中にもご存知の方がおられる かと思います。 シーゲート社のWebサイトにお持ちのドライブが該当しているかの確認方法がありますので、シーゲート社製のハードディスクをお持ちの方は一度ご確認になった方がいいかもしれません。

今回の問題は症状より判断しますと、まさしく上記の起動用データ(SMART情報・代替セクタ情報等)を格納している領域、および情報その物に対して破損が発生し、起動不能・認識不能に至っているものと思われます。認識しなくなっている場合はお客様の手元では直せないと思われますので、私どものような復旧業者に一度相談される事をお勧めいたします。 また、該当するドライブをお持ちで現在動作・認識している方も報道・シーゲート社の対応に留意しつつ、ご利用される事をお勧めいたします。

温度・湿度

以前、グーグルから「ハードディスクの故障と温度は関連性が無い(低い)」という論文(報告文)が発表されました。ただ、実際、私どもにご依頼頂く件数を過去に遡って調べて見ると、やはり夏場に多くなる傾向があります。ハードディスクは一般的なオフィス環境だと、やはり熱(温度)の影響はあるのではないかと思います。

次に湿度ですが、これについては関係無いのではないかと思われる方が多いと思いますが、実は、これがけっこう曲者です。湿度が高いと結露が発生しやすくなり(温度との関係もありますが)、この時ハードディスク内部が同じように結露したら、場合によっては内部の部品がくっ付いてしまします。弊社ではこれを「吸着」といっていますが、軽い状況でしたらドライブの横から軽く叩いてやることで外れる事もあります(試す場合は自己責任で)。

逆に湿度が低くなると、今度はメモリカード類の受難が始まります。冬場に玄関のノブとか車のドアに手を伸ばすと「パチッ」と音がして青白い光がとぶ事がありますが、これが「静電気放電」です。この静電気、侮れません。電流が少ないので手から飛んでも「ピリッ」っという感覚しかありませんが、電圧は数万ボルトの事があるのです。一般の方が使われる電子製品は、静電気に耐えるような設計がなされており、メモリーカードもしかりなのですが、「パチッ」っといった瞬間にメモリーの回路が焼けてしまう事があります。 

衝撃

ハードディスクは、非常に精密で繊細な構造を持っている装置です。最近耐衝撃性をうたうドライブもありますが、衝撃を与えないようにする事が何よりです。ドライブを立てた状態からパタンと倒しただけで衝撃許容度を超えてしまう事もあります。私どもの事例ですと、外付けドライブのケーブルを外し忘れて引張ってしまい、机から落としてしまったり、倒してしまうというご依頼が結構あります。この場合、衝撃を受けた時点でキズがハードディスクの盤面についてしまい、作業が難航する事が多くあります。

メモリカード、USBメモリは気軽に扱え、衝撃にも強いのですが、限界はあります。ご依頼頂いた中でびっくりしたのは、ペットが噛んでしまったというケースです。飲み込んでしまうと大変ですし、メモリーチップまで傷が達してとどめを刺されていたり、といろいろ驚かされる事があります。

停電

停電については、経験されている方がいらっしゃると思いますが、原因はどうであれ、停電するとハードディスクも「お休みモード」になってしまい、起きてこなくなる事があります。

症状については、起動しない、ハードディスクを認識しない、読み出しできない、一部読めなくなる など多様です。再起不能になる物、しばらくすると動く物など色々ですが、動くものでもこの状況になるハードディスクは、どこかに潜在的な異常を秘めている物が大半です。

メモリカードでも、デジカメのバッテリーが弱っている時には、ストロボが発光した後や、パソコンにデータ転送中に電圧が限界を超えて下がってしまった場合などには同じようなことになってしまい、二度と利用できないことがあります。

人的ミス

PC・ソフトウェアはミスをしませんが、人はミスをします。消去したデータは救える可能性は残っていますが、保存している場所には注意が必要です。過去に依頼頂いたケースで、どうしてもお客様のファイルが見つからず、お客様所有のサーバにデータが入っていた事がありました。

また、これからの季節で増える内容として、人事異動に伴うユーザー情報の消失があります。PCを使う人が変わった時にPC内部に保存していたデータを消してしまい、あとからそれが判明するというケースが多く、毎年3-4月にご依頼頂くケースが多いです。基本的にこの障害が発生する原因は「勘違い」「思い込み」に集約されるのではないかと思います。 

もうひとつ、ときどきノートPCを使用中に水などをこぼしたというケースがあります。うっかり手が滑った、コップを倒したなど、原因はさまざまなようです。このような事態に対処するため、キーボード面が防水仕様になっており内部に水が入らないPCも何社か出しています。

RAIDは万能にあらず

ハードディスクを複数台使用して作るRAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)というものがあります。RAIDは他のHDDと全く異なる記録方式を採用していますので、復旧には手間がかかります。

RAIDでは、使用しているHDDを効率良く使うために、情報を全てのディスクに均等に書き込んでいきます。ですから、復旧する場合には全てのディスクから情報を引き出す必要があります。このRAID、考え方を間違うと後々大変な事になります。まず、RAIDはバックアップ、ソフトウェアエラー対策には使えません。あくまでもハードウェアの障害に対応するためのものであり、それなりの手間をかけてやらないといけません。ありがちなパターンとして、RAID5構成をしていたので安心してしまったのか、NGドライブが出ているのに気がつかず、もう一台壊れてRAIDが構成出来なくなった時点で初めて異常に気づくというケースがあります。また、RAID1を組んでいて消去してしまったデータを復旧してほしいというご依頼もありました、しかし、RAID1はドライブ両方に書いたり、消したりしますので「しっかり」消えてしまい回収できずという事もありました。

バックアップの落とし穴

バックアップでは、データファイルを同じドライブの中にバックアップとして入れておられる方がいます。上記の「人的ミス」には有力な手ですが、ドライブやファイル構造(前回の目次にあたる部分)が壊れるとどうにもなりません。違う媒体に書き出してバックアップする場合も注意が必要です。

テープの依頼の場合だと、お客様のテープ装置では読めなくなってしまい、私どもにご依頼頂いた所、書いたドライブと読んだドライブ装置間の互換性に問題があり、読めなくなっていたというケースもありました。また、履歴管理に失敗して現在のデータを前のデータで上書きしてしまった、DVDにコピーして履歴管理していたつもりでいたらショートカットが作られていただけで、本体はどんどん上書きされていた事例もありました。

まだまだ紹介できていない事例もあるのですが、書き出すとキリがありません。ご依頼頂く内容は大筋では同じ枠内にはいるかも知れませんが、一つ一つの事例は異なっていますので。

次回は、上記のような事になった時、ユーザーが自分で出来ること、業者に依頼したほうがいいことについてのお話をさせて頂く予定です。

(ワイ・イー・データ オントラック事業部 尾形)

ワイ・イー・データ オントラック事業部

1994年末、データ復旧サービスの世界最大手である米オントラック社と独占的技術導入契約を締結し、ストレージ機器の製造・開発技術・経験・設備を活かしたデータ復旧サービス事業に進出。1995年、国内で最初のデータ復旧専用ラボを埼玉県入間市に開設し、国内及びアジア地区の拠点として、デジタルカメラ用メモリーカードからHDD、大規模サーバ、NAS等データなどの復旧サービスを提供している。業界で唯一の東証上場会社でもある。
参照:ワイ・イー・データ データ復旧サービス