前回、年上の部下の高木に対し、資料の問題点を指摘したところ逆ギレされた林。ここでもう1度、林の会議の進め方を振り返ってみよう。

  1. まず、プレゼン資料を期日までに準備してくれたことに対して礼を言う
  2. プレゼン資料のいい点について気がついたことをいくつか指摘する
  3. 2番についての高木の意見を聴く
  4. 間違いと問題点を指摘し、建設的な意見をいう
  5. 4番についての高木の意見を聴く
  6. 間違いを正して、プレゼン資料を修正させる

林の会議の進め方は、フィードバックの割合も考慮されていて、1番から4番までの進め方はまったく問題がない。しかし、5番に入ってからの林の高木に対する対応の仕方に問題があったと言える。

仮にも相手にコーチングをしようとするときは、自分をもっとオープンにして、相手を受け入れる心準備が必要である。高木が感情的に反応してきたとき、林は自分も感情的になるのではなく、「高木に適切な質問をする」ことにエネルギーをシフトすべきであった。適切な質問をして高木に話させ、高木の話を聴くことによって、「高木が挑戦的になって自分の間違いを認めないのはなぜだろうか?」という理由がわかってくるのである。

ここは忍耐がいる過程である。感情的になった状態では決してうまく乗り切ることはできない。林のように、高木が自分の思い通りに反応しなかったので、つい感情的になり、何とか思い通りにさせようとする気持ちが馳せると、上から下に向かう「人を馬鹿にしたような物言い」になり、取り返しのつかないことになってしまうことがよくある。人間相手のコーチングはいつも計画通りには進まないことを覚えておく必要がある。

質問のしかたとしては、次のようにして、問題の核心に触れていくことができる。

「トップの戦略では、○○○とあるのですが、これは、高木さんのプレゼン資料の中ではどのあたりに関係づければいいと思われますか?」

「ビジネスモデルでは、△△△で利益を得るので、顧客には×××を理解してもらう必要があるのですが、どのような形で高木さんのプレゼンに結びつければいいでしょうか?」

もうひとつ、今回のコーチングの試みが失敗に終わった理由がある。それは林が「リーダーとしてやるべきことをやらなかった」ということだ。林は早急にこの点に気付くべきである。それは「英語」だ。

トップからの戦略が英語で下りてきたのであれば、グループリーダーだけでも集まって、お互いの共通理解を図るべきである。そもそも、トップの描いた戦略は、日本語でもわかりにくい場合があるものだ。ある程度噛み砕いて、部下にトップの意向を伝えるのは、リーダーの責任である。林は自分が英語に問題がないので、他の人たちも同じように問題がないと思い込みをしていた。これは、できる人間によくある落とし穴である。

自分が難なくこなせるからといって、他人も同じということはまずない。まして、英語に関しては日本人は見栄を張りたがるもの。「英語の資料くらい問題ないよね?」と聞かれて「いや、英語全然ダメなんですよ」と素直に言えず、わかったフリをして汗をかいている人はけっこう、多い…(あなたも身に覚え、ありませんか?)

(イラスト ナバタメ・カズタカ)