自分を知るための自己診断用質問 III

林は「誰にでも丁寧に話すこと」「感謝することを探して、礼を言うこと」を、1日に最低2回行う、ということをなんとか1週間続けた。幼稚園児に戻ったような気がしないでもないが、PCの画面に1時間ごとに定期的にメッセージとして出るようにし、つねに思い出して行動に移すように努めた。

不思議なことに、丁寧に話すことにはだんだん慣れてきて、言葉使いもよくなってきたので、上司から褒められたりすることもあった。感謝することを探すなんて何もみつからないのでは…と思い込んでいたのだが、ちょっと観察してみると、結構たくさんあることに気付いた。今週の初めに、高木の貢献ぶりをみんなの前で話すという、自分としては異例の技を思い切ってやってみたが、案外高木の反応がいいので、他のチームメンバーに対しても朝のミーティングのような機会を利用して、続けることにした。

今日は、次の質問にチャレンジすることにした。

年上の部下に自分の知らないことを質問をしたり、相談したりしていますか? やっていないとすれば、それはなぜですか?

  • A. 馬鹿にされないように「何でも知っている」というイメージを保ちたい
  • B. 質問や相談をしても、本気でちゃんと答えてくれるかどうか心配
  • C. 自分より知っているとは思えないので、質問や相談はするだけ時間の無駄
  • D. 質問や相談したいと思うが、どのようにしたらいいのかわからない

診断参考材料

Aを選んだ場合

「何でも知っている」上司ぶることは、チームワーク精神、コラボレーション精神を養う上でもマイナスになる。「何でも知っている」「何でもできる」人間はいない。それぞれ「知っていること、知らないこと」「得意、不得意」があって当たり前である。それを把握し、ある人が不得意なところを他の人の得意なところで補うようにして、それぞれの得意とするとこをがいかせるようにコラボレーションを推進していくことが、リーダの仕事である。

実際に自分で質問をすることを戸惑ったり、恥ずかしいと思ったりするとすれば、リーダーとして「コラボレーション」を醸成していない証拠である。「知らない」ことは恥ではない。どのようにして答えをみつければいいのか、誰に訊けばいいのか、それらを理解することがもっと重要である。とくに年上の部下にとって、「何でも自分は知っている」風を吹かせる年下の上司ほど鼻につくものはないのではないだろうか。

年をとればとるほど、「知らない」というのは勇気がいる。だが、はっきりと「知らない」と言い、それに対しての答えを探す努力をし、チームのために貢献している上司には、年齢を問わず、尊敬の念が出てくるものである。

Bを選んだ場合

高木を信頼していないということである。同時に高木も林を信頼していないであろう。

信頼関係は、相手が信頼してくれるのを待っていてできるものではない。ある程度「相手に裏切られても仕方がない」という気持ちで、自分が信じたことをやり続け、少しずつできあがってくるものである。

最初はちゃんと答えてくれないことが何度か続くかもしれない。しかし、あきらめずに自分の姿勢に一貫性をもたせていると、少しずつ高木も「自分のことを信頼してくれているのかな」という気持ちになってくる。信頼関係はゲームではないので、あせって急いでも功を成さない。

Cを選んだ場合

高木を下に見ている証拠である。

自分の目から、どんなに「能力がない」と見えても、質問したり、相談してみたりしないと、相手からどんな情報が得られるかはわからないものである。価値ある情報を得られるかどうかは、質問する側の訊き方/話し方によって決まる。「新しい考え方」「ソリューション」は予期せぬところから出てくることが多々ある。また、「得た情報」は聴き手によって価値にもなり、また無駄にもなるので、自分をオープンにして人の意見に耳を傾ける姿勢がリーダーとして大事である。

Dを選んだ場合

まず、「すみません。ちょっとお時間をいただけますか。ご相談したいことがあるのですが。今、○○○についてわからなくて困っているんですが……」というように、相手に自分の弱みをさらけ出すようにして話かけてみる。このような言い方であれば、誰も即「嫌」とは言わない。少なくとも聞く姿勢になる。

次に、「高木さんは今までも、○○○について取り組んできておられるので、この新しいアプローチについてのお考えを、今までのご経験を含めて、ぜひ伺いたいのですが…」と、相手の経験や知識を尊重しているがゆえに頼っていることを伝える。年上の大人は年下から頼られたりすると嫌な気がしないことを覚えておき、丁寧な言葉で頼み、きちんと礼を言い、機会があればその功を皆の前で共有することに努力する。

若いリーダーに欠けがちなコラボレーション能力

林は自己診断した結果、またもや4つ全部に当てはまってしまった。まだ、自分のエリート意識がそこかしこで頭を出していることに気付いた。

高木に対しての態度は、ひいては、コラボレーション能力にも関係していることに気付いた林は、自分のアクションとして、「知らない、わからない」ことに対し、全部自分でやろうとせずに、チームメンバーを登用することをこの1年の自分の目標にした。そして手始めに、高木に相談できること/質問することを洗い出してみた。このプロセスを通して、林は、自分が高木の得意とする分野を探していることに気付いた。

年上の部下に対しては弱みではなく強みに注力し、それを活かすようにすることがま先決である。自分の弱みを見せて、質問や相談することを習慣づけるということは、「年上の部下」の強みを明確化することに役立ち、また、コンプレックスを感じている「年上の部下」には、働くことの「励まし」となり、「信頼関係」の構築にも役立つのである。

年上部下に対する丁寧な言葉使いと感謝の気持ちの表現…いざ、やってみるとけっこうストレスになることに気づく。「部下に気を遣うのも上司の仕事のうち」くらいに割り切らないと、「なんでオレがヤツにこんなに…」という負のストレスが積もってくる。ときには部下に対しての不満をどこかで発散させたほうがいい

(イラスト ナバタメ・カズタカ)