前回では、人を変えようとする前に自分を振り返り、自分自身を知ることの大切さについて述べたが、いざ振り返ろうとしても何に対して振りかえればいいのか、具体的な部分が思い浮かばないのが現実である。そこで今回は、自身の「振り返り」につながるいくつかの質問を挙げ、それを中心にして、今後、自分で試してみることができるスキルについてご紹介したいと思う。

自分を知るための自己診断用質問

「年上の部下」に対して敬語を使っていますか? 使っていないとすれば、それはなぜですか?
A. 部下に対して敬語を使う必要がないと自分が感じているから
B. 「できない部下」に対して敬語を使う気になれないから
C. 敬語の使い方がわからないから
D. 敬語はわずらわしく、使うことに意味を感じていないから

診断参考材料

Aを選んだ場合

自分の肩書きに酔って権威を重視するタイプのリーダーになっている。「親しくなった」から敬語を使わないのと、「部下」だから敬語を使わないのとでは、人間関係が大きく違う。気をつけないと、将来、いつのまにか権威を振り回す上司になってしまい、年上/年下に関係なく部下から「リーダー」として尊敬されなくなるので要注意。肩書きに関係なく、丁寧な言葉使いができるように努力することが必要。

Bを選んだ場合

さらに質問。「できない」「能力がない」は、何をもってそのように部下を判断していますか?

  • 自分の物差し? 世間一般、業界に通用する物差し? それとも自分の職場独特の物差し?
  • また、「部下」はそのような物差しについて認識していますか?
  • 部下に対し、あなたが何をもって「できる/できない」「能力がある/ない」を判断しているかを明示していますか?

「できる/できない」は何を対象にするかによって評価が異なる。もし、きっちりとした評価の基準ではなく、自分の物差しだけで「できない」と決め付けているとしたら、それは、部下に対して不公平であることを認識すべきである。

また、人には得意/不得意があり、技術知識に優れていても他人とのコミュニケーションはまったくダメという人もいる。リーダーは、部下のもっている強み/弱みを見つけ出し、その強みをどう生かしたらいいのかを考え出すことも大事な役割である。同じ能力ばかりの人たちが集まっているチームより、違う能力を出し合って集結できるチームのほうが、革新性や創造性をもつ強いコラボレーションチームになる。部下の「できない」部分を見るより、「できる」部分を探すほうにエネルギーを注ぐべきではないだろうか。

Cを選んだ場合

敬語の使い方を知らないことは、日本の社会で生きていくは弱点でもあるが、それを克服できれば、年上の部下との関係を改善する1つの好材料になる。「何とかしたい」という気持ちがあれば、プライドを捨てて、敬語の使い方が上手な「年上の部下」にメンターになってくれるように頼めばいい。たとえば「実は、言葉の使い方についてちゃんとした研修を受けたことがないので、敬語の使い方がわからないんです。クライアントのところで失敗したこともあるんですよ」と正直に自分の弱みをさらけだし、「気がついたときに、指摘していただけると助かるんですが…」と頼んでみたらどうだろうか。

年上の人は「年下から頼ってもらっている」と思うと悪い気はしないものである。シナリオの高木のように、外には出さないがコンプレックスと嫉妬感がある部下の場合、対抗意識を燃やさせるより、林が自分自身の弱みを探して、それを部下の強みでカバーしてもらうようにすると効果的である。自分が役立っているという部下自身の存在観につながっていき、仲間意識が出てくるからである。

自分の弱みに気付くことは、自分にない部下の強みを生かすチャンスに気付くことでもある。人を生かすには、いかに自分が優秀で何でもできるかを顕示するより、「いかに自分が回りの助けを必要としていて、ありがたく思っているか」を、毎日の対話を通して地道に伝えていく努力をするほうが、ずっと効果的である。

Dを選んだ場合

さらに質問。「年上の部下」の立場に立って考えてみたことがありますか?

自分にとっては「意味がないと思う」ことであっても、年上/年下関係なく「相手の立場に立ってものを言う」という姿勢は、日本の文化のいいところである。林のように「自分のことを上司として認めてくれていない」とムカつく前に、相手を尊重していない自分の言動に気付き、相手が話しやすいような話し方をするのも、上司としての仕事のひとつである。

このように、言葉の使い方ひとつをとってみても、自分自身を知るいい診断材料となる。

乱暴な言葉遣いは乱暴な人間関係しか築けない。たとえ部下であっても年上に対してぞんざいな口の利き方をするのは控えるべき。その部下だけでなく、周囲の人々があなたに向ける視線が冷たいモノになりかねない(たとえば…あなたは掃除のおばさんにぞんざいな態度を取る上司と一緒に仕事をしたいですか?)

(イラスト ナバタメ・カズタカ)