今回の選書

「彼女はなぜ「それ」を選ぶのか?」(パコ・アンダーヒル) 早川書房

「彼女はなぜ「それ」を選ぶのか?」(パコ・アンダーヒル) 早川書房

選書サマリー

世界中を回っていて感じること、それは、女性の影響力が増していることだ。文化にも、社会にも、経済にも、世界中で女性の影響力が増してきていることを感じる。

たとえば、パッケージやデザイン、サービスなど、あらゆるものが“女性向け”になっている。それは、あらゆる領域で、女性の存在感が大きくなっていることのあかしだ。

状況は急速に変わりつつある。商品のパッケージも、衣服も、これまで比較的男性の影響力が大きかった大型の車や電化製品にいたるまで、女性を意識せずに売れなくなっている。

商品だけではない。ホテル、職場、店、レストラン、娯楽施設などの場所や、ネット販売やお手伝いさん、銀行やレンタカーなどのサービスでも、女性の存在感が増しているのだ。

女性の影響力の増大は、統計的にも明らかだ。たとえば、アメリカ人女性の約70%が外で働いている。給料以外にも、家計や相続など、世界で動くお金の多くを女性が握っているのだ。

高等教育でも、女性は多数を占める。アメリカとカナダでは、多くのカレッジや大学で、6対4で女性が多い。今日、多くの女性が、工学、物理学、コンピュータサイエンスなどを学んでいるのだ。

ビジネスのトップも、医療や法律、科学の分野でも女性が増えている。これは1970年代から見られる傾向だ。これらになるための教育プログラムを女性が大幅に変えてきたのだ。

女性は、今や家庭だけでなく、会社も切り盛りしている。驚くほど多くの女性がビジネススクールに通い、出張に出かけている。アメリカでは、書籍を買う人の大半も女性だ。

女性はまた、家族全員のために食べ物を獲得するし、家族の社会生活の計画を立てている。映画やテレビ番組も制作し、自己流のお笑いも練る。芸術も音楽も生み出している。

男女の性差が完全に平等になることはありえない。だが、女性は、男性との距離を縮めつつあるし、今後はもっとはっきりとしてくるはずだ。

2005年、摩訶不思議な統計が飛び出した。歴史上初めて、アメリカ最大都市のいくつかで、30歳以下の若い女性の収入が、男性を追い越したというのだ。

この変化は1990年代終わりに、ロサンゼルスやダラスなどの都会で始まったものだ。2000年にはニューヨークに飛び火し、男女の賃金は事実上互角になった。

その5年後、ニューヨークの5地区の一角に住む21~30歳のフルタイムで働く女性の給与は、同じ職種で働く男性の給与を超えて、117%になった。

女性の経済力の上昇は、雇用者数に比例している。アメリカでは、2009年現在の失業率は8.5%だが、25歳で就職しているのは男性より女性のほうが高い。

厳しい経済状況であることも女性が好まれる理由だ。最近の景気後退の結果、解雇された人の82%は男性だった。建設や製造業などの業界で圧倒的に多くを占めていたのが男性だからだ。

歴史的に、女性はヘルスケアなどの業界で働く傾向があるが、こうした業界は景気の変動を受けにくいことも一因だ。ブラジルもアメリカ同様、男性の失業率は女性の失業率よりもはるかに高い。

高等教育を受けていれば、高給の仕事にありつける可能性は高くなる。男女ともに高校を卒業していない人の失業率は73%前後だが、高校を卒業すれば、仕事を得る確率は5%近く高くなる。

さらに、大学や大学院を卒業すれば就職し易くなる。アメリカでは、今や大学の学位を取る男性100人に対して、女性は140人だ。この差は今後も広がるはずだ。

このように、女性の影響力が増している。企業はこの事実を直視し、対応するべきだ。

選書コメント

女性の購買欲を刺激して、売上を上げる方法を考えます。経済的に大きな影響力を持つようになった女性の欲求を満たし、売上を上げる方法を詳述します。

「女性は、何を基準に購買を決定するのか」「売り手はどう対処すべきか」「成功している企業は何をしているか」などを、食、アパレル、家電製品など、分野別に考えます。

リサーチを元に客観的に書かれていますが、教科書のように体系的にまとめられた内容ではありません。様々な事例を紹介しつつ、随筆風に、時にはユーモラスに解説してくれます。

女性が購買決定者であることは、これまでも言われてきたことです。それは、女性が、家計の担い手であり、独身のうちも消費欲が盛んだからです

加えて、昨今は女性の就業者が増え、さらに高学歴化が進みました。その結果、所得水準も増しています。女性は、さらに力を持つようになったのです。

本書で描かれるのは、米国の現象ですが、同じ現象が世界中で起きつつあります。日本も例外ではありません。ここにあることは、必ず日本でも起きることです。

だが、日本の企業も、本書の内容を外国の出来事としてとらえるのでなく、まさに自国のこととして、今から知っておくべきです。そして、今から備えておくことが大切です。

経営者や経営幹部、マーケティングの担当者、マーケッターはもちろん、マーケティングに携わる人や、消費者の動向に興味あるすべての人にお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。