いよいよ衣服のディテールを造形していきます。まずは白衣を作っていきます。風になびく白衣の裾が、この造形の肝です。薄物を作る方法はいろいろありますが、ポピュラーなエポキシパテを使います。この作例のスカートの裾でも使いましたが、スカートの裾より面積(体積)が広いので、今回は別の種類のエポキシパテ「マジックスカルプ」を使います。

今回使用した「マジックスカルプ」

私が使用いるエポキシパテの中では、一番薄物に適しています。薄くしても粘りがあるので破れ難い。硬化時間が比較的短い。硬化後は丈夫である。一度に大量に使える。これらの利点があります。単価はかなり高価ですが、約450g入りで私が常用している造形パテ(速硬)の約18個分の量があります。実際、「これに勝るエポパテなし」と、言い切る同業者も多いです。そのパテを使う量だけ用意します。

白衣の造形に必要な分量のエポキシパテを用意

A剤とB剤を良く練った後、塊のまましばらく放置。練り終わった直後は軟らか過ぎて、薄く延ばすと千切れやすいので造形には向きません。しばらく置いたほうが硬化が進み延ばしやすい硬さになります。今回は様子を見ながら約25分(室温28℃の状態)置きます。この放置時間は、室温やパテの量によっても変わってくるので、経験を重ねて判断しましょう。

次に混ぜたパテにベビーパウダーをまぶしながら、棒状の物で延ばします。この時、パテの厚みを均一にする必要は無いです。棒状の物だけでなく、手で引っ張ったりして形を整えながら延ばします。当然千切れには十分注意しつつ作業を行います。

ベビーパウダーをまぶしたエポキシパテを丁寧に整形

もしパテが千切れた時は、もう一度全体を丸めて延ばし直せば大丈夫です。ただし、パテにはベビーパウダーがかなり付着しているので、やり直すとパウダーを再びパテに練りこむことになってしまいます。パンダーの量が多くなりすぎると、パテの粘りが無くなるので、やり直しは3~4回までが限界です。

次に、延ばし終わったパテを、フィギュア本体に着せるように貼り付けます。貼り付けると言っても、接着剤を使うのではなく、パテ自体に残った接着力で本体に押し付けていきます。フィギュア本体の脇の下にも当然回りこんでいるので、切れ目を入れて巻き込みます。

このように上着となる部分を巻きつけていく

次に上着にシワをつけていきます。大きなシワは指で直接つけていきます。細かい部分や食い込みには、スパチュラを使用します。

指と工具を駆使しディテールを追加していく

この作業中にも、パテはどんどん硬化していきます。整形しつつも、硬化具合を見て、フィギュア本体を台などに固定します。今回は、足先から出ている芯のアルミ剤を万力に固定しました。こうすることによって、白衣のなびき加減などの表現は、重力にも助けてもらい形を決めていきます。自分の手で整形するだけでなく、重力も利用したほうが、自然な感じが出ます。

重力を利用し、リアルな造形を行う

ただし、重力を利用した造形では、極端な3次曲面や、イラスト的な表現にはむいていません。今回もある程度のオーバーな表現は、その部分を手で整えながら白熱ランプで熱を集中的に当てて、部分的に加熱することで行っています。このまま、白熱ランプを場所を変えながら全体に当てていき、パテを硬化させます。

ライトの熱で硬化させつつ造形していく

安藤賢司
バンダイ『S.I.C』シリーズなど、多数のハイエンドな玩具の原型を担当。「原型師がマスプロダクツ製品のパッケージに名前を刻まれる」という偉業を成し遂げ、「玩具原型」の認識を「作品」のレベルまで高めた。『S.I.C』シリーズ最新作の原型を常に製作中。アニメ『TIGER & BUNNY』のデザインにも参加