前回、UAV(Unmanned Aerial Vehicle : 無人航空機)に不可欠な「地上からの遠隔操縦・遠隔操作」に不可欠のアイテムである、地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)について取り上げた。

空を飛ぶ飛行機を遠隔操縦・遠隔操作するのにケーブルをズルズル引きずるわけにはいかないから、当然ながらUAVとGCSの間の通信は無線通信となる。ということで今回は、その無線通信の話を。

無線通信で考えなければならないポイント

では、UAVとGCSの間で使用する無線通信の仕様策定や機材の設計に際して、考慮しなければならないポイントには、どんなものがあるだろうか。

まず、充分な伝送能力の実現は必須であり、これが実現できないことには始まらない。姿勢・方位・位置情報をUAVからGCSに送り、それを受けてGCSの前にいるオペレーターが行った操縦操作に関する指令をUAVに送る。これぐらいであれば、データ量はさほど多くならないと考えられる。

ところが前回にも触れたように、UAVがセンサーを搭載して、そこで得たデータを送ってくるとなると話が違う。前回に引き合いに出した、報道機関が使用するカメラ付きUAVにしても、あるいはISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance : 情報収集・監視・偵察)用途の軍用UAVにしても、静止画や動画を送ってくるわけだから、データ量はテキスト・ベースのやりとりと比べると桁違いに多い。当然、それに見合った伝送能力を持つ通信機材が必要になる。

基本的には、伝送能力を高めようとすると周波数帯が上がる。ところが、周波数帯が高くなると、通信可能な距離が短くなる。減衰が起きやすくなるだけでなく、直進性が強まる事情も影響する。動画の伝送ができるぐらいの能力を持つ無線通信であれば、基本的には見通し線の圏内で使用するものだと考える方が良さそうである。

実際、軍用UAVの中には機体の性能ではなく無線通信の能力が、機体の進出可能距離を制約しているのではないかと思われる事例もある。機体が充分な航続性能を持ち、たとえば「100km先まで進出して××時間のロイターが可能」といっても、100km先まで電波が届かなければ、得られた情報が手に入らない。それではUAVを飛ばす意味が怪しくなる。

さらに厄介なことに、能力的・技術的な見地からのみ、電波の周波数帯を決めることはできない。電波は限りある資源だから、国ごとにそれぞれ、用途を決めて周波数帯の割り当てを行っている。ところが、その周波数帯の割り当て状況は国によって異なるから、ある国では使えた周波数帯が、別の国に行くとダメ、ということは日常的に起こり得る。

これをUAVメーカーの立場から見ると、同一仕様の機体を世界中に売りさばくのが難しいという話になる。仕向地によって、UAVとGCSの間で使用する無線通信の周波数を変える必要があり、すると当然ながらハードウェアは別々になり、開発段階でのテストも別々に必要になる。ソフトウェア無線機(SDR : Software Defined Radio)を利用することで、この問題を緩和できると助かりそうだが、どうだろうか。

遠出をするなら衛星通信

周波数帯割り当ての問題はともかく、いわゆる地上波では伝送能力と遠達性の両立が難しいことから、遠出をするUAVではGCSとの間で衛星通信を利用する事例がけっこうある。

衛星通信であれば、いったん頭上にいる通信衛星を介する形になるので、見通し線もヘッタクレもなくなり、遠距離かつ高い伝送能力を持つ通信が可能になる。ただし、衛星通信はビームが細いので、衛星を確実に捕捉するために可動式のアンテナが必要になる点に注意が必要だ。

そのことを如実に示しているのが、米軍などで使っているUAVの外見だ。MQ-1プレデター、MQ-9リーパー、日本でも導入を決めたRQ-4グローバルホークのいずれをとっても、機首が盛り上がった奇妙な形状をしている。これは、その機首の中に衛星通信用のパラボラ・アンテナを内蔵しているためだ。アンテナは上向きに取り付けられていて、機体の針路や姿勢にかかわらず、通信衛星の方を指向できるようになっている。

機首上面のフェアリングを外した状態のRQ-4グローバルホーク。真上を向いたパラボラ・アンテナが付いている様子が分かる(USAF)

この衛星通信のおかげで、地球の裏側を飛んでいる機体を遠隔管制するようなマネが可能になった。

まず、機体を離陸させる作業は現地の出先部隊が担当する。この機能を特に切り出してLRE(Launch and Recovery Element)と呼ぶこともある。機体が無事に飛び立って衛星通信リンクを確立したら、「You have (control)」となって、そこから先はネバダ州のクリーチ空軍基地(MQ-1やMQ-9の場合)にいるオペレーターが機体の制御を引き継ぐ。任務を終えて基地に戻ってきたら、今度は「I have (control)」となって、出先の基地にいるオペレーターが着陸操作を行う。

こうすると、戦域に展開させる人員を減らすことができるし、UAVのセンサーが捕捉した情報がダイレクトにアメリカ本土に届くので、情報の分析や配信を効率的にできる効果がありそうだ。ただし、通信衛星と、そこに装備するトランスポンダーをちゃんと確保できなければ、この手の運用形態は画餅と化す。

ちなみに、通信衛星というと静止衛星が多いが、これは意外なところで注意が必要だ。赤道上にいる静止衛星からだと、北極や南極は通信が難しくなるのだ。もっとも、衛星通信を必要とするような高性能の軍用UAVを北極や南極で飛ばす必然性はあまりなさそうだし、UAVは空中を飛んでいる分だけ高さが上がるから、地上・海上よりは条件がよい。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。