今回も前回に引き続き、軍用機のアビオニクスについて。センサーを初めとするミッション機材については前回に取り上げたが、今回は任務遂行を取り仕切るミッション・コンピュータなどの話をしてみよう。

ミッション・コンピュータとは

機種によってはセントラル・コンピュータと呼ぶこともあるが、一般的にはミッション・コンピュータと呼ぶ。個々のセンサー機材もデータ処理用のコンピュータを備えていることが多いが、ミッション・コンピュータの役割はそれとは異なり、軍用機が任務を遂行する作業そのものを取り仕切る。

分かりやすい例としては、湾岸戦争(1991年)で一躍有名になったF-117Aナイトホークがある。後述する方法でミッション・コンピュータに任務飛行に関するデータを送り込むと、離陸した後はミッション・コンピュータがオートパイロットを動かして、計画した通りに目標まで連れて行ってくれる。その分だけ、操縦や航法に関するパイロットの負担を軽減できる。

もちろん、最終的に目標を視認して、正しい目標をレーザー目標指示器で照射する(レーザー誘導爆弾を命中させるために必要な作業)のはパイロットの仕事だから、パイロットは何もしないで漫然と乗っていればよいわけではない。

第一、対空砲火や地対空ミサイルが飛んでくれば回避行動をとらなければならないし、悪天候、機体の故障、その他のさまざまなトラブルに見舞われないとも限らない。だからパイロットが要らないなんていうことはあり得ない。

ただ、機体を目標まで正しいタイミングで飛ばして、正しいタイミングで正しい兵装を使って交戦する、というプロセスをミッション・コンピュータが支援してくれれば、それだけパイロットは楽になるし、任務を成功させる可能性が高くなる。

では、ミッション・コンピュータに任務関連のデータを送り込む作業はどのようにすればよいのか。そこが問題だ。

MPSの仕事

MPSとはミッション・プランニング・システムの略。つまり、任務計画を立案するコンピュータのことである。

昔なら、任務計画は手作業でとりまとめて紙に書いていた。たとえば、以下に示したような事柄について事前に計画を立てておいて、それに合わせて任務飛行を行う。

  • 攻撃目標は何か
  • 攻撃を実施する時間はいつか
  • そのために攻撃隊が基地を発進するのがいつか
  • 攻撃隊の編成はどうするか(機種・機数・パイロットのアサインなど)
  • どこをどう経由して目標まで飛行するか
  • どの機体がどの目標を攻撃するか
  • 兵装は何を使用するか
  • 兵装はどういうタイミングで投下するか(一斉なのか複数回に分けるのか、など)

無論、「戦争で唯一確実なのは、計画通りに行かないということである」なんていうぐらいだから、計画はあくまで計画なのだが、ハナから行き当たりばったりでやっていたのでは、ますます任務の成功から遠ざかる。

敵機が来襲してきたのを迎え撃つ、いわゆる迎撃戦闘みたいな場面は致し方ないが、計画を立てられるものなら、ちゃんと事前に計画を立てておくのが基本である。特に、複数の基地から発進した複数の攻撃隊がタイミングを合わせて同じ目標を叩く、なんていう場面では、事前に計画を立ててタイミングを計っておかなければ話にならない。

これを、現在ならコンピュータの画面上で行う。そのコンピュータがMPSで、作戦地域の地理情報、敵情、軍用機にとっての脅威となり得る地対空ミサイル陣地や対空砲陣地の所在などといったデータも、事前にMPSに取り込んでおく。そして、脅威要因や危険な地形を避ける飛行ルートを選択して、その際の飛行距離などから所要時間を計算すれば、攻撃を実施するタイミングから発進のタイミングを割り出せる。

コンピュータ仕掛けのMPSが便利なのは、ここから先だ。MPSで立案した任務計画データはMPSの内部にあるわけだが、それを紙に印刷して持って行くわけではなく、ハードディスクやフラッシュメモリを用いたデータ転送モジュール(DTM)にコピーする。

それを機体のコックピットに設けられたスロットに差し込むと、機体側のミッション・コンピュータがデータを取り込んで、自分がいつ、どこに行って何をするのかをすべて理解する。すると、前述したオートパイロットの動作だけでなく、コックピットに設けられた多機能ディスプレイに地図と重畳する形で飛行経路を表示するようなことも可能になる。

ただしそうなると、MPSの仕事の速さや、MPSに正しいデータを持たせておくことが課題になる。データが間違っているのは論外だが、処理に時間がかかれば任務計画立案作業が手間取り、迅速な任務の遂行を阻害する。DTMにデータを転送する作業が遅ければ、これも阻害要因になる。

実際、MPSというのは一度開発すれば終わりというものではなくて、処理能力向上などの改良を図るものである。たとえば、米空軍が2014年に送り出したJMPS(Joint Mission Planning System)は、従来型と比べると計画立案にかかる時間が72%も減って、それまで7時間かかっていたものが2時間未満になったそうである。

ミッション・コンピュータもCOTS

最後に余談をひとつ。

先日、ノースロップ・グラマン社が「FlightPro Gen III」という新型ミッション・コンピュータを発表した。この製品、米陸軍の汎用ヘリコプター・UH-60Lのアップグレード改修用に提案しているのだが、そこで使っているCPUはPowerPC系列の製品だそうである。この分野でもCOTS(Commercial Off-The-Shelf)化というわけだ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。