前回は操縦操作という「機体制御」の話だったが、グライダー以外の飛行機では推進力となるエンジンが必要になる。そのエンジンも機体と同様、コンピュータ制御が当たり前になってきた。

エンジンをコンピュータ制御化する理由

市販の乗用車では、いまや電子制御燃料噴射を使用するのが当たり前で、若い人だと「えっ、その他の方式があったの?」なんていうことになりかねないかも知れない。しかし、気化器(キャブレター)を使うのが普通で、電子制御は限られた上級モデルだけ、という時代もあったのだ。

その後、燃費改善や排ガス清浄化のために、空気とガソリンの混合比率を適切かつ精確に制御する必要が生じて、それは気化器では実現不可能という理由からコンピュータ制御が一般化した。その過程でコスト面の問題からか、「下位モデルは気化器、上位モデルだけが電子制御燃料噴射」とか、その電子制御燃料噴射も「下位モデルは噴射ノズルがひとつだけ、上位モデルはシリンダごとに噴射ノズルを設置」なんていう使い分けをしていたことがあった。

燃費や排ガスの問題があるのは、飛行機のエンジンも同様だ。特に民航機では、燃費の改善はエアラインの経営に直結する大問題だから、メーカーは必死になって燃費改善を図っている。近年では「温室効果ガスの排出削減」なんていう話が取り沙汰されるようになっているから、なおさらだ。

実際、航空機用エンジン・メーカーが新型エンジンを開発したときのプレスリリースでは、「燃費がこれだけ良くなりました、CO2の排出量が一年間でこれだけ減ります」といったフレーズを並べるのがお約束である。

そうなると自動車用エンジンと同様に、燃料噴射量を初めとするエンジンの制御項目を細かくコントロールして、最適な状態で動作するようにしなければならない。そこで、この分野でも電子制御化を図るのが一般的になった。これをFADEC(Full Authority Digital Electronic Control)と称する。

なにも、民航機で使用するジェット・エンジンだけがFADEC化の対象になっているわけではない。航空自衛隊のF-15J/DJ戦闘機も途中からFADEC化した新エンジンに切り替えているし、他国の戦闘機でもFADEC化は当たり前になっている。

ことに戦闘機の場合、出力の頻繁な増減が発生するから、そこでエンジンがスムーズに追従してくれないと困る。エンジン操作に何かしらの制限が加わるようでは空戦時の機動飛行に悪影響が生じるし、それでは国の護りにも悪影響が生じる。電子制御化によってスムーズに、かつ変な制限のない操作が可能になれば、パイロットは心おきなく任務に専念できる。

ジェット・エンジンだけでなく、ヘリコプター用のターボシャフト・エンジンでも、経済性を求められるのは同じだ。だから、やはりFADEC化が進んでいるし、そのことをメーカーが積極的にアピールしている点も同じだ。

機体・エンジンの統合制御

なお、エンジンが電子制御になると、エンジンと機体の操縦系統を別々に、独立して制御するのではなく、両者を一体にして制御することも可能になる。

たとえば、エンジンに推力偏向装置を追加して、排気ノズルの向きを変えられるようにしている戦闘機がある。すると、機体の向きを制御する方法として、操縦翼面による操作に推力偏向装置の操作が加わる。それを状況に応じてパイロットが自ら判断して使い分けるのでは煩雑だから、コンピュータ制御にする方が好ましい。

すると、パイロットは従来と同様に操縦桿・ラダーペダル・スロットルレバーの操作によって「こういう風に飛びたい」と指示するだけで、機体側が最適な操作を判断して、操縦翼面を動かしたり、エンジンの推力を加減したり、推力偏向装置の向きを変えたりする。その際に、どのメカがどのように動作しているのかをパイロットが意識する必要はない。

米海兵隊などが導入計画を進めているF-35Bは、短距離滑走で離陸して垂直着陸するために、コックピット直後にリフトファン(下向きに作動して揚力を生み出すファン)と、下方に向きを変えられる排気ノズルを備えている。

F-35Bの排気ノズルはあくまで、短距離離陸と垂直着陸を可能にするためのものだが、ノズルの向きをいちいちパイロットに操作させるのが煩雑なのは同じことだ。だから、機体とエンジンの統合制御を行い、パイロットが飛び方を指示すると飛行制御コンピュータが自動的に、操縦翼面・リフトファン・排気ノズル・エンジン出力を操作するようにしている。

民航機やビジネス機の類では、そんなややこしい飛び方をする機体はないが、アグスタウェストランドが開発を進めている民間向けティルトローター機・AW609では、やはり統合制御によって容易に操縦できるようにする必要が生じるかも知れない。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。