【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

85 飛行機の燃料(4)変わった燃料タンクいろいろ

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これまで解説してきているように、飛行機の燃料タンクは胴体内と主翼内に設けるのが一般的だ。ところが何事にも例外はあるもので、それ以外の場所に燃料を搭載することもある。過去にチラチラと言及してきた話もあるが、ちゃんと解説していなかったので、ここでまとめて取り上げてみよう。

尾翼

主翼と尾翼は、設置する場所や役割こそ違うものの、構造的には似ている。だから、主翼の内部を燃料タンクにできるのであれば、尾翼の内部だって燃料タンクにできる理屈である。実際、MD-11は水平尾翼の内部も燃料タンクにして、燃料搭載量を稼いでいた。

しかし、できれば使いたくない方法であり、尾翼に燃料を入れている事例は多くない。理由は簡単で、尾翼に燃料を入れるとその分だけ重心が後方に移動して、静安定性を損う方向に働くからだ。つまり、積極的に使う選択肢ではなく、やむにやまれず使う選択肢である、といえそうだ。

水平尾翼も燃料タンクにしているMD-11。この写真は離陸直後だから、長距離のフライトであれば、たぶん水平尾翼にも燃料が入っている

増槽

増加燃料タンクとか、落下式補助燃料タンクとかいう言い方もある。英語では「drop tank」という。時々、爆弾やミサイルと間違える人がいるアイテムだ。

これは軍用機の専売特許で、胴体下、あるいは翼下の兵装パイロンに細長い燃料タンクを搭載する。すると、機内燃料タンクだけでは燃料が足りないという場合に、より多くの燃料を搭載して航続距離を伸ばすことができる。

増槽を左右の主翼と胴体下面センターラインと、合計3本も搭載したF-15J

増槽を細長くするのは空気抵抗を減らすためだが、それでも搭載すれば空気抵抗は増える。ただし普通の燃料タンクと違うのは、用がなくなったら投棄できることだ。投棄すれば当然、機体は身軽になるし、空気抵抗も減る。

どうしても投棄しなければならない場面、例えば敵の戦闘機と空中戦を展開するような場面であれば、増槽を投棄して捨ててしまうのも致し方ない。だが、可能であれば増槽を投棄せずに持ち帰るほうが、再利用できるので経費の節減になる。

戦闘機の場合、まず増槽の燃料を使って戦闘空域まで進出する。そして「さあ空戦だ!」という場面で増槽を切り離す。その時点で増槽が空になっていれば、燃料は無駄にならないし、機内タンクにはたっぷり燃料を残した状態でいられる。

なお、増槽を兵装架に取り付ける場合、取り付けた増槽から燃料をくみ出せなければ意味がないので、兵装架には燃料の配管を用意しておく必要がある。そして、増槽を取り付けて固定する際には、併せて燃料の配管も接続する必要がある。

また、増槽を投棄した時に燃料の配管が開いたままだと機内の燃料がこぼれてしまうから、増槽の投棄に併せて配管を閉鎖する仕組みも必要になる。

戦闘機は機動飛行を行うものだから、どんな姿勢で飛んでいても燃料を汲み出せるようにしないと具合が悪い。手っ取り早い方法は、圧縮空気か不活性ガス(たぶん窒素)を送り込んで強制的に燃料を出させる方法である。

その増槽だが、普通は機体と同様にアルミ合金で作る。しかし、第2次世界大戦中のアメリカ陸軍航空隊では、樹脂で強化した紙で作っていた。そこまで資源に困っていたわけではない。増槽は敵地の上空で投棄するものだから、敵に拾われればアルミ資源をくれてやるようなもの。それを嫌って、再利用ができない紙にしたのだ。

もちろん長持ちはしないが、「イギリスからドイツの上空まで、何時間か保てばよろしい」と割り切ったわけだ。

チップタンク

増槽のバリエーションで、胴体や主翼の下面ではなく、主翼の端にタンクを取り付ける事例がある。翼端(ウィングチップ)に取り付けるからチップタンクという。

機種によっては、翼端に空対空ミサイルとチップタンクのいずれかを搭載できるようになっている。翼端にミサイルやチップタンクを取り付けると、翼端渦に起因する空気抵抗を減らす効果があると言われている。

なお、チップタンクは投棄できる場合と、できない場合がある。どちらを選択するかは設計者次第。

チップタンクを装着した機体のひとつ、T-33練習機

コンフォーマル燃料タンク

これも機体の外部に追加で取り付ける燃料タンクだが、増槽と違うのは投棄できないこと。

本格的に導入した事例として知られているのはF-15イーグルのFASTパックで、胴体の両側面に取り付ける形になっている。その後、F-16でも搭載事例が登場したほか、F/A-18についても提案がなされたが、これらは胴体上面に取り付ける形になっている。

コンフォーマル燃料タンクが標準装備のF-15E。主翼の付け根・胴体側面が、先のF-15Jと比べると膨らんでいるのがおわかりいただけるだろうか

コンフォーマルタンクが外部に張り出せば抵抗になると思われそうだが、機体にピッタリ張り付く形になり、かつ空気抵抗を増やさないように成形してあるので、増槽よりは飛行性能を落とさない。

ただ、F-15の場合はさほどの違和感はないが、主翼付け根の胴体上面にコンフォーマル燃料タンクがポコンと張り出していると、かなりの違和感がある。慣れればなんとも思わなくなるものかもしれないが。

機内増加燃料タンク

これも投棄はできないタイプだが、機内に燃料タンクを積み込む事例もある。B-1Bランサー爆撃機は、爆弾やミサイルの代わりに燃料タンクを爆弾倉に積むことができるが、打撃力よりも航続距離が欲しい場合に、そうする。

また、米空軍のHH-60G救難ヘリは、キャビンの後ろの端に、貴重な機内スペースを犠牲にして、四角い大きな燃料タンクを搭載している。これで1~2人分ぐらいの搭載スペースが失われると思われるが、それでも航続距離の方が大事というわけだ。

輸送機でも、貨物室に燃料タンクを追加設置して航続距離を伸ばしている事例がある。

いずれにしても、機内や爆弾倉に燃料配管を引いておかなければならないのは、増槽を機外に吊るす場合と同様である。

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インデックス

連載目次
第94回 プロペラを巡るあれこれ(1)
第93回 特別編・ATR42-600レポート(4)短距離用機材ならではの特徴
第92回 特別編・ATR42-600リポート(2)体験搭乗編[後編]
第91回 特別編・ATR42-600リポート(2)体験搭乗編[前編]
第90回 特別編・ATR42-600リポート(1)ATR42とはこんな機体
第89回 飛行機の燃料(8)燃料をめぐるこぼれ話
第88回 飛行機の燃料(7)空中給油のメカニズム
第87回 飛行機の燃料(6)燃料補給の方法いろいろ
第86回 飛行機の燃料(5)燃費改善と空力対策
第85回 飛行機の燃料(4)変わった燃料タンクいろいろ
第84回 飛行機の燃料(3)機内に設置する燃料タンク
第83回 飛行機の燃料(2)ジェット燃料を巡るあれこれ
第82回 特別編・民航機の非常事態を宣言で注目「2次レーダーとスコーク7700」
第81回 飛行機の燃料(1)燃料の種類とアブガス
第80回 軍用機の兵装搭載に関わる制約
第79回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(5)戦闘機と推力重量比
第78回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(4)戦闘機の場合
第77回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(3)軍用機の場合
第76回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)
第75回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(1)
第74回 トランスミッションに関する補遺とブレード折り畳みの実況
第73回 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸
第72回 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」
第71回 STOL/VTOL(8)スウェーデンのハイウェイは滑走路!?
第70回 STOL/VTOL(7)F-35Bの面白い挙動
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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