これまで解説してきているように、飛行機の燃料タンクは胴体内と主翼内に設けるのが一般的だ。ところが何事にも例外はあるもので、それ以外の場所に燃料を搭載することもある。過去にチラチラと言及してきた話もあるが、ちゃんと解説していなかったので、ここでまとめて取り上げてみよう。

尾翼

主翼と尾翼は、設置する場所や役割こそ違うものの、構造的には似ている。だから、主翼の内部を燃料タンクにできるのであれば、尾翼の内部だって燃料タンクにできる理屈である。実際、MD-11は水平尾翼の内部も燃料タンクにして、燃料搭載量を稼いでいた。

しかし、できれば使いたくない方法であり、尾翼に燃料を入れている事例は多くない。理由は簡単で、尾翼に燃料を入れるとその分だけ重心が後方に移動して、静安定性を損う方向に働くからだ。つまり、積極的に使う選択肢ではなく、やむにやまれず使う選択肢である、といえそうだ。

水平尾翼も燃料タンクにしているMD-11。この写真は離陸直後だから、長距離のフライトであれば、たぶん水平尾翼にも燃料が入っている

増槽

増加燃料タンクとか、落下式補助燃料タンクとかいう言い方もある。英語では「drop tank」という。時々、爆弾やミサイルと間違える人がいるアイテムだ。

これは軍用機の専売特許で、胴体下、あるいは翼下の兵装パイロンに細長い燃料タンクを搭載する。すると、機内燃料タンクだけでは燃料が足りないという場合に、より多くの燃料を搭載して航続距離を伸ばすことができる。

増槽を左右の主翼と胴体下面センターラインと、合計3本も搭載したF-15J

増槽を細長くするのは空気抵抗を減らすためだが、それでも搭載すれば空気抵抗は増える。ただし普通の燃料タンクと違うのは、用がなくなったら投棄できることだ。投棄すれば当然、機体は身軽になるし、空気抵抗も減る。

どうしても投棄しなければならない場面、例えば敵の戦闘機と空中戦を展開するような場面であれば、増槽を投棄して捨ててしまうのも致し方ない。だが、可能であれば増槽を投棄せずに持ち帰るほうが、再利用できるので経費の節減になる。

戦闘機の場合、まず増槽の燃料を使って戦闘空域まで進出する。そして「さあ空戦だ!」という場面で増槽を切り離す。その時点で増槽が空になっていれば、燃料は無駄にならないし、機内タンクにはたっぷり燃料を残した状態でいられる。

なお、増槽を兵装架に取り付ける場合、取り付けた増槽から燃料をくみ出せなければ意味がないので、兵装架には燃料の配管を用意しておく必要がある。そして、増槽を取り付けて固定する際には、併せて燃料の配管も接続する必要がある。

また、増槽を投棄した時に燃料の配管が開いたままだと機内の燃料がこぼれてしまうから、増槽の投棄に併せて配管を閉鎖する仕組みも必要になる。

戦闘機は機動飛行を行うものだから、どんな姿勢で飛んでいても燃料を汲み出せるようにしないと具合が悪い。手っ取り早い方法は、圧縮空気か不活性ガス(たぶん窒素)を送り込んで強制的に燃料を出させる方法である。

その増槽だが、普通は機体と同様にアルミ合金で作る。しかし、第2次世界大戦中のアメリカ陸軍航空隊では、樹脂で強化した紙で作っていた。そこまで資源に困っていたわけではない。増槽は敵地の上空で投棄するものだから、敵に拾われればアルミ資源をくれてやるようなもの。それを嫌って、再利用ができない紙にしたのだ。

もちろん長持ちはしないが、「イギリスからドイツの上空まで、何時間か保てばよろしい」と割り切ったわけだ。

チップタンク

増槽のバリエーションで、胴体や主翼の下面ではなく、主翼の端にタンクを取り付ける事例がある。翼端(ウィングチップ)に取り付けるからチップタンクという。

機種によっては、翼端に空対空ミサイルとチップタンクのいずれかを搭載できるようになっている。翼端にミサイルやチップタンクを取り付けると、翼端渦に起因する空気抵抗を減らす効果があると言われている。

なお、チップタンクは投棄できる場合と、できない場合がある。どちらを選択するかは設計者次第。

チップタンクを装着した機体のひとつ、T-33練習機

コンフォーマル燃料タンク

これも機体の外部に追加で取り付ける燃料タンクだが、増槽と違うのは投棄できないこと。

本格的に導入した事例として知られているのはF-15イーグルのFASTパックで、胴体の両側面に取り付ける形になっている。その後、F-16でも搭載事例が登場したほか、F/A-18についても提案がなされたが、これらは胴体上面に取り付ける形になっている。

コンフォーマル燃料タンクが標準装備のF-15E。主翼の付け根・胴体側面が、先のF-15Jと比べると膨らんでいるのがおわかりいただけるだろうか

コンフォーマルタンクが外部に張り出せば抵抗になると思われそうだが、機体にピッタリ張り付く形になり、かつ空気抵抗を増やさないように成形してあるので、増槽よりは飛行性能を落とさない。

ただ、F-15の場合はさほどの違和感はないが、主翼付け根の胴体上面にコンフォーマル燃料タンクがポコンと張り出していると、かなりの違和感がある。慣れればなんとも思わなくなるものかもしれないが。

機内増加燃料タンク

これも投棄はできないタイプだが、機内に燃料タンクを積み込む事例もある。B-1Bランサー爆撃機は、爆弾やミサイルの代わりに燃料タンクを爆弾倉に積むことができるが、打撃力よりも航続距離が欲しい場合に、そうする。

また、米空軍のHH-60G救難ヘリは、キャビンの後ろの端に、貴重な機内スペースを犠牲にして、四角い大きな燃料タンクを搭載している。これで1~2人分ぐらいの搭載スペースが失われると思われるが、それでも航続距離の方が大事というわけだ。

輸送機でも、貨物室に燃料タンクを追加設置して航続距離を伸ばしている事例がある。

いずれにしても、機内や爆弾倉に燃料配管を引いておかなければならないのは、増槽を機外に吊るす場合と同様である。