ヘリコプターは固定翼機と異なり、ホバリングや垂直離着陸が可能である。その特質を活用して、固定翼機とは違った、人や貨物の乗せ方をする場面がある。そんな話をいろいろ取り上げてみよう。

吊下空輸

わかりやすい事例が、吊下空輸。胴体内部に貨物を収容する代わりに、ロープでつって運んでしまうというものだ。それを実現するには、胴体下面に貨物吊下用のフックを備えている必要がある。もちろん、貨物の重量が機体側の許容搭載量の範囲に収まっている必要もある。

この方法の利点は、機内に収容できないぐらい大きい貨物でも運べること。例えば、アメリカ海兵隊のCH-53Eスーパースタリオンは155mm榴弾砲を吊下空輸することがある。海兵隊員はMV-22Bオスプレイで運び込んで、火力支援を担当する榴弾砲やその砲弾はCH-53Eで運ぶ図式だ。

榴弾砲でもその他の貨物でも、まず積荷にロープを取り付けておいて、それを地上に駐機している機体のフックに取り付ける。そして浮上すると、貨物も一緒につり上げられるというわけだ。もちろん、つるした時に適正なバランスになるようにする必要があるから、ロープを取り付ける場所はきちんと計算して決めなければならない。

155mm榴弾砲を吊下空輸している、米海兵隊のCH-53Eスーパースタリオン。開発中の後継機・CH-53Kキングスタリオンは、さらに搭載能力が増加する Photo:DoD

機内収容を考えず、この吊下空輸に特化した機体が、本連載の第52回の最後で写真を出した交差反転ローター機・カマンK-Max。機内に人や貨物を載せることを考えていないから、胴体は攻撃ヘリみたいに細身だ。当然ながら、その分だけ自重は軽くなり、搭載能力の増加に貢献する。

その胴体は逆台形の断面になっているが、これはパイロットが下につるした貨物を見やすいように、という配慮による。また、コックピット左舷側の窓が球面状に突出しているほか、その下の胴体側面に四角い張り出しがあり、その上面に計器盤がついている(!)。

窓から下を見下ろしつつ操縦する際の状況把握を容易にするとともに、必要最低限の飛行諸元を把握できるようにという考えによるのだが、こんな形で計器盤がついている機体は極めて珍しい。

以下の動画はK-Maxで送電線の鉄塔を空輸している場面を機上から撮影したものだが、下方視界の良さがよく分かる。後のほうで、胴体側面に取り付けられた計器盤もチラッと映っている。

参考 : Kmax Helicopter Setting A Steel Power Pole

ベンチに人を乗せる

なお、K-Maxは1人乗りである。しかし、整備員を連れて行かなければならない場合もあるが、その場合は別の機体を用意しなければならないのだろうか? いやいや、そんなことはない。実はK-Maxには外付けのベンチ(!)が用意してあって、そこに整備員を乗せて連れて行けるようになっている。

K-Maxの外付けベンチは1人用だが、もっとたくさん載せる事例もある。それが、映画『ブラックホーク・ダウン』の後半に登場する米陸軍の特殊作戦部隊向け小型攻撃ヘリ、MH-6リトルバードだ。小柄な機体だから、中に載せられる人数は知れている。ところが、左右の胴体側面にベンチを取り付けて、それぞれ2名ずつを載せることができる。

もちろん、外付けベンチに座っているだけだと、機体の加減速や傾斜によって落下してしまうから、身体はケーブルで機体に固定するようになっている。それにしてもスリル満点だろうし、筆者はやりたくない。

参考 : MH6 at NASCAR.jpg (Wikipedia)

もっと乱暴な(?)ところでは、イギリス陸軍のWAH-64DアパッチAH.1攻撃ヘリが、胴体左右にある電子機器収納部の張り出しに歩兵を乗せて強襲作戦を仕掛けたことがある。別途、人員輸送用のヘリを用意しなくて済む利点はあるが、もともと人を乗せる目的で作られたものではないから、あまり居心地のいいものではなさそうだ。

なお、ベンチに比べるとむき出しになっていない分だけマシだが、軍隊が負傷者後送に、あるいは民間で救難に使用するヘリの中には、胴体の側面にポッドを取り付けて、そこに要救助者を入れて運ぶ場合がある。機内のスペースに余裕がなく、しかも相手は怪我人や病人だから寝かせて運ばなければならない、という場面で登場する仕掛けだ。

クレーン・ヘリコプター

先に吊下空輸の話を書いたが、違った形で吊下空輸に適応したヘリコプターがある。その名をシコルスキーCH-54タルヘという。まずはその姿を御覧あれ。

CH-54タルヘがC-47輸送機を吊下空輸しているところ Photo : USAF

機首に並列複座のコックピットがついているが、その後方の胴体は上部を除いてもぎ取られてしまい、まるで身をむしられて骨だけ残った魚である。そこに、エンジンとトランスミッションとローター・ヘッド、それとテイルローターが取り付いている。

なにしろ余計なものは徹底的に削ぎ落とした機体なので、エンジンも、テイルローター駆動用のシャフトも、機体上面に露出している。雨の日に飛ばそうとして問題はなかったんだろうか、と心配になるぐらい。

上の写真だと小さくてわかりにくいかもしれないが、コックピット後方に円筒形の透明キャノピーがついている。これもK-Maxの突出キャノピーと同じ理由で、下に吊した積荷の様子を見られるようにという配慮だ。

外見は奇怪だが、4,500~4,800馬力のエンジンを2台も積んでいて、それでいて機体部分はスッカラカンなのだから、つり上げ能力は大したもの。搭載量は9,000kgもあり、榴弾砲どころか、車両や、軽いものなら飛行機でも吊下空輸できる。

また、機体下面の空白部分にコンテナを取り付けると人や貨物を収容できるというのだが、まるでサンダーバード2号である。ただ、「必要に応じてコンテナを着脱することで、吊下空輸にも人員・貨物輸送にも対応できる」といっても、そのコンテナを用意しておいて、いちいち着脱するのは面倒くさい。だから、コンテナ着脱という「モジュール化」の部分はアイデア倒れに終わった感がある。

しかし、大きな搭載量のすべてを吊下空輸のために使える利点を買って、エリクソンという会社がシコルスキー社から製造権を買い取り、消防ヘリとして売り出し中だそうだ。搭載量は大きいし、下方視界はいいし、大量の水を積んでいって撒くには最適だ。特定の用途にはピタリと適合する一例。

ところでこの機体、上部の細い胴体(?)の先端に大きなコックピット部分が取り付いているので、その境目の部分の強度は大丈夫なんだろうか、と心配になる。しかしよくよく考えると、コックピットはガタイこそ大きいものの、中は空間が多いし、パイロット2名分と計器や操縦機器ぐらいしか入っていない。だから見た目よりも構造負荷は少ないのかもしれない。