【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

58 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機

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前回は、シコルスキーX2、ユーロコプターX3、X-49スピードホークといった、推進用プロペラを別に用意するタイプの機体を取り上げた。X2はその後、実用を目指したS-97レイダーに発展したが、その他の2社は実用機を開発する動きにつながっていない。一方、すでに実用機の配備が進んでいるのが、すでにおなじみの「あれ」である。

ローターの向きを変えてしまえ

メインローターとは別に推進用プロペラを用意するということは、推進用プロペラとそれの駆動機構が、離着陸時には使われないデッドウェイトになるということである。また、メインローターとエンジンをつないだり切り離したり、という仕掛けも必要になる。

1つのメカで「離着陸時の揚力」と「水平飛行中の推進力」を兼用できれば合理的だが、前者は上下方向、後者は水平方向に機能するものだから、どちらか一方に合わせた向きで取り付けると、他方の用途に対応できない。それなら、離着陸時と水平飛行時で向きを変えてしまえば、両方の用途に対応できる。

というわけで登場したのが、おなじみのティルトローター機。水平飛行時の揚力を発生させるために主翼を設けて、その両端にエンジンとローターを取り付ける。ただし、ヘリコプターのローターとしての機能と、固定翼機の推進用プロペラの機能を兼ねているので、プロップローターという。

そのプロップローターの向きを変えることでモードを変換して、ヘリコプターと同様の垂直離着陸、それとヘリコプターでは達成できない高速の水平飛行を両立したのが、ティルトローター機である。そして、最も有名なティルトローター機が、ご存じV-22オスプレイである。

アメリカ海兵隊のMV-22Bオスプレイ。プロップローター(と、それを回転させるエンジンを収納するナセル)を斜め上に向けた状態で展示されていたが、もちろん垂直離着陸の際には真上を、水平飛行の際には前方を向く

V-22は離着陸の際に、エンジン・ナセルをまるごと方向転換して真上を向ける。するとプロップローターからの空気の流れは下を向くので、それによって機体を支えることができる。離陸後にモード転換を行い、水平飛行に遷移すると、エンジン・ナセルは前を向き、プロップローターからの空気の流れは推進力を生み出す。

なお、左右のプロップローターは互いに逆方向に回転して、トルクを相殺するようになっている。また、両者をシャフトでつないであるので、片方のエンジンが停止しても、他方のエンジンの駆動力を使って両方のプロップローターを回すことができる。

V-22の操縦装置

米軍基地の一般公開で実物を御覧になったことがある方はおわかりかと思うが、V-22の操縦席は一般的な固定翼機と大して違わない。左右に並んだ正副操縦士席があり、それぞれの正面に操縦桿らしきモノが生えている。ただしV-22では後述するように、ヘリコプターと同様のサイクリック・ピッチ操作が入るため、サイクリック操縦桿と呼ぶ。

左手の位置にはスロットル・レバーらしきモノが生えている。確かに推進力を制御するためのものだが、エンジンの回転を増減させるだけでなく、ヘリコプターと同様のコレクティブ・ピッチ操作も行うので、スロットル・レバーとはいわず、推力制御レバー(TCL)という。そして両脚でラダーペダルを踏む。これは固定翼機と同じ。

ちなみに、V-22の操縦席は右側が機長、左側が副操縦士という配置で、ヘリコプターと同じ。固定翼機とは逆である。

プロップローターの動作内容

V-22が面白いのは、「ヘリコプター・モード」と「エアプレーン・モード」という2種類の飛行モードを備えているところ。

前者ではヘリコプターと同じ動作をする。だから、主翼と尾翼に付いている操縦翼面は使わない。そもそも空中停止していたら風が当たらないのだから、操縦翼面は効かない。そのため、別の方法で操縦する必要がある。

まず左右の横転(ロール)だが、これは左右のプロップローターについて、それぞれ異なるコレクティブ・ピッチの操作を行うことで実現する。この操作は、パイロットの正面についているサイクリック操縦桿を左右に動かすことで指示する。

例えば、左舷の1番エンジンに付いているプロップローターのピッチを増して、右舷の2番エンジンに付いているプロップローターのピッチを減らすと、左舷側の揚力が増えるから、機体は右に横転する。左に横転する場合は逆だ。

機首を左右に振る、いわゆるヨー方向の操作は、左右のプロップローターについて、それぞれ異なるサイクリック・ピッチの操作を行うことで実現する。この操作はラダーペダルを踏んで指示する。

例えば、左舷の1番エンジンに付いているプロップローターのサイクリック・ピッチを変えて前進方向の力を発生させる一方で、右舷の2番エンジンに付いているプロップローターのサイクリック・ピッチを変えて後進方向の力を発生させると、左側で前進力、右側で後退力を発生するから、機首は右を向く。機首を左に向ける場合は逆だ。

機首を上下に振る、いわゆるピッチ方向の操作は、左右のプロップローターについて同じ方向のサイクリック・ピッチ操作を行うことで実現する。ヘリコプターでメインローターの回転面を前後方向に傾けるのと同じ理屈で、これはサイクリック操縦桿を前後に動かすことで指示する。

なお、エアプレーン・モードでは、フラッペロン(フラップとエルロンが一体になっているので、こうなる)、昇降舵(エレベーター)、方向舵(ラダー)の操作によって操縦するが、これは通常の固定翼機と同様だから、細かい解説は割愛する。

操縦装置をモードによって使い分けるわけではなく、同じ操縦装置がモードによって異なる機能を果たしていることになる。例えば、サイクリック操縦桿を左右に倒すと、ヘリコプター・モードならコレクティブ・ピッチ操作になるし、エアプレーン・モードならフラッペロンの操作になる。

それをいちいち手作業でモードを切り替えていたら間違いの元だから、フライ・バイ・ワイヤ(FBW)操縦システムを導入して、モードに応じて自動的に、操縦操作の対象を切り替える仕組みになっている。

主翼ごと向きを変えるVTOL機もあった

同じように「推進力の向きを変える」タイプのVTOL(Vertical Take-Off and Landing) 機として、過去にNASA(National Aeronautics and Space Administration)がXC-142という機体を製作してテストしたことがある。V-22はローター部分だけが向きを変えるからティルトローターだが、XC-142は主翼がまるごと向きを変えるからティルトウィングという。

こちらは、エンジンとプロペラを取り付けた主翼ごと向きを変えて、推力方向を下に向けることで機体を支える大技を使っていた。しかしそうすると、主翼と胴体の結合部の構造が問題になる。

主翼の向きを変えるために、結合部にヒンジを設ける必要があるが、そこに機体の重量も推進力もすべてかかってくる。だから、スムーズな動きを実現するだけでなく、十分な強度と耐久性も求められる。

XC-142はティルトウィング機。主翼を水平にした状態では、普通のターボプロップ機に見えるが… Photo:USAF

垂直離着陸の際には、主翼とエンジンをまるごと上向きに転換するという大技を使う Photo:USAF

ちなみにV-22オスプレイの場合、海兵隊の揚陸艦に搭載するため、翼胴結合部には主翼を水平方向に回転させて前後向きにするメカが組み込まれている。つまり、主翼とエンジン・ナセルの境界部で向きを変えるだけではなく、その主翼と胴体の間でも向きが変わるのだ。しかし、翼胴結合部の折り畳み機構はティルトローター機に固有のメカというわけではないので、ここでの解説は割愛する。

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インデックス

連載目次
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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