男子を体育会系と文科系に分けた場合、やはり圧倒的に体育会系のほうが女子にモテると思う。野球選手やサッカー選手などが次々に女子アナや人気アイドルたちと結婚するのを見ると、その思いはますます強くなる。ミュージシャンや芸人、俳優といった芸能人はともかく、例えば著名な学者や小説家、ジャーナリストといった文科系のスーパースターたちに、そんな浮いた話は聞いたことがない。村上春樹なんて本来なら、AKB48全員まとめて嫁にもらったっておかしくないほどの人なのに。

もちろん、体育会系のほうが単純に見た目はかっこよく、女子のハートに響きやすいという理由はあるだろう。イチローが毎日何千回もバットを振り続けたというエピソードとノーベル賞を受賞した生物学者の下村脩が毎日オワンクラゲばかりを研究し続けたというエピソードを聞き比べて、「脩くん、超クラゲあついね!」などと胸をときめかせる若い女子がいるのなら、是非会ってみたいものである。

さらに体育会系には女子のハートを射止めるもう一つの強烈な武器があると僕は勝手に妄想している。それはスポーツ選手につきものの怪我である。

大体、スポーツ選手は職業柄、みんな肉体のどこかに必ず一箇所は故障を持っているものだ。野球の投手なら肩や肘を常に痛めているだろうし、サッカー選手なら膝や腰に常に爆弾を抱えている。包帯やテーピングの類もスポーツ選手の肉体には欠かせない。僕はあの痛々しい白い布を見るたびに、なんとなく「あんな怪我をするほど過酷な競技なんだ。すげえなあ」と感心してしまうのだ。

「ちょっとお兄さん、その顔のアザどうしたの~? すごくなぁい?」

溝ノ口のキャバクラでユリ(便宜上名づけた)がそんな甲高い声をあげる。

「俺、ボクシングやってるから、練習とか試合でこうなっちゃうんだよ」

客はさりげなく自分がボクサーであることを告白し、ユリの関心を一気に誘う。

「嘘、マジで! ボクシング!? チョーすごい!!」

「まあ、こんなアザになっちゃうぐらいだから、体への代償は大きいけどね」

「ボクサーって大変なんだね」

「それでも自分の好きなことやれてるんだから幸せだよ」

「すごぉぉい! ユリ、そういう生き方マジあついって思うよ!」

というわけで、この後、ボクサーは「今度の試合、観に来てよ」と早くもユリを誘うことに成功する。ボクサーのアザとは、わけわかんない素人のお姉ちゃんでも簡単にプラチナチケットを手に入れることができる恐ろしいパーツなのである。

とにかく、何が言いたいのかというとスポーツ選手につきものの怪我は、多くの言葉を必要とせずとも、その職業のすごさを女子にアピールすることができる「恋愛に有利な職業病」であるということだ。スポーツに疎い女子も、怪我をまじまじと見せつけられたら、気軽に「すごぉい!」と黄色い声をあげやすいだろう。

そもそも日本人はスポーツ選手が怪我を抱えているほうが感情移入できる傾向にある。「怪我との闘い」なんてドラマがあればあるほど、その選手を尊敬の眼差しで見てしまうし、学生時代も運動部の奴が「膝を痛めた」とか「肩を故障した」などと怪我話をしているのを聞くたびに、なぜか「かっこいい」と思ったものだ。ましてや骨折して三角巾なんかしていたら、さらにポイントアップ。野球部のエースが肘の遊離軟骨を除去する手術を受けたなんて聞いたら、そいつはたちまちヒーローになる。

「ゆ、遊離軟骨、大丈夫なん?」

「肘にメスを入れるのは怖かったけど、でも今やらないと前に進めないから」

「かっこいい!!」

遊離軟骨。それがどんな骨か見当つかないが、なんとなくかっこいい響きだ。

しかし、そういった「職業病的な体への代償」は我々のような執筆業者になってくると途端に女子に情けない印象を与えてしまう。

腰痛に肩凝り、眼精疲労だからだ。

「お客さん、なんか目が充血してない?」

溝ノ口のキャバクラでユリは僕を見るなり、そう尋ねてくる。

「ちょっと徹夜仕事が重なって、体がボロボロなんだよ」

「へえ、大変だね。他はどこが悪いの?」

「腰が痛いのと肩が凝ってるのと、あと長時間座り続けてるからケツが痛いんだよ」

その後、僕は四日ぐらい着ているシャツがヤニ臭いことをユリに指摘され、いたたまれなくなって店を後にするだろう。間違いない。

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