※2010/07/20掲載記事の再掲です。
過去に富士通や東芝などの上場企業が一部社員の副業を容認し、話題になった。最近は「会社員の副業術」のような特集を雑誌で見かけることも多い。会社の給料がなかなか上がらない昨今、スキマ時間を生かして副収入を得たいと思うのは当然のことだろう。だが、実際には副業を容認していない会社のほうがまだまだ圧倒的に多く、堂々と稼げないビジネスパーソンが大半なのではないだろうか。そこで、もし仮に、会社に無断で副業をしたらどうなるのか? 社会保険労務士の田治米洋平氏(たじめ労働法務事務所)に聞いた。
「副業を容認していない」会社は約半数にのぼる
自分の会社は副業がアリかナシか、皆さんはご存知だろうか。2005年に行われた厚生労働省の調査によれば、回答のあった50.4%の企業が従業員の副業を「禁止」し、28.5%が「許可が必要」、4.5%が「届出が必要」となっている。つまり83.4%の企業が「無断で副業」を禁止している状況だ。やはりビジネスパーソンにとって、副業容認のお墨付きを得るまでのハードルはなかなかに高いのである。
「多くの会社で副業を禁止しているのは、"社員が副業をする事によって、会社が不利益を被る事を防止するため"という理由が一番です。例えば、次に挙げるような場合は「不正競争防止法」に抵触するおそれがあります」(たじめ労働法務事務所・田治米洋平氏)
田治米氏が挙げるのは以下の3点だ。
(1) 副業での長時間労働による疲労がもとで 本業でミスを連発したり、遅刻や欠勤が多くなったりする場合
(2) 副業の内容によって本業の会社の信頼や 名誉を傷つける恐れがある場合
(3) 競合他社で働く、本業の専門知識や営業ノウハウを活かす、本業の会社の肩書きや名刺を使うなどする場合
そもそも「副業禁止」に法的根拠はない
社員のパフォーマンス低下をはじめ、様々なリスクを伴う副業をおいそれと容認できない会社側の事情も理解はできる。だが、生活がままらなないほどに困窮し、やむにやまれず副業に手を出す場合、会社側に無断で始めるとどうなるのか?
「判例に基づく見解によると、就業規則で副業が禁止されている場合、就業時間中にそれを破ると懲戒処分の対象になる可能性があります。しかし、就業時間外は労働者の自由な時間であるため“労働契約上の権限が及ばない範囲の二重就労であれば副業も可能であると解釈する事もできる”とする見解もあります。また、近年の判例でも、“本業に支障が出ない範囲ならば懲戒の対象ではない”との判断がなされています」
会社の就業規則に規定されていなければ無断で行っても問題なしとする判例が、数多く出されているようだ。
副業によるトラブルやリスクは十分考慮したい
だが、そもそも会社に知られずに副業をするなんてことが可能なのだろうか?
「開業届を税務署に届け出て、きちんと個人事業として副業を行う場合、副業分のみ確定申告をし、普通徴収(自分で納付書にて納税)にすれば会社に知られることはありません。会社からは今まで通り給与に関しては特別徴収(給与から天引き)されます。ただ、この部分は毎年のことで手間がかかり、また、欄が小さく見逃しがちなのでかなりの注意が必要。実際には難しいでしょう。ちなみに、副業を別の企業にて行う場合は、会社は年間の給与額を本業の会社同様、各市区町村へ届け出するので、本業の会社にその内訳が通知された際に知られてしまいます」
また、副業を片手間でやることは意外と難しく、本業でどうしても休めない日に副業でトラブルが発生するケースなども考慮しておく必要があるという。
「それにより結局は本業の業務にも支障が出る可能性があるので、副業は行わない方が無難です。副業と言えども、責任がない仕事はありませんから」
さらに、万が一会社側にバレたときには懲戒処分や解雇の対象になるリスクも負う。加えて、就業時間中に副業を行っていた場合や、副業を行ったことで情報漏洩が起こった場合などには、損害賠償請求の対象となる可能性もあるという。たかが副業などと安易な考えで手を出すのは避けたほうがよさそうだ。
たじめ労働法務事務所:http://www.sr-tajime.com/
文●田中コジロー