米国の宇宙企業スペースXは2017年9月7日(日本時間)、米空軍の無人スペースプレーン「X-37B」を載せた「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。X-37Bは今回が5回目の宇宙飛行となるが、これまでに引き続き、そのミッションの内容の多くは謎に包まれている。ファルコン9によるX-37Bの打ち上げは今回が初めて。ファルコン9は第1段機体の着陸にも成功した。一方フロリダ州には超大型ハリケーン「イルマ」が接近中で、今回はその直前での打ち上げとなったが、今後の動きや影響によっては、これからの打ち上げ計画に影響が出る可能性もある。

X-37B OTV-5を搭載したファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

米空軍の無人スペースプレーンX-37B(写真はOTV-4のもの) (C) U.S. Air Force

ファルコン9(Falcon 9)は日本時間9月7日23時ちょうど(米東部夏時間同日10時ちょうど)、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台を離昇した。ロケットは順調に飛行し、約2分26秒後に第1段と第2段を分離した。

第1段はその後、逆噴射しながらUターンするように飛行し、発射台に程近い場所にある第1着陸場(Landing Zone 1)に着陸した。

今回は米空軍のミッションのため、詳しい飛行計画や第2段の飛行の様子は明らかにされなかったが、米空軍やX-37Bを開発したボーイングはその後、「打ち上げは成功した」と発表している。

米空軍の無人スペースプレーン「X-37B」

X-37Bは米空軍が運用する無人の小型スペースプレーンで、地球と低軌道との間を往復でき、宇宙空間でさまざまな実験や新開発の機器の試験をしたり、それを地球に持ち帰ってさらに分析したりといったミッションを行うことができる。

X-37Bは全長8.8m、全高2.9m、翼幅は4.5mで、打ち上げ時の質量は約5トン。1回のミッションあたりの飛行可能日数は270日以上とされる。かつて米国航空宇宙局(NASA)が運用していたスペースシャトルを小さくしたような機体で、機体は耐熱タイルや断熱材に覆われており、小ぶりながら翼ももち、大気圏再突入後に滑空飛行して滑走路に着陸し、何度も再使用することができる。また背中の部分には、実験機器や試験装置などを搭載できる、ピックアップ・トラックの荷台ほどの広さの貨物搭載区画(ペイロード・ベイ)をもつ。

一方で有人宇宙船だったスペースシャトルとは異なり、X-37Bは完全に無人で飛行でき、打ち上げも普通の人工衛星と同じように、ロケットの先端部分に搭載されて行われるといった違いもある。

X-37は1999年に、NASAと米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)の共同計画として始まった。ボーイングの研究開発部門である「ファントム・ワークス」によって開発が進められたが、その後2004年に、政権交代やスペースシャトル「コロンビア」の事故などを受けてNASAの方針が変わり、この計画から手を引くことになった。

そのため一時は計画中止の危機を迎えるが、DARPAに移管され、米空軍の軍用宇宙機としての道を歩むことになった。そして2006年には滑空飛行試験が行われるなど開発が続き、それを踏まえて実際に宇宙を飛ぶ試験機としてX-37Bの開発が決定された。

X-37Bはこれまでに2機が製造され、今回までに4回飛行している。各ミッションは、X-37Bの名前のあとにつけられる「OTV-数字」で呼び分けられている。OTVというのは、Orbital Test Vehicle(軌道試験機)の略で、末尾にはミッションごとに数字がつく。

X-37Bの1号機の最初のミッション「OTV-1」は2010年4月に打ち上げられ、224日にわたって宇宙を飛行した。そして2011年3月に「OTV-2」が打ち上げられ、468日間にわたって飛行。さらに2013年に打ち上げられた「OTV-3」では674日、2015年の「OTV-4」ではさらに記録を更新し、約2年近い717日と20時間42分にわたって宇宙を飛行し続けた。

これらのミッションで、2機のX-37Bのうちどちらが使用されたかは明らかにされていないものの、OTV-1と3では1号機、OTV-2と4では2号機と、代わりばんこに使われた可能性が高く、今回のOTV-5は1号機の3回目のミッションだと考えられる。

ボーイングが公開しているX-37Bの想像図。ただし実機とは細かい部分が異なっていることが判明している (C) Boeing

地球に帰還したX-37B(写真はOTV-4のもの) (C) U.S. Air Force

謎だらけのX-37Bのミッション

計画がDARPAと米空軍に移って以来、X-37計画やX-37Bの詳細は機密の壁の向こうに閉ざされており、これまでの4回のミッションでいったい何が行われたのか、その多くは明らかにされていない。米空軍は「米国の将来の宇宙活動に役立つ、再使用可能な無人のスペースプレーンの実証」、もしくは「実験物を地球に持ち帰ることができる宇宙実験プラットホームとして運用」といった抽象的なことしか語っておらず、宇宙兵器の実験をしているのでは、といったさまざまな憶測を呼んでいる。

しかし前回のOTV-4では、一部ながら、初めて公式にミッションの内容が明らかにされた。それによると、新開発したホール・スラスター(電気推進エンジンのひとつ)の試験と、新しい材料のサンプルを宇宙空間の真空や強い放射線環境にさらす試験を行ったという。ただ、X-37Bのペイロード・ベイの大きさを考えれば、他にもなんらかの機器などを積んでミッションを行った可能性は高い。

またOTV-3までは、すべてカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地に着陸していたが、OTV-4ではケネディ宇宙センターに着陸することになった。ボーイングは2014年に、NASAからスペースシャトルで使っていた整備棟を借り受け、X-37B用に改修しており、今後はケネディ宇宙センターを拠点に運用されることになると考えられている。

ただし、今後ヴァンデンバーグ空軍基地に降りる可能性がなくなったわけではなく、たとえばケネディ宇宙センターが悪天候などで着陸できなくなったり、あるいは軌道やミッションの特性によっては、ヴァンデンバーグを使うこともあるかもしれない。

今回のOTV-5も、ミッション終了時にはケネディ宇宙センターに着陸するはずだが、実際にどうなるかはわからない。

帰還したX-37B OTV-4。後部にある出っ張りの先に白い覆いのある部分がホール・スラスター (C) U.S. Air Force

地球に帰還後、整備棟へ運ばれるX-37B OTV-4。この整備棟はかつてスペースシャトルの整備が行われていた (C) U.S. Air Force