Appleは噂されていたスマートスピーカー「HomePod」を、世界開発者会議「WWDC 2017」で披露した。発売は英語圏のアメリカ、イギリス、オーストラリアで12月からとなっており、価格はアメリカで349ドルとなる。この製品は明らかに、AIスピーカーで先行するAmazonやGoogleに対抗する製品と位置づけられる。もちろんSiriに対応しており、iPhoneやApple TV同様、Siri経由でできる多くのことをHomePodでも行える。しかしAppleは、Siriの搭載については触れたものの、AIスピーカーという打ち出し方はしなかった。

HomePod

AppleはHomePodについて、AIスピーカーというキャラクターの前に、「革新的なホームスピーカー」という音楽の文脈のキャラクターを与えていた。競合のことはともかくとして、Appleにとって解決しなければならない問題がそこにあったからだ。

Appleはデジタルミュージック市場の開拓者だ。Mac向けにiTunesをリリースし、CDからMacに音楽を取り込んで快適に楽しむスタイルを提案した。「Rip, Mix, Burn」というキャッチフレーズを、鮮明に記憶している人は少なくないはずだ。もちろん筆者もその一人である。

そのiTunesの音楽を同期して外に持ち出せるようにしたのが、iPodだ。この製品の大ヒットは、Appleの音楽に関連するデバイスに対して「Pod」という言葉を付けるきっかけにもなっている。イヤフォンジャックを取り去ったiPhone 7との組み合わせに最適としてリリースし、今現在でも品薄状態が続いているワイヤレスヘッドフォン「AirPods」、そして今回の「HomePod」も、iPodから派生するAppleの音楽への取り組みを、名称で示しているのだ。

Tim CookはApple Musicを聴くためのオーディオスピーカーとしてHomePodを紹介

AppleはBeats買収によって「ストリーミング音楽」というビジネスモデルに移行した。先行するSpotifyにはまだまだ追いつかないものの、会員数を順調に増やしている。CDやMDの時代からデジタル音楽のダウンロードへ、ダウンロードからストリーミングへ。Appleは音楽の楽しみ方を変革せしめるべく、その時代その時代で役割を担ってきた。

そうした背景の中で、家の中で音楽を聴く環境が、現在のストリーミング時代にフィットしていない、というのが、Appleが今回解決に乗り出したテーマだ。

確かにAmazon EchoもGoogle Homeもスピーカーを備えており、それぞれの音楽ストリーミングサービスから声で音楽を再生する機能を備えている。しかしながら、実際に2つの製品を試している筆者からすると、いずれも音質については不十分で、小さな携帯型ラジオとは言わないが、ちょっと良いラジカセの音質には届かない、といったレベルだ。

AppleはHomePodを、音質を期待することができる本格的なスピーカーに仕立てて、家の中でも良い音でApple Musicを楽しんでもらう環境を作り出そうとしているのである。