(C) Red Bull Content Pool

6月3日から4日にかけて開催された「レッドブル・エアレース2017千葉大会」。3年連続開催となった同大会で、日本の室屋義秀選手が2年連続優勝、また前回開催地のサンディエゴに続いて2大会連続優勝という「ダブル連覇」を果たした。

前回のサンディエゴ大会で初めてその魅力にはまった筆者にとって、千葉大会はまだ2回目の観戦だが、初めての観戦でも虜になる面白さがそこにはあった。読者の皆さんの中にも見たことがない人の方が多いのではないかと思うが、初心者が見たエアレースの面白さを感じて頂けるよう、レッドブル・エアレース千葉大会の模様をレポートする。

なおレッドブル・エアレースの基本的な競技解説は、前回のサンディエゴ大会のレポート記事に詳しく書いているのでそちらも是非お読みいただきたい

練習から徐々にタイムを詰める室屋選手

1日目の6月3日土曜日は、各選手5分ずつのコース練習が2回と、予選フライトが行われた。予定では金曜にも練習が予定されていたのだが強風で中止となり、この日は全選手にとってぶっつけ本番のコース飛行となった。

いよいよ千葉戦を迎えた3日朝。いつもと変わらぬクールな表情で取材陣のカメラの前に立った (C) 大貫剛

サンディエゴから海を渡り組み立てられた室屋機。メカニック、本番へ向けた最後のチェック (C) 大貫剛

コースの周回に要する時間は1分弱、14名の全選手のタイム差がわずか3秒程度という厳しい戦いでは、一瞬のミスも許されない。1回目の練習ではマット・ホール選手(オーストラリア)が54.823秒、2回目は現在年間ポイント首位のマルティン・ソンカ選手(チェコ)が54.371秒を記録した。室屋選手は慎重にスタートしたのか1回目は57.472秒とふるわなかったが、2回目は55.785秒と徐々にタイムを詰めてきた。

ホームの日本、千葉へ帰ってきた室屋選手。練習とはいえエンジンフルスロットルで、迫力は本番とまったく同じだ (C) 大貫剛

画面下の数字はトップとの差で、左から順にラップタイム、右端がゴールタイムの差。室屋選手は練習1回目は57秒台だったが、2回目は55秒台へと詰めた (C) 大貫剛

ニコラス・イワノフ選手、パイロンヒット! ペナルティも辞さない攻めのフライトも、練習なら試せる (C) 大貫剛

大きなウィングレット(主翼端の突起)を付けたマティアス・ドルダラー選手の機体。急旋回が多い千葉のコースでは有利に働く (C) 大貫剛

千葉大会開始時点で今期総合トップのマルティン・ソンカ選手は54.371秒のコースレコードを叩き出した (C) 大貫剛

続く予選では、順位が悪くても本戦に進出できないわけではないが、練習ではない「本気」のタイムを見せることになる。ここで室屋選手は今日初の54秒台となる54.933秒を記録。予選トップのピート・マクロード選手(カナダ)の54.609秒と0.319秒差の4位につけた。しかし、8位のピーター・ポドランセック選手(スロベニア)までがトップと1秒以内という接戦だ。

予選トップの54.609秒を記録したピート・マクロード選手 (C) 大貫剛

デッキチェアが並ぶデラックスエリアには「室屋応援シート」も設けられた。室屋選手は0.319秒差の4位 (C) 大貫剛

陽が傾く中、予選最後を締めくくったのはマルティン・ソンカ選手。ライバル室屋選手と0.005秒差の3位 (C) 大貫剛

笑顔で今日のフライトを振り返る室屋選手 (C) 大貫剛

予選トップのマクロード選手(右)、2位のドルダラー選手(中)、そして地元の室屋選手。3人の予選タイムはわずか0.3秒しか離れていない (C) 大貫剛

予選後の記者会見で室屋選手は「日本のファンは桁違いに多い。そこで飛べることはとても幸せで、ビーチに大勢のファンがいるのが見えて気合が入った。勝つための準備をしてきたし、勝てるだけの能力が揃ってきた。本当に僅差の中で、勝てるかどうかは女神に微笑まれるか、もあるが、ベストを尽くせばチャンスは充分ある」と語り、明日へ。

大接戦! 70cm差で1回戦「ラウンド・オブ・14」突破

2日目は3回戦からなる本戦が行われる。1回戦は、14名の選手が7組に分かれ、2名が一騎打ちで勝負する「ラウンド・オブ・14」だ。組み合わせは予選の順位で決定される。予選4位の室屋選手は2組目の後発。先発は11位のペトル・コプシュタイン選手(チェコ)だ。

滑走路へと移動するマイケル・グーリアン機。1人が手で押せるほど軽い (C) 大貫剛

新浦安の仮設飛行場から見た幕張。エアパイロンがはっきりと見える (C) 大貫剛

エリック・ウルフ レッドブルエアレース社長「スモークはパイロットが競技をスタートする決意表明でもあります。さあ、スモーク・オン!」 (C) 大貫剛

これに勝利した7名と、敗者のうち最も良いタイムを出した「ファーステスト・ルーザー」の計8名が勝ち残る。予選と異なり、負けた選手はこの時点で脱落し、タイム順に9位から14位が決定してしまう。勝つためには速く飛ばなければならないが、攻め過ぎてペナルティを受けても敗退するため、必ずしも速い方が勝つとは限らない。

ラウンド・オブ・14で室屋選手と対決する先手、ペトル・コプシュタイン選手のタイムは55.597秒 (C) 大貫剛

先に飛んだコプシュタイン選手のタイムは55.597秒と、室屋選手の予選タイムよりは遅かった。今朝「同じように飛ぶ」と室屋選手が語ったのを思い出す。ところが室屋選手のフライトが始まると、中間タイムがほんの0.1秒前後、コプシュタイン選手より遅い。まさか千葉で1回戦敗退? 絶叫で応援する観客の前に表示されたゴール時間差の速報値は、なんと「0.00」の同着! これはどうなるのか? と息を呑んで見守ると、表示は室屋選手の勝利に変わった。タイムは55.590秒。わずか0.007秒、距離にして約70cmの差でしかない。大接戦の勝利に、観客席は大歓声に包まれた。

スモーク・オン! 室屋選手のラップタイムはコプシュタイン選手とほぼ同じ。ゴールタイム差は0.00秒と表示されたが、正確には55.590秒で0.007秒差で室屋選手の辛勝 (C) 大貫剛

しかも、7組のフライトが終わってみると、コプシュタイン選手は「ファーステスト・ルーザー」として勝ち残っていた。両者2回戦進出という高度な戦いだったわけだ。なお「ラウンド・オブ・14」の最速タイムはソンカ選手の54.787秒。