初日の基調講演のテーマは、「WatsonとIBMクラウドで経営変革に挑む」で、コグニティブビジネスが実装段階に入ったことを受けて、企業経営者やビジネスリーダーに対して、IBM WatsonとIBMクラウドを活用することで、経営課題を解決する実践的な情報を提供する場に位置づけた。

ゲストとして最初に登壇したソフトバンクの宮内謙社長兼CEOは、「私は、自称『Watsonジュニア』。それくらいの意気込みでWatsonに取り組んできた。ソフトバンクグループでは、コンタクトセンターに年間8000万件の問い合わせがあり、1件あたり10分の対応時間がかかっている。過去9カ月間に4万5500件のデータをWatsonに読み込ませ、このデータを活用することで、平均対応時間を15%削減した。今後も、毎月5000件ずつのデータを追加する予定であり、近い将来には対応時間を半分にまで短縮できると考えている。コンタクトセンターは、現在、6000ブースあるが、2年後には2000ブースで済むだろう。つまり、4000ブースをWatsonが担当してくれることになる。しかも、数カ月前には、78%の回答精度だったものが、いまは94.3%にまであがっている。これからの精度アップによって、対応時間も短くなり、横展開もできるようになる。今年6月からは、ショップでの活用を開始する予定であり、その後には、ウェブやSNSでも活用することになる。Watsonのナレッジは横展開ができる。新たな技術は、早くやった方が勝つ。早くWatsonを使うことをお勧めたい。先にやって蓄積したものが他社との大きな差別化になる」と語った。

ソフトバンク 代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏氏

過去9カ月間に4万5500件のデータをWatsonに読み込ませ、このデータを活用することで平均対応時間を15%削減。近い将来には対応時間を半分にまで短縮するという

ソフトバンクでは、ネットワークに障害が発生した際の保守対応を開始するまでの時間を10分の1に短縮したことや、法人営業部門において、業務サポートを行うチャットボットを開発中であることなども紹介。

「なにかあったらAIを活用しようという考え方や、社員自らがAIを活用すること、現場が痛みを解決するためにAI活用のアイデアを出すことが大切である。これからの10年はAIの時代がやってくる。既存の概念を変えた方がいい。10%の改善やコストダウンを目指すのではなく、半分に削減したり、10分の1に縮小することができるということを考えるべきだ。AIを傍観するのか、一歩踏み出すのかを考えてほしい」とした。

続いて登壇した東日本旅客鉄道 取締役副会長の小縣方樹氏は、「いま、交通業界には100年に一度の波が訪れている。自動運転が始まり、カーシェアリングも広がっている。これに伴って、鉄道事業もイノベーションをしなくてはならない。顧客志向をさらに高めることも大切である。既存交通機関との連携や新たなモビリティとの連携も必要であり、ICTを活用することで交通機関の乗り換え時間を短縮するなど、トータル移動時間の短縮も目指したい。私はこれをSTTTモデルと呼んでいる」と発言。

「バイオやAIなどを活用して、高度な科学技術を用いたサービスや事業のシステム化が進む一方で、朝起きたら、まったく違うプレーヤーと戦う環境になるということも考えておかなくてはならない」などとした。

東日本旅客鉄道 取締役副会長の小縣方樹氏

また、「鉄道とICTは相性がいい。山手線を走っている235系は、常に線路などの状況をモニタリングして、これまでは一定期間で行っていたメンテナンスを、コンデイションを優先したメンテナンスへと変更。検査用車両ではなく、営業車を使って検査することで、故障を未然に防止できるようになった。さらに、JR東日本のコールセンターでは、1日に4万4300件もの問い合わせがあるが、運賃や料金、列車時刻などのほか、忘れ物、旅行商品、他の鉄道会社に関する問い合わせなどもあり、内容は多岐に渡る。ICTを活用することで問い合わせを減らすこと、1件あたりの応答時間を短縮することも大切である。現在、定期券の購入において、窓口にWatsonを試行的に採用している。交通業界に訪れている100年に一度となるこの波は、簡単には乗り越えられないと考えているが、IBMなどと手を組むことや、オープンイノベーションを活用することで乗り越えたい」と語った。