近畿大学、吉本興業、オムロン、西日本電信電話(NTT西日本)は15日、「笑い」の医学的検証および身体・メンタルヘルスに与える効果を解明する目的で、共同研究を行うことを発表した。うつ病など精神疾患の治療のみならず、健常者のストレスマネジメントに活かすための方策を探る見込みだ。
新喜劇を見た観客の「笑い」をデータ化
15日に開始された初回試験では、各段階約20人の健常な成人男女を対象とし、2週間に1回の間隔で、定期的に「吉本新喜劇」や「漫才」の鑑賞を実施する。鑑賞の前後では心理テストを行うほか、鑑賞中は顔の表情の変化データやバイタルデータを取得する。
顔の表情のデータ測定には、オムロンのヒューマンビジョンコンポ(HVC-P2)を利用。心拍数などのバイタルデータ測定に関しては、NTT西日本の技術協力を受ける。バイタルデータの取得について、2016年に行われたイベント「スマート光お笑い劇場」での前例があり、その時と同様、客席側にセンサ・カメラを設置。被験者に器具装着に伴う緊張を与えない状態でデータ取得が可能だとしている。
まだ解明されていない「笑い」の効果に迫る
近畿大学 医学部 内科学教室 心理内科部門 小山敦子教授は、「笑いはストレス解消、健康にいい」などの言説こそあれ、まだ研究が十分に進められているとは言いがたいと語る。PubMedの検索結果を例に挙げ、「治療」や「うつ」といったキーワードに比べ、「笑い」を取り上げた論文は極端に少ないと示した。
同研究の運用を手がける近畿大学 医学部 内科学教室 心理内科部門の坂本亮助教は、「先行研究では腹筋を使った大きな呼吸を伴う動作を『笑い』と定義しているが、(『笑い』は画一的なものでないため)客観的な評価が難しい。まずはこの研究の結果で取得した表情・バイタルデータや心理テストの結果と(被験者の)習慣の変化を見た上で、血液データも用いて検証を進めたい」とした。
応援芸人として駆けつけた面々。左からピン芸人・ゆりあんレトリィバァ、兄弟漫才コンビ「ミキ」(亜生、昴生)、諸見里大介、吉田裕 |
ゆりあんレトリィバァのネタに爆笑する小山教授。反応の大きさからか、一時システムがフリーズするアクシデントも |
「『笑い』の種類は文化の違いや個人の性質などによって変化するため、まずは分類から進めたい」と語った小山教授は、会見の中でシステムを利用したバイタルデータ取得の被験者にもなり、よしもと芸人のネタに終始笑みを浮かべていた。システム上でも「笑い」のデータは順調に取得されていたが、ゆりやんレトリィバァの体を張ったネタの際は一時呼吸が止まり心拍数が急上昇するなど、「笑い」の種類を複数の指標で示す方法を実演した。
笑いをストレスマネジメントに活用
なお、今回行ったようなお笑い鑑賞を伴う試験は合計4回実施予定で、各試験の結果報告は開始から約1年後を予定。当初は健常者を被験者とした試験を行うが、2018年10月より患者向けの試験を実施予定。2021年1月の実用化をめざし、順次臨床研究などを行う予定となっている。研究方針は以下の通り。
(1)「笑い」が身体や心理的健康に与える効果について明らかにする
(2)「笑い」の測定方法の開発
(3)「笑い」介入後の疾病発症率や生活習慣の変化といった「笑い」の有効性の調査
実用案について、現段階では「近畿大学附属病院での「笑い」のストレスマネジメントプログラム導入」、「『笑い』を活用した、企業でのストレスマネジメント研修」、「ICTを活用した遠隔での、お笑いによるストレスマネジメントの提供」といったものが想定されている。