ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは12月1日(日本時間)、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を補給する「プログレスMS-04」補給船を搭載した「ソユーズU」ロケットの打ち上げに失敗した。ロケットと補給船は地球に墜落したものの、大半は大気圏で燃え尽き、被害の報告は出ていない。またこの失敗によるISSの運用や、滞在中の宇宙飛行士への影響もないという。

打ち上げ準備中のソユーズUロケット (C) Roskosmos

打ち上げに失敗したソユーズUに搭載されていたプログレスMS-04補給船 (C) Roskosmos

プログレスMS-04を搭載したソユーズUは、日本時間12月1日23時52分(現地時間12月1日20時52分)、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地にある第1発射台から離昇した。ソユーズUは打ち上げから約9分後に、地球の周囲を回る軌道に入り、プログレスMS-04を投入する予定だった。

しかし打ち上げから383秒後、ソユーズUの第3段エンジンの燃焼中に何らかの問題が発生し、墜落したという。

問題が起きたのはトゥヴァ共和国の上空190kmを飛行中のときで、ロケットや補給船はそのまま落下をはじめ、同国上空で大気圏に再突入したという。実際、現地では上空で何らかの爆発のような現象が起こったことが目撃されており、大きな火の玉のようなものが写っている写真もSNSなどで出回っている。

ロスコスモスによると、ロケットと補給船の機体の大部分は再突入時の熱で燃えたとしているが、いくつかの破片が同国に落下したという情報もある。ただし、落下場所は人の住んでいない地域だったため、今のところ被害などの報告は出ていない。また部品の分析や回収などのため、関係者らがヘリコプターで現地へ向かったものの、悪天候のため近づけないという。

プログレスMS-04には、水や食料、生活必需品、実験装置など、約2442kgの補給物資が搭載されていた。ただロスコスモス、米国航空宇宙局(NASA)によると、この打ち上げ失敗によるISSの運用や、滞在中の6人の宇宙飛行士への影響はないとしている。

また物資の中には、新型の船外活動用の宇宙服「アルラーンMKS」や、新開発の水・尿再生システムの実験機など、今後の有人宇宙活動につながる重要な物資も搭載されており、開発や試験にかかわる関係者らにとっては大きな痛手となった。

プログレスMS-04を搭載したソユーズUロケットの打ち上げ (C) Roskosmos

ソユーズUロケットの飛行プロファイル。図の中のThird Stage(第3段)の燃焼中に問題が起きた (C) NASA

問題はロケットの第3段で起きたか

ロスコスモスによると、打ち上げから382秒までは正常に飛行を続けていたものの、その後(383秒~)にテレメトリー(機体の状態を示す信号)が途絶えたとしている。

この時点では、ソユーズUは第3段エンジンが燃焼中で、また計画された燃焼時間の半分にも達していないため、軌道速度は出ていない。そのため、もしテレメトリーが途切れたタイミングと同時にエンジンも止まった場合、今回のようにロケットは補給船と共に地球へ落下することになる。

ロスコスモスではすでに、調査委員会を立ち上げ、事故の分析を開始したとしている。

また、ソユーズUは、有人宇宙船「ソユーズ」を打ち上げている「ソユーズFG」ロケットと同系統の機体なため、事故調査の進展によっては、今後のソユーズ宇宙船の打ち上げに遅れが出る可能性もある。

なお、有人関連以外の打ち上げにも影響が出る可能性はあるものの、プログレスやソユーズ以外の人工衛星を主に打ち上げているのは、ソユーズUやソユーズFGよりも新しい「ソユーズ2」というロケットで、第3段の構造や、ものによってはエンジンそのものがまったく異なるため、影響を受けないものもあるだろう。

問題を起こしたと考えられているソユーズUロケットの第3段機体(右半分、左半分はプログレスMS-04が収められたフェアリング) (C) RKK Energiya

プログレス補給船の事故は3回目

今回の事故で、プログレス補給船の打ち上げ失敗は3回目となった。

1回目は2011年に起きた「プログレスM-12M」の失敗で、打ち上げから325秒後、ソユーズUの第3段燃焼中に問題が起き、墜落した。今回の事故と良く似ているものの、このときはまずコンピューターがエンジンの異常を検知し、自動で停止させた結果の失敗であり、テレメトリーが突然途切れたとする今回とは状況が異なっている。なお、このときの原因は、第3段エンジンの配管に異物が入り、エンジンが異常を起こしたものと結論付けられている。

2回目は2015年に起きた「プログレスM-27M」の失敗で、このときは分離の直前にロケットに異常が起き、それによってプログレスM-27Mが損傷した。地球周回軌道には乗ったものの、損傷を受けたことで正常に動作せず、復旧が試みられたものの、機能は回復せずに運用を断念。その後、大気との抵抗で徐々に高度が下がり、最終的には大気圏に再突入し、燃え尽きている。

その後の調査で、打ち上げに使われた新型の「ソユーズ2.1a」ロケットとプログレスM-M型の補給船とを組み合わせた条件でのみ発生する振動によって破壊されたことが判明。また、両者を組み合わせた状態での地上試験が不十分で、事前に問題を見つけることができなかったことも明らかにされている。

今回の事故は、ソユーズ2.1aよりも一世代古い、ソユーズUの打ち上げで発生した。ソユーズU前述のプログレスM-12Mをはじめ、何度か失敗は起こしているものの、1970年代から多数の人工衛星を打ち上げている。そのため設計上の問題ではなく、製造上の問題である可能性が高い。

ただ、ソユーズUを使ったプログレスMS型の補給船の打ち上げは、今年7月のプログレスMS-03の打ち上げに続き、今回でまだ2回目であり、プログレスM-27Mのときのように、ソユーズUとプログレスMSとの組み合わせでのみ発生しうる問題である可能性もあろう。

ISSの運用に影響なし、9日には日本の「こうのとり」が打ち上げ

今回の事故を受けて、ロスコスモスやNASAは、この打ち上げ失敗によるISSの運用や、現在滞在中の宇宙飛行士への影響はないとの声明を出している。

もともとISSでは、今回のような補給船の打ち上げ失敗に備えて、補給物資の備蓄があり、当面のあいだは通常の運用に支障が出ないようになっている。

また今月9日には、日本の補給機「こうのとり」6号機の打ち上げも予定されており、今回の失敗で、図らずもその重要性がより高まることになった。「こうのとり」6号機が無事にISSへ物資補給できれば、さらに運用の余裕が生まれることになる。また来年1月にはスペースXの「ドラゴン」補給船、3月にはオービタルATKの「シグナス」補給船の打ち上げも予定されている。

万が一、「こうのとり」をはじめ、今後の補給船の打ち上げがことごとく失敗した場合でも、ISSには常に緊急帰還用のソユーズ宇宙船が係留されているため、ISSを一時的に手放すことにはなるものの、宇宙飛行士の命だけは失われることがないようになっている。

打ち上げ準備中の「こうのとり」6号機。今回のプログレスの失敗で、図らずもその重要性がより高まることになった (C) JAXA

【参考】

・http://www.roscosmos.ru/22995/
・http://www.roscosmos.ru/22996/
・Anomaly During Third Stage Operation in Russian Cargo Craft | Space Station
 https://blogs.nasa.gov/spacestation/2016/12/01/anomaly-during-third-stage-operation-in-russian-cargo-craft/
・Progress MS-04 fails to reach orbit
 http://www.russianspaceweb.com/progress-ms-04.html
・Russian Cargo Resupply Craft Lost in Soyuz Launch Failure, Debris fall in South Siberia - Progress MS-04 | Spaceflight101
 http://spaceflight101.com/progress-ms-04/progress-ms-04-lost-soyuz-launch-failure/