2012年6月にSP番組として産声を上げ、2013年1月にレギュラー化されたテレビ東京のドキュメントバラエティ番組『YOUは何しに日本へ?』(毎週月曜 18:55~)が好調だ。成田空港で出会った外国人(YOU)に突撃インタビューを行い、面白かったYOUには密着取材をする一寸先が全く読めない同番組のスタイルは視聴者からの支持を集め、このほどDVDが発売された。時代の波に背中を押された同番組スタッフたちの思いとは? そして、"素人もの"が人気のテレビ界の現状をどう見ているのか? 同DVDにも収録されている日本縦断自転車旅「マーティン編」を担当した森辰雄ディレクターに話を伺った――。

森辰雄ディレクター

――ついに『YOUは何しに日本へ?』のDVDが発売されました。森さんがディレクターとして担当された、自転車で日本中を旅する伝説のYOU・ドイツ人のマーティンさんの回も収録されています。ちなみにマーティンさんはその日、成田空港で何人目にインタビューされたYOUなのでしょうか?

何人目かはちょっと覚えてないんですけど(笑)。空港で彼を見つけた瞬間は覚えていますね。スーツケースなんかをガラガラと引っ張っている人が多い中、彼はカバンがたった一個。さらになんか「明らかに間違ってるなこの人(笑)」と思わせる日本のキャラクターによく似たキャラがプリントされた変な黒いTシャツを着ていたこともあって気になって(笑)。「声をかけてみよう」って感じがありました。

――その後、"(東京の)青山"へ行くと言っていたはずのマーティンさんが「実は"(東北の)青森"の覚え間違いだった」と激白してから伝説の自転車旅が始まります。あまりによく出来た笑い話なのですが(笑)、あれもガチだったのですか?

本当にビックリしましたよ。さらには飛行機とか新幹線で行けばいいのに、その場で「鈍行で行く」と言われて(笑)。「マジか!?」と(笑)。それを聞いて「今から青森か…」「カメラマンや通訳さんの手配はどうしよう」と悩みながら仕方なく、ひとりでマーティンに着いて行ったのですが、僕は英語が流暢なわけではない。カメラも自分で回していたので、青森ロケの途中で急きょテレビ東京に電話して「僕ひとりじゃ辛すぎます」と応援を呼びました。孤独との戦いでしたね(笑)。

青森から、日本海側を自転車で日本縦断するために来日したドイツ人のマーティン。40年前に流行った5段変速ギア付きの愛車「ダブルフロントライト」とともに日本中を旅した

――それから「伝説」と呼ばれる自転車旅が始まります。放送されているシーン以外にも何かエピソードはあったのですか?

今回のDVDの特典映像に入れさせてもらっているものです。僕たちはマーティンの自転車の旅に追走させてもらって撮影していたのですが、放送で見ると単純に外国人が自転車に乗っているだけの映像になってしまうという判断でカットされたもの(笑)。今回は敢えてそちらも入れさせてもらっています。

――ほかにカメラが回っていないところで印象的だったことは?

彼が日本を去るときに、彼は自分の愛車「ダブルフロントライト」を僕にくれました。本当は彼も日本に友達がいて、その友達にあげるかなど悩んでいた時期もあったようなのですが結局、軽いノリで僕に譲ってくれたんです。その1年後、僕がその「ダブルフロントライト」を彼のいるドイツに届けに行くのですが、カメラが回っている中でも感謝してくれましたけど、回ってないところでも、ただ僕が彼を喜ばせたいという部分を超えて「やっぱり君にあげてよかった」と言ってくれました。「君にあげたから、愛車がちゃんとドイツに来てくれた」って。壊さずに持っていくことは大変でしたが、持って行って良かったですね。また、彼の友達とバーベキューもしたのですが「撮影はやめて一緒に楽しもうよ」と。日本旅の時から彼はこのセリフを言っていたのですが、その時は一緒に飲み始めてしまいました(笑)。

――カメラが回っていないところでも当然、交流があるわけですね

むしろ 、僕らにとってはその時間が重要で。話しているうちに人となりや家族構成なども分かってきますし、例えばバーベキューの時はサプライズで、マーティンが日本で出会った人たちからのメッセージを撮影して持って行っていたんです。ですから、飲んで話している間に、思い出してもらえるように軽いジャブを(笑)。

――なるほど(笑)。ほかにどんな話をしたんですか?

マーティンが「ダブルフロントライト」を青森の中村輪業さんで買ったとき、学生カバンが入る横のカゴを中村さんが無料でつけてあげようとしたんですね。ですが彼は断った。理由は「カッコ悪いから」 (笑)。そのあたりにも彼なりのこだわりがあって好き嫌いもハッキリした楽観的な人物なのですが、ドイツで再会した時は「旅にあれがあったら物も入れられるし、めちゃめちゃ便利だった」って後悔していました(笑)。僕も中村さんのところへメッセージビデオを撮影に行ったときに「あのカゴは置いてありますか?」と聞いたのですが、「もう捨てちゃったよ」と言われて……。

――番組とマーティンさんの出会い同様、まさに"一期一会"の品だった。

ええ。彼はいつも妙なところで自身のこだわりを見せるので。日本旅でも別のTシャツも持って来ていたのですが、あの変な黒いTシャツは、彼にとって「ここぞ」というときのTシャツだったり。僕たちにとってはどうでもよく見えるのですが(笑)。その後、僕は彼がロシア人の彼女とロシアで開催した結婚パーティーにも呼んでいただけました。そこにもカメラを持って行ったのですが、もし上司から「そこへ行っても何も撮れないでしょ?」と言われたら自腹で行くつもりでした。彼は恩人ですし、大切な友人でもあります。

――自腹を切るロケもあるのですか!?

それはさすがにありません(笑)。上司から「マーティンだったら面白いものが撮れそう」と言ってもらえてガッツポーズでしたね(笑)。その結婚式の様子もDVDの後半に少し入れさせてももらっています。この後も彼とは現在も連絡を取り合っていますし、新しいチャレンジでドイツから自動車でユーラシア大陸を横断して日本まで来るという彼の夢にも参加させてもらっています。成田空港での「なんか変なTシャツ着てるな」という思いから始まった出会い。それがここまでの不思議な広がりを見せていることを感慨深く思っています。