2010年にスタートした『闇金ウシジマくん』実写シリーズが、ドラマ『闇金ウシジマくん Season3』(7月18日~9月19日MBS・TBSほか)を経て、『闇金ウシジマくん Part3』(公開中)、『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』(公開中)の2部作連続公開でフィナーレを迎える。

山田孝之演じる丑嶋馨のライバルで、闇金融・ライノーローンの女経営者を怪演する女優・高橋メアリージュン(28)。『Part2』(14年)で誕生したオリジナルキャラをオーディションで勝ち取り、ドMの部下・村井(マキタスポーツ)をど突き回しながらの取り立てはシリーズでもすっかりおなじみだ。

しかし……。完結してしまえば、もうあの狂ったような金切り声を聞くこともない。短期インタビュー連載「高橋メアリージュン、『闇金ウシジマくん』凶暴闇金・犀原茜の怪演記録と別れ」の最終回となる第3回は、『闇金ウシジマくん』シリーズ全作品を手掛け、「犀原茜の生みの親」でもある山口雅俊監督。スピンオフの可能性も探るべく、犀原茜ゴリ推しでインタビューを進めた。

高橋メアリージュンが演じた犀原茜

キャスティングが難航した時の2つの手段

――今回の取材は「犀原茜」のことのみうかがいます。今から2年前に公開された『闇金ウシジマくん Part2』の試写で、犀原をひと目見てから虜になってしまいました。原作の「滑皮」がベースになっているそうですね。

Part2で愛沢(中尾明慶)がトラックに飛び込むシーンを撮りたいと思って、そのためには飛び込ませるだけの説得力のある存在が必要でした。原作の滑皮は男で、若琥会若琥一家二代目猪背組の幹部候補生。当初はその役でキャスティングを進めていたのですが、どうもピンとこなかった。キャスティングが難航した時に性別を変えてみるのはよくあることなのですが、原作キャラにとってはあまり良いことではありません。一方で、選べる対象は広がる。

そんな経緯でとにかく女性を探すことになるわけですが、ここでもピンとこなかった(笑)。犀原のキャスティングには、2つの方法がありました。1つは、そんな役を演じるなんて夢にも思わない役者の起用。そしてもう1つは、あまり知られていない役者の抜てきです。結局はそのどちらでも決まらないまま、撮影がスタートしてしまいました。

山口雅俊監督 撮影:ヤマシタチカコ

そして、マサル(菅田将暉)がピストルで丑嶋を襲撃するラストシーンの撮影日、場所は北新宿あたりだったと思います。撮影場所近くの公園にキャスティング候補の1人、高橋メアリージュンを呼んでやらせてみました。僕が何も言わずに立ち去ったので、メアリーは「落ちた」と思ったそうで(笑)。こちらとしては「なんとかなるかも」と前向きに考えていたのですけど。

ただ、まだ何かが足りないとも思っていて。当時のメアリーは一般的にはまだまだ知られていない女優。彼女なら犀原を成立させられるかもしれないと期待して、今度はスタジオに呼んで本読みをしてもらいました。ただ、ドスの利いたセリフだけだと犀原は成立しない。そこで、犀原を「突然怒鳴る女」にしようと思いついて、まずはそこを理解してもらいました。

キャラクターは内面と外面、両方から決めていくわけですが、外面から決めていくところで、1つのカタチが「突然怒鳴る女」。そこを設けたところで、ようやく「犀原茜」というキャラクターが浮かび上がってきたんです。

なぜ腕にネクタイを撒いているのか

――スタジオ本読みの時点で手応えがあったわけですね。

そこまでの確信は持てませんでした。なんとかいけるだろう、そんな感じです。その時点では「犀原茜」が物語にどれだけ重要なキャラクターになるのかは未知数。ただ丑嶋と拮抗するのは犀原しかいないと思ってはいました。

「アウトローの女」は、体のラインが目立つ服装だったり、わりと派手な外見だったり偏りがち。あえてそれを避けるために、男物の靴のカカトを踏み潰し、大きめの黒パンツに上着は男物の白シャツ。僕としては最初からメアリーに確信があったわけではなくて、「なんとか凌げるかもしれない」が出発点。山田孝之くん演じる丑嶋のライバル的な存在にするには「凌げる」ではダメなので、さらに外見の要素を埋めていきました。

役者はそれだけで動けるものではないので、ゲーテの言葉「涙とともにパンを食べた者でなければ、人生の本当の味はわからない」を役の内面の拠り所としました。かつて山田くんも出演し、僕がプロデュースしたドラマ『ランチの女王』(02年)でも、この言葉を引用しました。食事をしながら泣くということは、人生の大切な局面……そこには深い哀しみがあります。それを知っているのが犀原茜です。

黒パンツに白シャツ。このシンプルな服装では色彩にも乏しくその内面性にもつながらないので、腕には多彩な色のネクタイを巻くことにしました。それはおそらく何かの形見だろうと。そうやって、内面と外面から「犀原茜」を形作っていきました。『ザ・ファイナル』では、なぜネクタイを巻くことになったのか明らかになります。丑嶋のルーツに触れると同時に、犀原はそこに深く関わるほどのキャラクターへと成長していったのです。

――当然、その時点では『ザ・ファイナル』を想定していなかった。

そうですね。外からの色味をつけようとした時に、犀原が泣きながらクローゼットからネクタイを取り出して巻いている姿がなんとなく浮かびました。